在南アフリカ・米国大使館前で抗議するオランダ系白人
南アフリカの裁判所は15日、同国で白人のジェノサイド（集団虐殺）が起きているとの主張は「明らかに想像上のもの」で「現実のものではない」との判断を示した。南アフリカで白人の農民が殺害されているなどとする、アメリカのドナルド・トランプ大統領とその側近で富豪のイーロン・マスク氏の主張を否定したかたち。
裁判所は今回の判断に先立ち、白人至上主義団体ボエレレギオエンに対する裕福な支援者からの寄付を差し止めた。
支援者のグラントランド・マイケル・グレイ氏は、同団体が「人種的憎悪と分離のメッセージをさらに広める」のを助けるために、210万ドル（約3億1400万円）を寄付したいとしていた。
しかし裁判所は、この要求は無効かつ不明瞭で、「公序良俗に反する」ものだと判断した。
南アフリカをめぐっては、トランプ米大統領が、白人の「農民の大規模な殺害」が起きていると発言したことがある。側近のマスク氏は過去に、「白人のジェノサイド」が起きていると述べたり、「人種差別的な所有権法」を非難したりしている。
トランプ氏はアメリカに流入する移民の取り締まりを公約に掲げているが、南アフリカの白人農民が迫害を受けているとして、難民としてアメリカに定住することを認めるとしている。
マスク氏は南アメリカで生まれ育ち、後にアメリカへ移住した。
「明らかに想像上の」主張と裁判所
「白人のジェノサイド」をめぐる訴えは、グレイ氏の4人のきょうだいが起こしたもの。4人は、家族信託の管理者兼相続人になっている。
きょうだいによると、グレイ氏は死去するまでの10年間、「南アフリカで白人のジェノサイドが起きているとの考えにとりつかれていた」という。
グレイ氏は2022年3月に死去した。
26歳の時に、兵役中に事故に遭い、身体にまひが残ったグレイ氏は、「ジェノサイド」が間もなく起きると信じるようになったという。
「この考えは、（グレイ氏に）すでにあった人種差別主義と、（グレイ氏が）さらされたオンライン・コンテンツによってさらに助長された」と、ロシェニ・アリー判事は15日に述べた。
グレイ氏が白人至上主義団体のメンバーと初めて会ったのは2020年で、活動目的を支援し、会員資格を得るために約32万6000ドル（約4900万円）相当の金貨を団体に渡したとされる。
同団体は「南アフリカにおける、約束された虐殺および財産の盗難に市民が抵抗できるようにする民間防衛運動」を自称している。
グレイ氏はその後、団体を自身の相続人に指定し、遺産の一部を団体が実施するさまざまな訓練プログラムに充てることを望んでいた。
しかし、ボエレレギオエンという名の団体が三つあることから、裁判所はグレイ氏がどの団体を相続先にしていたのかが「あいまい」だとした。
「（グレイ氏の）意思表示で唯一はっきりしているのは、資金を『訓練』に使うというものと、資金を南アフリカのすべての黒人を根絶し、白人のジェノサイドを防ぐまたは回避する組織だと（グレイ氏が）みなす団体に役立てるというものだが、これ（白人のジェノサイド）は明らかに想像上のもので現実のものではない」と、アリー判事は述べた。
公序良俗をめぐる問題について、グレイ氏のきょうだいは、ボエレレギオエンは資金を「人種差別的憎悪と分離のメッセージをさらに広げる」ために使おうとしていると主張した。
団体側は、自分たちは地域社会に安全と訓練サービスを提供するだけで、人種や性別、宗教に基づいて誰かを排除するつもりはないとしている。
アリー判事はグレイ氏のきょうだいの主張を支持し、ボエレレギオエンに裁判費用の支払いを命じた。
少数派の白人が「組織的に標的にされている」と
南アフリカ政府が特定の状況下で土地を接収できるようにする新法をめぐり、トランプ米大統領は今月初め、南アフリカへの財政援助を凍結する大統領令に署名した。
南アフリカの白人農民の地位については長年、米政界で、右派と極右が声を上げてきた。
過去には、南アフリカで少数派のオランダ系白人が組織的に標的にされているとの主張が数多く上がっていたが、現地の犯罪統計は主張とは全く異なる実態を示している。
南アフリカは人種に基づく犯罪統計を公表していないが、最新のデータでは、2024年10月から12月の間に6953人が国内で殺害されたことが明らかになった。
そのうち12人は農場で襲われて殺害された。12人のうちの1人は農場主で、5人は農場の住人、4人は黒人の可能性が高い従業員だった。
これに対して、女性は961人、子供は273人殺害されている。
（英語記事 Claims of white genocide 'not real', South African court rules）
