3月、北海道に住むとある知人から連絡を受けた。

 「この前、富士通のパソコンを買ったんだけど、価格.comで上から何番目かに安いネット通販で買ったら、届いたのがヤマダ電機のオリジナルモデルだったんだよね」

 私は、彼が言おうとしていることをすぐには理解できなかった。が、ほどなくその意図が分かった。知人が指摘したかったのはつまり、その量販店でしか販売されないはずの「オリジナルモデル」が、他社のインターネット通信販売で買えた、というおかしさだ。

 後日詳しく経緯を聞いてみた。

本家より3万円安い「独自商品」

 知人は3月上旬、家庭のノートパソコン(PC)を買い換えようと近くの家電量販店を訪れた。売り場であれこれ試して、見定めたのが富士通の「FMVA77J」だった。価格は約9万6000円。値札には、1週間限定の値下げだと記されていたという。

 知人はその夜、価格比較サイトの「価格.com」で品番を検索した。すると上位5~6社の価格は8万円台。訪れた量販店で購入する選択肢は消え、安くて送料無料だった都内のある事業者から購入することにした。「一番安くはなかったけど、数百円の違いで、上から3番目か4番目だった」という。

 購入者情報を入れ、サイト上で注文。販売会社の銀行口座にネットバンキングで8万7000円台の代金を振り込むと、半日後「入金を確認したので今からPCを発送する」旨のメールが届いた。2日後にはPCが到着。知人によると、東京から北海道なのでこれは最速のパターンらしい。ここまでは順調だった。

 だが、知人は届いたパソコンの箱を開けて驚く。「このパソコンはオリジナルモデルです」。説明書類に混じって、そう書かれたB5判の紙が1枚入っていた。読み進めると、あらかじめ、「ヤマダマルチSNS」が組み込まれている、という説明があった。

 型番をよく見ると、「FMVA77J」の後に、色を表す文字があり、最後に「Y」とあった。Yをつけてネットで検索すると、家電量販店最大手、ヤマダ電機の通販サイトで「ヤマダ電機オリジナル」と書かれていた。価格は3月下旬に私が調べた時点では11万8000円で、還元ポイントはなし。知人が買ったという値段と比べると3万円も開きがある。

 他の小売りに比べ、家電量販店ではPB(プライベートブランド=自主企画)商品は少ない。だが、一部の仕様を変更することが比較的容易なパソコンでは、メーカー品をベースにわずかな変更を加えて、「オリジナルモデル」として売り出すことは少なくない。こうした独自商品の場合、一概には言えないが、量販店は通常よりも多い一定量を仕入れることなどを条件に、仕入れ条件を通常商品よりも有利に結んでいることが多い。

 普通に考えれば、ヤマダでしか売られないはずの「ヤマダモデル」を、ほかの事業者がヤマダよりも大幅に安い値で販売することはあり得ない。

 いったいこの販売会社はどうやってこの価格を実現しているのか。いやそもそも、どこからこのヤマダモデルの商品を仕入れたのか。気になったので、その販売会社を知人に教えてもらって取材を申し込んでみた。

 会社のホームページで所在地や電話番号などが分かったので、まず事業所を訪ねてみた。大型家電量販店がひしめく、都内でも有数の家電販売の激戦地。その中心部から歩いて5分ほどの場所にある通りに面したビルで、1階部分の壁一面に、そのサイトの名前が描かれている。確かに、知人が教えてくれたサイトの事務所だ。

 現場は確認したが、取材はいったん電話で申し入れた。

 価格設定の方法や、商品の仕入れなどについて取材したい旨を伝えると、初めは拒否された。だが数分粘っていると、応対してくれた女性は「責任者から折り返させます」と約束してくれた。

 当日、業務課の森(仮名)と名乗る男性から、番号非通知で折り返しの電話があった。対面での取材を希望したが、先方は「この電話で、匿名ならば話に応じる」ということだった。仕方ないのでその場で話を聞いた。主なやり取りはこうだ。

「どこから仕入れたか分かりません」

――ヤマダ電機のオリジナルモデルを販売していますが、これはどういったルートで仕入れているんですか。

「問屋です。扱っている商品はすべて問屋から仕入れています」

――オリジナルモデルですから、通常では仕入れられないと思いますが。

「そうなんですか。分かりません。でも、ほかのサイトでもそんな例はたくさんあるでしょう?」

――量販店から仕入れているということはないんですか。

「うちはすべて問屋を通しています。直接量販店から買ってくるということはありません」

――仕入れ先の問屋さんが、どちらから仕入れているかはご存知ですか。

「問屋さんの内部事情ですから、私には分かりません」

――お取り扱いの商品が、どこから来たのか気になりませんか。

「扱っている数が多いものですから」

――お取引されている問屋さんはどれくらいあるんですか。何社以上、といった形でも構いませんが…。

「こちらの内部の話ですから、お答えできません」

――ずいぶん安い値段がついているものも多いんですが、それよりも安い値段で仕入れているんですよね?

「もちろんです。商売ですから。値段が下がって、利益が出なくなってしまうものももちろんありますが」

 電話口の男性は、とても丁寧な口調だったが、肝心な部分になるとかたくなに口を閉ざした。名前を聞いても、名字だけで下の名前は教えてもらえない。社内での役職も「業務課です」としか答えてくれなかった。取引している問屋の社名や所在地などを教えてもらえないか頼んだが、徒労に終わった。

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