中国国内で知人の知り合いの家で話した時のことである。私が八卦掌を練習していると言うとその知り合いに驚かれた。私の八卦掌の師は太極拳で有名であるが、八卦掌をやっていたことは知らなかったというのである。(ちなみに私の師が最初に練習したのは実は八卦掌だそうである。)
彼は武術はやらないが、また、私になぜ使い物にならないような中国武術をやったのかと聞いてきた。日本には優れた武道がたくさんあるじゃないか、中国武術は映画で派手なアクションばかりで、実際には使い物にならないじゃないかと言うのだ。
私はそれは最近の表演舞術で、伝統武術は日本の武道など比較にならないほどの実力があると説明した。ただ、身につけるのが容易でないと。
すると、彼は彼の細君が太極拳に最近凝っている話をした。彼の細君は主に健康のために90才の先生から太極拳を習っているのだそうだ。ところが、その先生は実は本来は知られざる少林拳の達人だと言う。しかし、その先生の技術を引き継ぐ者は一人もなく、技術は失伝してしまうとその細君は言っていたと言うことを思い出したというのだ。細君はもちろん少林拳などやるタイプでないし、先生ももう歳であるから、どうしようもないと言っていたそうだ。
私がもったいないと言う話をすると、今の中国人はそういうものには全く興味がない。彼自身を含めて、今の中国人は経済活動に熱心なのであって、そういう文化が消えゆくことを悲しいとも思っていないとのことだった。
ある中国武術の先生が残した言葉に、「中国武術を習うのに、中国人が外国に行かなくてはならない時代が来てしまうだろう。」と言うのがあるが、本当にそうなのかもしれないと思った。