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製造業や物流業の変革に挑む起業家を支援。知財専門家との交流がスタートアップ支援にも生きる : - ASCII STARTUP

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製造業や物流業の変革に挑む起業家を支援。知財専門家との交流がスタートアップ支援にも生きる

IDATEN Ventures 代表パートナー 足立 健太氏 インタビュー

特集
STARTUP×知財戦略

この記事は、特許庁の知財とスタートアップに関するコミュニティサイト「IP BASE」に掲載されている記事の転載です。

 IDATEN Venturesは、「ものづくり・ものはこび」の変革をリードするスタートアップへの投資に特化したベンチャーキャピタルだ。創業者であり代表パートナーの足立健太氏は、知財アクセラレーションプログラム「IPAS」やPlug and Play Japanのビジネスメンターとしても活動し、積極的にスタートアップ支援を行っている。創業の背景や投資ポリシー、そして投資家としての知財に対する考え方について足立氏にお話を伺った。

IDATEN Ventures 代表パートナー
足立 健太(あだち・けんた)氏
早稲田大学理工学部および同大学院理工学研究科卒業、理学修士。 専攻は物理学。 大学院在学中にスタートアップ企業の役員を歴任後、株式会社リクルートに入社。営業・商品企画・経営企画を経てグローバルM&Aを担当する。その後、KPMGグループ、スタートアップ経営、Mistletoe株式会社を経て、2017年にキャピタリストとして独立し、IDATEN Venturesを組成。知財アクセラレータープログラム「IPAS」、Plug and Play Japan、みずほ銀行主催M'sサロン等のメンターを担当し、積極的にスタートアップ・エコシステムをけん引している。

「ものづくり・ものはこび」を革新する技術や企業を支援

 IDATEN Venturesは、製造業や物流業向けの技術・サービスを開発しているスタートアップへの投資に特化したベンチャーキャピタルファンドを運営している。スタートアップへの投資というとIT系が多い中で、製造・物流に注目したVCファンドは珍しい。

「事業にスピード感のあるSaaSなどへ投資するのは、VCとして正しいあり方です。その一方で、最近は大学発のディープテック企業への投資も増えてきています。しかし、そのどちらにも属さないような『ものづくりやものはこび』を支える技術・サービスなど、生活に身近な産業を支える部分が足りていないと感じていました。ならば、自分でやってみようとスタートしました。対象ステージは、シード期のスタートアップ企業です。ある程度の結果が出れば、ほかの投資家も投資しやすくなるので、そこまで一緒にがんばって成長させるのが役割です」と足立氏。

 その思いは「IDATEN(韋駄天)」というファンドの名前にも表れている。「韋駄天」は仏教では足の速い守護神とされている。

「『ご馳走』という言葉は、食べ物を表す言葉なのに、走ることに関する漢字で書かれています。その由来として韋駄天は、お釈迦様のためにあちこちを走り回って食べ物を集め届けていたという逸話があるそうです。そのおかげでお釈迦様は修行に集中でき、結果として世の中に大きな影響を与えました。韋駄天という名前は、シード期の起業家が事業に専念できるように、我々が走り回って環境を整えていきたい、という決意を込めています」(足立氏)

 投資対象は、ものづくりや物流そのものに取り組む企業だけではなく、「ものをつくりやすくする」あるいは「運びやすくする」ためのソリューションや技術を開発する企業も含んでいるという。

「製造や物流の産業を成長させるには、それを支えるプラットフォームをつくることが重要と考えるからです。例えば、Amazonの『AWS』が登場したことで、新しいITサービスが続々と生まれるようになりました。製造や物流においても同じような環境を整えることができれば、良いものをより作りやすく、より運びやすくなり、私たちの日常生活ももっと豊かで便利になると思うのです」

事業にかける起業家の思いや覚悟も大事に

 2020年代に入ってからは製造・物流業界にもDXの波が押し寄せ、ITやAIを生かした管理システムや支援サービスなどが増えてきている。足立氏に投資先の探し方や選定へのこだわりについて伺った。

「我々が支援するのはシード期のスタートアップ。起業家の方がたとお話をして、どのような思いで取り組んでおられるのか、その覚悟の深さが大事になると思っています。例えば、長年ご家族が取り組んできた技術を継承した起業家にお話を伺っていると、その言葉の重みを強く感じます」(足立氏)

 出資先のひとつであるASTRA FOOD PLAN株式会社は、「かくれフードロス」の削減に取り組むフードテック企業だ。「かくれフードロス」とは、売れ残りや食べ残しによる食品廃棄といったフードロスとは異なり、調理する前段階で出る食品ざんさや、店頭に並ばない未利用農産物を指す。同社は、過熱水蒸気技術を用いた食品乾燥機「過熱蒸煎機」を開発し、未利用の野菜を粉末加工した商品「ぐるりこ」を販売するなど、食材のアップサイクルに取り組んでいる。

「過熱蒸煎機」は、代表取締役を務める加納千裕氏の父親が20年かけて研究してきた過熱水蒸気技術をきっかけとして開発されたものだ。加納氏は父親の技術を社会実装するために、大学で食品について学び、卒業後も食品業界で働き、フードロス問題に取り組んできた。開発した機械を販売するだけでなく、加工された粉を引き取り、自社で加工販売する道を選択したことにも、「思いの強さを感じた」と足立氏は言う。

 足立氏は投資を検討する際、「スタートアップとして挑んでいく覚悟はありますか?」と確認するそうだ。

「近年は起業も身近な選択肢のひとつになりつつありますが、スタートアップとスモールビジネスでの起業を同じように考えている人も多いようです。スタートアップは、大きなリスクをとって大量の資金を外部から確保し続け、大変な思いをしながらもスピードを上げて進まなければなりません。通常であれば10年かかる進化を3年ほどでやってしまおう、というものです。その覚悟はありますか、と率直に尋ねます。スタートアップではなく、スモールビジネスとしてじっくり取り組んでいきたいのであれば、VCは最適な選択肢ではないかもしれません。銀行の融資や自治体の助成金、あるいは事業会社から出資を受けるほうが良いケースもあるからです」

 世の中でスタートアップという言葉が広まることで、その意味が広義に捉えられていることも増えている。リスクを取ってスタートアップとして急成長を目指すか、スモールビジネスとして起業するのか、起業家は自身のビジネスモデルや成長戦略に応じて最適な資金調達方法や支援を選ぶことが重要だ。

これからの投資テーマは「人にやさしい」ビジネス

 足立氏の投資テーマは「循環型経済(サーキュラーエコノミ)」と「人にやさしい」だという。

「数年前であれば、アップサイクルはコストが見合わず、投資対象にはなり得ませんでした。しかし、今は原材料費が上がっておりますし、地球にやさしい活動そのものが社会的に重視されています。アップサイクルはビジネスとしては収益化に時間がかかるため、投資しているVCはまだ少ないですが、10年前とは確実に変わってきており、これから成長する分野になるのではないでしょうか。

 もうひとつのテーマは『人にやさしい』です。世の中は『地球・環境にやさしい』というだけでなく『人にやさしい』へ移ってきている、そうしたニーズがあると考えています」(足立氏)

 同社が投資する株式会社Magic Shieldsは、人が歩いているときには硬いが転倒時には衝撃を低減する緩衝フロア「ころやわ」を開発。高齢者施設や医療機関に導入されており、入居者や入院患者の転倒時のケガを防ぎ、普段は硬く車椅子も利用できるという「人にやさしい」技術だ。

「もちろんビジネスとしての収益化も重視しています。世の中に良いことをしているから『ビジネスにならなくてもいい』という考え方ではいけない。寄付でしか成り立たないものはいずれ持続しなくなってしまうかもしれないが、利益が戻ってくれば、それをもとにさらに良いことができる。世の中にいいことをしているという想いだけでなく、資金的にも良い循環につながる、という観点も重要だと思っています」

IPASでの知財専門家との交流がスタートアップ支援にも生きる

 足立氏は、知財アクセラレーションプログラム「IPAS」にビジネスメンターとして参画している。「IPAS」のメンタリングで印象に残っているエピソードを伺った。

「普段あまり接点のないキャピタリストと弁理士が一堂に会して、同じテーマに向き合うのが『IPAS』の面白さ。キャピタリストや弁理士、弁護士といった異なる分野の専門家が集い、一緒になって経営者と議論することで、個別のメンタリングにはない、奥行きのある話ができます」(足立氏)

 足立氏としても、知財専門家と一緒に伴走支援する中で知財の知識を得たことがVCとして役立っているそうだ。

「詳しい出願方法や知財戦略の考え方を知ることができ、大変勉強になりました。出資先スタートアップに対しても、特許や商標の出願、海外でビジネスする場合の知財の対応について、より現実的なアドバイスができるようになったと思います。また、ご一緒した弁理士の方の人柄や専門領域を理解できたので、出資先にも自信をもって紹介できます。知財に限らず、異なる分野の専門家が接点を持てるこうした機会がもっと広がるといいと思います」

 キャピタリストと知財専門家の接点としては、「VCへの知財専門家派遣プログラム(VC-IPAS)」がスタートしている。

「こうした人材交流はますます重要になると思います。一定期間、知財専門家にVCに来ていただき、一緒にスタートアップの支援に取り組むだけでも、キャピタリストの知財に対する意識は大きく変わるでしょう。この取り組みを参考に他の分野でも、例えばメディアや広報といった分野でも専門家とキャピタリストがともに働き、学び合うことができれば、スタートアップの支援にさらなる相乗効果が生まれると思います」

 最後に、日本のスタートアップ・エコシステムの発展のために必要なものを伺った。

「起業家を増やすための施策はある程度充実してきています。次は、スタートアップで働く人が増える仕組みが必要だと感じます。大手企業からスタートアップに転職するビジネスパーソンは以前より増えてきましたが、まだ少数です。多くの人は、知らない世界に飛び込むことに尻込みしてしまう。メディアなども通じてスタートアップでの働き方が周知され、『自分も一緒に働いてみたな』と考える人たちが増えてくると、状況は大きく変わってくるのではないでしょうか」

 キャピタリスト、弁理士、スタートアップで働く人材の間には、互いにまだまだギャップがあるといえる。スタートアップの関係者だけでなく、さらに幅広い分野の人を巻き込み、交流できる場を提供することが、これからのエコシステムに必要かもしれない。

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