17 Jan 2011
ゲームにおいて「勝ちを目指す」ことについて、あるいは超人ロック回顧録
なんだか盛り上がってたみたいなので。
個人的には、これはほとんどゲームデザインの問題であり、純粋にテクニカルな領域だと思う。というか、これが(「プレイヤーの倫理観」とは別のレイヤーで)問題になるという段階で、「ゲームデザイン」が何か大事なものを置いてけぼりにしませんでしたか? というのが正直な感想。
アナログに限って言うと、ゲームの根幹を支えているのは、勝利条件だ。アナログゲームの良し悪しの5割くらいは、勝利条件の設定で決まると思っている。だってそれを目指してプレイすることが、大抵のゲームの前提になっているので。
待てよ、それを目指さない奴がいるから問題なんだろ? と言われそうだが、個人がその意思で「目指さない」と決めたなら、そこから先は倫理学の問題だ。そんなところまでゲームデザインが関与しても、誰得でしかない。
むしろより精査されるべきは、「目指せない」状況であろう。
目指せない状況。これは簡単で、例えば1ターンで最大でVP10点を得られるゲームで、トップと11点差、残りターンは1。これは、詰みだ。対戦ゲームなら即座に投了すべき状態と言える。でも多人数ゲームだと投了というわけにもいかないので(あるいは投了というルールがないので)、残り1ターンを路傍の石ころのように過ごすか、あるいは秩序の破壊者となるしかない。ヴァンダルヴァンダル。
……と、これでひとつの結論が分かる。「ちゃんと投了できるようにしておく」ことで、この「目指せない」問題は半分くらい解決するのだ(あと半分は1プレイが1時間くらいの、短時間で決着するデザインにすればいい)。だが、この「ちゃんと投了できる」ルールというのは、実に構築し難い。
なぜ「ちゃんと投了」できないのか? 投了することに、適切なリスクとインセンティブが設定し難いからだ。かつ、複数人のうち1人投了することによってゲーム全体のバランスを壊れてしまわないようなシステムを作らなくてはならない。これは非常に厄介だ。
けれどこれが厄介な理由は、わりと簡単なところにある。
それは、勝利条件の設定が甘いからだ。
そもそも、ほとんどのゲームにおいて、勝者はひとりである。将棋だろうが麻雀だろうがアメリカ横断ウルトラクイズだろうが、勝者は1人。2位以下は、極論言えば、みな等しく敗者である。
そしてこの「1位以外はみな敗者」という構図(勝者が1人しかいないことではなく)こそが、いろいろな話を難しくする。
「麻雀は賭けないとダメ」とされる(賭けるのは現金でなくても、レーティングでもいい)理由は様々だが、賭けないと点数というゲームギミックがほぼ死んでしまうことが最大の問題だ。
麻雀は点数システムによって「3位だけど負けてはいない(失っていない)」ということも起こるし、「2位だけど負けた(全ヘコミ)」ということもあり得る――が、賭けない限りこの勝負のギミックはすべて消え去り、「もう次の局にいきたいからアガラス」とかいうダラけた勝負をシステム的に止められなくなる。ましてやツモとロンのゲーム的な差など、宇宙の彼方にすっとぶ。
でもって、これが解答である。
つまり賭け麻雀がゲームとして機能するのは、カネがかかっているから、だけではない。「順位」という勝利条件と、「金銭の移動」という勝利条件、この二軸によって勝利が決定されるから、「賭けないとゲームにならないが、賭けると急に面白くなる」のだ。
もうちょっと整理しよう。
麻雀の勝利条件その1:1位(勝利) 2~4位(敗北)
麻雀の勝利条件その2:カネを得る(勝利) カネが減る(敗北)
この「勝利条件平面」によって、麻雀の勝敗は決まる。つまり、麻雀は勝利に4段階が設定されているのだ。
第1段階:1位で、利益を得た
第2段階:2~4位だが、利益を得た(4位は普通は無理だが、参加するだけで報酬があるなら別)
第3段階:1位だが、利益を失った(麻雀漫画などで稀にある「1位になったら許さへんで」、あるいは絶望的な場所代)
第4段階:2~4位で、利益を失った
アナログゲームに詳しい方なら、これが「超人ロック」の勝利条件と酷似していることに気がつくだろう。
かの傑作マルチゲームでは、「超人ロック」に登場する様々なキャラクターを1人1キャラ受け持つ(自分が何を担当しているかは秘密情報となる)。そしてキャラクターは、「Good」と「Evil」という陣営に分けられている。ゲームは基本的に、GoodかEvil、どちらかの陣営が勝利することで決着する。
かくして、超人ロックの勝利には4つの段階が生まれる。
第1段階:所属陣営が勝ち、自分は生き残った
第2段階:所属陣営が勝ち、自分は死んだ。
第3段階:所属陣営が負け、自分は生き残った
第4段階:所属陣営が負け、自分は死んだ。
超人ロックの場合、ここにSpecialという「無所属」が数名存在し、Specialは「陣営の勝利」ではなく、その個人個人に設定された勝利条件が「陣営の勝利」に相当する。また「敗北条件」というものもあって、ゲーム終了時にこれが満たされていると自動的に第4段階になる。
そして超人ロックでは、「勝利」は「第3段階勝利以上」であると定義される。ここがもうひとつのミソだ。「もう絶対に自分の陣営が勝てない」ことが分かったら、投了すれば「勝ち組」に入れるのである。GoodとEvilによる銀河を賭けた超能力戦争は、談合によって決することすら可能なのだ。「談合しちゃうのかよ」ではなく、「談合による妥結点がシステム的に存在する」ことの偉大さに注目したい。
そしてこの実にリアリティのある勝利条件設定は、Specialの勝利条件や、特殊な敗北条件によって、陰惨な展開へと発展することもある。EvilやSpecialの中には「特定のキャラクターが生きていると敗北」な強キャラがいる――Goodとしては、「その特定のキャラクターはこちらで粛清しますので、Goodに折れてくださいませんか」という、実にGoodな交渉が基本戦術となるのだ。
一方でGoodには「特定のGoodキャラクターが死ぬと敗北」な人が多いので、往々にして交渉はGood対Evilという構図からズレていく。またEvil陣営は「特定のEvilキャラクターが生きていると敗北」なのが最強キャラなので、非常に頻繁に内ゲバが起こる。
このように、勝利条件マトリクスは、2次元にとどまらず、多次元化が可能だ。アナログでは2次元に留めておいたほうが脳のために無難だとは思うが、デジタルならある程度までの多次元勝利マトリクスを構築し、それをブラックボックスとして運用できるのではないだろうか。
いずれにしても、勝利条件設定に真面目に取り組むのが、「勝ちを目指す」問題においてはわりと合理的な道筋であるように思う。
超余談だが、教養の哲学の試験においてこの超人ロックの勝利条件システムを書き記し、「以上よりソクラテスは第二段階勝利であると判断できる」とした解答がA判定を取ったというのが、私が所属していたゲームサークルにおける伝説である。