
「生き方や感情は顔つきに現れる」という楠木新さん。著述家として多くの人を取材し、さまざまな「顔」に接してきた経験から、いつしか「顔の研究」がライフワークになったと言います。『豊かな人生を送る「いい顔」の作り方』第8回は、「顔」よりも肩書きや役職が評価される企業風土がもたらす弊害について論じます。
「どちらの楠木様ですか?」
警備員の質問に隠されていた意図は…
私が初めて社会に出た頃、まず何よりも驚いたのは、人の顔つきや醸し出す雰囲気よりも、勤めている会社や卒業した学校で人を評価することが多いということでした。
令和の世にもこうしたムードは脈々と受け継がれています。特に組織内、あるいは会社対会社との関係においては、名刺の肩書きや役職が物を言います。
ビジネスでの初対面では、相手の顔つきよりも先に肩書きや役職で判断する傾向があります。
少し前の話になりますが、役所で働く友人を訪ねたときのことです。入口で警備員から「どちら様ですか」と尋ねられた私は、「楠木と言います。◯◯局の△△さんとお約束しています」と答えました。するとその警備員から、「どちらの楠木様ですか?」と聞かれたので、「楠木新と申します」と今度はフルネームで答えました。
それでも警備員が釈然としない顔をしている理由が、私にはすぐにぴんときませんでした。彼が求めていたのは私個人のフルネームではなく、所属や肩書きだったのです。3度目の問答でそのことに気付いたのですが、この日は会社の業務とは一切関係なく、あくまでプライベートな用向きだったので、会社名を出すことに違和感を覚えました。
そこで警備員に対し、「今日は個人として△△さんに会いに来ましたので、特に名乗る組織名はありません」と言うと、少し気まずい沈黙を経て、彼は受付へと向かいました。そこでアポイントの確認が取れると、打って変わった丁重な物腰で私を建物内へと案内してくれたのです。