日本企業が中国事業を縮小・撤退する動きが顕著になってきた。景気低迷や地政学リスクなど4つの要因が浮かぶ。トランプ復権により、「世界の工場」が瓦解しつつある。
中国江蘇省南部の工業都市として知られる常州市。1月下旬、郊外の工業団地の一角にある工場には、労働者の姿がほぼ見られず閑散とした光景が広がっていた。
日産自動車と中国国有大手の東風汽車集団の合弁会社「東風日産」の常州工場だ。2020年11月に稼動を開始し、多目的スポーツ車(SUV)を生産。年間の生産能力は約13万台と、日産の中国生産能力の約1割を占めていた。
だが、稼働からわずか4年弱となる24年6月に同工場は閉鎖。日産が中国の自動車工場を閉鎖するのは初めてだ。工場の門に飾られていた社名の看板は取り外されており、建物の入り口になんとか「東風日産」の文字が確認できるのみ。従業員約350人は東風日産の別の拠点に配置転換になったという。
閉鎖から半年以上たった現在、「10人程度が出勤して残務整理に当たっているようだ」と守衛の男性は話す。敷地内の駐車場には従業員のものと見られる東風日産の自動車数台が止まっていた。「買収して使えるかどうか確認しに来た」として見学に訪れた中国企業の担当者の姿もあった。
全業種が「脱中国」へ
中国で苦況に陥っているのは中国現地での生産開始が03年と、日系自動車大手3社で最後発ながら、10年代は中国でシェアを高めた日産。だが足元では電気自動車(EV)など新エネルギー車への対応が遅れ、中国の自動車メーカーにシェアを奪われている。24年の中国での新車販売台数は69万6631台と前年比で12%減少で、6年連続で前年の実績を下回っており、ピークの18年から半減した。
トヨタ自動車やホンダも中国メーカーのEV攻勢に押されてシェアを減らしている。日産との統合検討が破談となったホンダも広州市の一部工場を閉鎖したほか、武漢市の工場では一部生産ラインを休止した。
中国での事業の縮小や撤退に踏み切る日本企業が相次いでいるのは自動車だけではない。ヤクルト本社も上海市の製造工場を閉鎖すると発表。固定費削減を狙い中国の別の拠点に生産を集約した。
小売りでは、三越伊勢丹ホールディングスが上海市の百貨店を、モスフードサービスも中国本土で展開するハンバーガー店の全6店舗を閉じた。北国フィナンシャルホールディングス傘下のコンサルティング会社も広東省深圳市にある現地法人を25年3月末で閉鎖すると明らかにした。
欧米企業も同様だ。米ゼネラル・モーターズ(GM)は24年12月、上海汽車集団と合弁で手掛ける自動車工場の閉鎖などのリストラ策を明らかにした。24年10~12月期に中国の合弁事業の再編費用として40億ドル(約6000億円)を計上。米IBMは中国の研究開発部門の閉鎖や国外移転を進めている。
中国の日本人、10万人割れ
中国離れは数字を見ればより明らかだ。帝国データバンクの調査では、中国本土に進出する日本企業は24年6月時点で1万3034社。新型コロナウイルス禍の22年に比べると300社超増えたが、過去の調査でピークだった12年の1万4394社に比べると1割弱減った。22年と比較して上海市や広東省、浙江省、遼寧省など6の省と直轄市では減少社数が100社を超えた。
進出企業の減少に伴い、中国に住む日本人も減っている。日本の外務省によると、中国に3カ月以上滞在する日本人は24年10月1日時点で9万7538人と前年比で4%減った。減少は12年連続で、20年ぶりに節目となる10万人を割り込んだ。1月には上海市の日本人居住地区で約四半世紀にわたり営業してきた日系スーパーが一斉に閉店に踏み切った。
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