京都市左京区にある、小さなクリニック。
93歳の心療内科医・藤井英子医師が、人との「距離」について語ります。
「気が合わないのは、あたりまえ」「近い人ほど、あっさりと」——。
16万部を超えるベストセラー『ほどよく忘れて生きていく』(サンマーク出版)で多くの読者の心をとらえた藤井医師。職場の人間関係、嫁姑の付き合い方など、身近な悩みに向き合います。距離を置くことは、時に最高の思いやり。最新刊『ほどよく孤独に生きてみる』(同)より一部抜粋、再構成して、そのメッセージをお届けします。
気が合わないのは「あたりまえ」
<職場の人たちと気が合わないのは「あたりまえ」だと考えましょう。振り回される必要はありませんが、「相手を尊重して」「自分の仕事を丁寧に」信頼される基本を忘れないことです。>
仕事柄、人の感情の影響を受けすぎないように留意しています。目の前の方を尊重し、親身になったとしても、自分から入り込みすぎない。これは、健やかな人間関係の基本だと思います。
相手には相手の考え方があり、これまでの生き方があり、人生があります。
親兄弟でも、子どもでも、同じ人間ではありませんから、「私と同じように考えてほしい」「私が思った通りになってほしい」というのは、難しい話です。家族ですらそうなのですから、「職場の人と気が合わない」というのは、あたりまえくらいに考えておくと気持ちが楽かもしれません。
現在の企業は、コンプライアンスやハラスメントなどの課題から、心理的安全性を担保するための制度や相談窓口などもありますが、とはいえ、会社というのは、ただの仲よしクラブではありません。
どんな職場でも、数人から、数千人の、価値観も育った環境も性格もまったく違う人たちが集まっているわけですから、「みんなとうまくやろう」はそもそも無理な話です。深入りしすぎずに、自分の仕事を丁寧にこなし、相手のことを尊重して過ごすこと。その上で、仲のいい人やよいチームができたなら、それは本当に幸せなことです。
一緒に仕事をしつつ時折は俯瞰して、全体の人間関係や仕事の状況を見る。そして、自分の役割を改めて確認してまた仕事をする。そのくらいのほどよい距離感でいたほうが、心は自由でいられるように思います。