朝に多い → 心筋梗塞・脳梗塞・くも膜下出血・不整脈
月曜日に増える → 狭心症
冬に33%増 → 心臓死
病気が生じやすい“魔”の時間帯が存在することをご存じでしょうか?
脈拍や呼吸、睡眠はもちろん、細胞分裂やたんぱく質の製造まで、人体はさまざまなリズムにしたがって「いつ」「何を」おこなうかを精密に決めています。そのリズムの乱れが、健康を害する引き金になっているのです。
病気が生じやすいタイミングがあるのはなぜか? 薬が効く時間、効かない時間はどう決まるのか? それらを治療に活かす方法は?
時計遺伝子やカレンダー遺伝子の機能としくみから、体内時計を整える食品まで、生体リズムに基づく新しい標準医療=「時間治療」をわかりやすく紹介する『時間治療 病気になりやすい時間、病気を治しやすい時間』から、そのエッセンスをご紹介します。
今回は、睡眠のしくみと密接な関係にある時計遺伝子が、からだの意外な器官にあったという、興味深いトピックをお届けします。
*本記事は、『時間治療 病気になりやすい時間、病気を治しやすい時間』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
*本記事中に出てくる遺伝子の名称は、本来はイタリック(斜体)で表記しますが、表示制限の問題から、立体で表示しています。
アルツハイマー病を予防する睡眠
ヒトは大きすぎるとも思えるほど巨大な脳をもち、進化の過程で発達させてきました。
しかし、脳は老廃物を排出するためのリンパ管をもっていないため、疲弊した脳細胞には老廃物があふれています。その老廃物を排出するためにも、睡眠は重要な役割を果たしているのです。
睡眠中の脳はグリア細胞のアストロサイトのはたらきによって脳を縮小させ、動脈に沿って管のような空間をつくります。その隙間を利用して、脳の病気のもとになる老廃物を洗い流しているのです。アルツハイマー病の原因物質と考えられるアミロイドβ(ベータ)などの老廃物も、この作用によって排出されています。
2013年、ワシントン大学のジューらは、45〜75歳の健康な人を対象に、睡眠の質とアミロイドβの沈着量の関係を調査しました。その結果、睡眠の質が低い人ほど、5.6倍も多くのアミロイドβが沈着することが観察されました。
同じ2013年に、ジョンズ・ホプキンズ大学・ブルームバーグ公衆衛生大学院のスピラらも睡眠時間が短い人ほどアミロイドβの沈着量が多いことを報告しており、オランダ・ラドバウド大学医療センターのオームズらは24時間ずっと眠らないでいると、アルツハイマー病になりやすいことを報告しています。
脳の病気を予防するには
脳に起因する神経性の難病としては、アルツハイマー病以外にも、パーキンソン病や運動ニューロンが壊れていく筋萎縮性側索硬化症(ALS)、歩行時にふらついたり細かい手の動きができなくなったりする脊髄小脳変性症(SCD)などが知られています。これら神経性の難病を引き起こす老廃物もまた、睡眠によって脳の外へと洗い流されています。
アルツハイマー病を含め、こうした神経性難病の発病を防ぐには、十分に長く、そして深く眠ることが必要です。私たちヒトが、1日のおよそ3分の1もの時間を眠りに費やしているのはそのためです。ムダのようにも思える長い時間ですが、脳の健康維持にとって不可欠な時間なのです。
前回の記事と今回の記事で、睡眠に関する基本を大まかにご説明しました(睡眠が「記憶」に関して果たす役割について興味のある方は、拙著『時間治療 病気になりやすい時間、病気を治しやすい時間』をお読みください)。そこで、続いては、時間治療の視点から、睡眠の生活治療について考えてみましょう。