CPU黒歴史第6弾は、インテルの「XScale」である。こちらは技術的というよりも、政治的な理由で放棄されてしまったプロセッサーだ。そのXScaleの前身にあたるのが、「StrongARM」と呼ばれるプロセッサーである。まずはこちらの話から始めよう。
ARMとDECが共同開発
特許訴訟でインテルに買われたStrongARM
時は1995年。ARMとDEC(Digital Equipment)は共同で、新プロセッサーの開発プロジェクトを開始した。ARMは省電力で比較的素性のよいコアのIP(知的財産)を持っていたものの、高速化・高性能化に関しては今一歩であった、他方でDECは高速なプロセッサーに関する技術は十分に持っていたものの、小型機器に利用できるプロセッサーは持ち合わせていなかった。
そこでARMの持つプロセッサーIPを、DECの技術で高性能化しよう、というのがこの共同プロジェクトであった。ハーバードアーキテクチャー(命令キャッシュとデータキャッシュの分離)やパイプライン構造の導入など、さまざまな改良を施したものが、最終的にStrongARMとして世に出た。一方ARMはこのStrongARMで導入された技術を、後に同社のアーキテクチャーに応用することで性能改善を実現する。
DECはその後、StrongARMベースの製品「SA-110」を1996年に発表。これをさらに改良した「SA-1100」が1997年。その改良版(SDRAMをサポート)の「SA-1110」を1999年に発表する。このStrongARMシリーズは0.35μmプロセスで製造され、動作周波数はおおむね200MHz前後だった。またSA-1110の派生型として、STB(Set Top Box)向けに「SA-1500」という製品も開発され、こちらはやや高速な最大300MHz動作を狙っていた。
StrongARMの命令セットは「ARM v4」に属し、競合製品は「ARM9TDMI」系の「ARM926EJ-S」や「ARM946E-S」になる。ただし、これらはより微細化した0.18μm~90nmあたりのプロセスになって、ようやく200MHzを超えることが可能になったというレベル。0.35μm~0.25μmプロセスでは、100MHz台でしか動作しなかった。そのためStrongARMは、高速なARMプロセッサーとしてPDAなどに広く利用されることになった。
ところがそのStrongARMは、特許訴訟の結果としてインテルの手に渡る。1997年5月にDECは、インテルを相手に「CPU関連の特許侵害があった」として提訴するが、同年10月には和解する(関連リンク)。その和解条件は、インテルが7億ドルを払ってDECの半導体工場(ファブ)を買収するとともに、「Alpha」以外の全半導体の製造・販売の権利を得る、というものであった。
ぶっちゃけて言えば、当時DECが持っていたファブは決して最先端とは言えなかったし、歩留まりも低いので、7億ドルの価値があるかというと極めて微妙であった。ただしDECが持っていた特許の効力は非常に大きく(特に「804特許」と称されるUS Patent 4,847,804)、インテルはクロスライセンスの形で許諾を得えないと、「Pentium」~「Pentium II」という当時のほぼすべてのCPUが販売できなくなる恐れがあった。結局のところ、これらの特許のクロスライセンスを受けるために、7億ドルも払ってDECのファブを引き取る羽目になった、というのが正しい見方であろう。
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