「現実認識とは何か――形相的理念型による啓蒙」 雑誌『情況』「特集 ヴェーバーを読む」2000.7.所収 橋本努 0.はじめに われわれはときに、「いま・ここ」にある現実の生を究極的な価値としてつかみ取りたいと思うことがある。だが逆にわれわれは、「いま・ここ」にある現実の生がすべてではないという感覚から、現実の背後に回ってみようとか、別の現実を構成してみようとか、あるいは現実に得られるはずの満足を抑圧しようとか思うことがある。こうした欲求はいずれも、なるほど人生の然るべき時期において生じる自然な衝動であるだろう。しかしいったい、「われわれは『現実』をいかに認識すべきか」という認識的かつ規範的な問題を立てるならば、それはきわめて人生論的なテーマであると同時に、社会科学的認識の根本問題を提起するように思われる。 近代社会とともに生じた社会科学は、「社会」なるものの規範的特徴を明らかにすると同時