Content-Length: 19847 | pFad | http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/ISC/ca.html
古典力学的世界 | セルオートマトンの世界 | |
構成要素 | 粒子 | セル(升目) |
記述するための変数 | 全粒子の位置と速度 | 全セルの状態(色の並び) |
世界を支配する規則 | ニュートンの運動法則 | セルの状態変化ルール |
時間 | 連続的(アナログ) | 離散的(デジタル) |
意味はわかると思う。隣り合う三つのセルの色の組み合わせがわかれば、真ん中のセルが次にどういう色になるかが決まることを表しているのである。では、このルールにしたがって実際に世界を動かしてみよう。例えば、まず青と緑をランダムに並べた状態を用意して、そこから今のルールで色を変化させていくとこんな感じ。
一番下の一列が最初の色の配置で、上に向かって時間が進むように描いてある。
なかなか複雑な絵が現れた。できあがったパターンは全体としては一見でたらめなものに見える。でも、よく観察するといたるところに逆三角形の領域が泡のように生まれては消えている。つまり、まったくのランダムでもないということだ。ある種の局所的な秩序を作りつつ、でも全体に広がるような大きなパターンはなくて、全体は乱雑な構造になっている。こういう変化のしかたはカオス的といわれる。
カオス的なふるまいの裏にはこんなパターンが隠れていたのである。ところで、これとそっくりな絵を見たことがあると気づいた人もいるだろう。事実、このパターンは フラクタル図形の例としてよく引き合いに出されるシェルピンスキーのガスケット(詰め物)によく似ている。ちなみにシェルピンスキーのガスケットというのは 三角形の四分の一を抜きとるという操作を無限に繰り返して作られる。どちらも簡単な規則で生成されるという点では共通しているものの、まったく違うルールから同じパターンが作られるというのはなかなか面白い。
瞬く間に止まってしまった。
今度は規則的なパターンが生成された。よく見ると1ステップおきに同じパターンを繰り返す周期的な変化をしているのがわかる。どっちにしてもあんまり面白くない。
どうだろう、これまでの三つのクラスとはずいぶん印象が違っていないだろうか。参考までに、使ったルールはこれ。
パターンとしては規則的な背景の上に複雑な形をした大きな構造物が乗っているようなものである。構造物といっても、もやもやした雲や煙のような形のはっきりしないもので、それがところどころから出ている斜めの線によって有機的に結び付いているようにも見える。なんとも言葉で表現しづらいパターンで、ごちゃごちゃ言うよりも見てもらったほうが話が早いから、もうひとつ、別のルールで作った例を見せよう。これもまた雰囲気がずいぶん違う。
セルオートマトンはそもそもが決定論的なルールに従って変化していくのだから、クラス1や2のように規則的な変化になるのはあまり驚くことではないかもしれない。また、クラス3のカオス的なパターンは基本的にはランダムで、大きな構造ができるでもなく、せいぜい三角形がぽつぽつとできたり消えたりする程度のものだった。それに比べるとクラス4の作り出すパターンははるかに複雑だ。複雑に見える一番の理由は、規則的な部分ともやもやした部分が共存していることにあるのだろう。クラス4は規則的なクラス1、2とカオス的なクラス3のちょうど 中間にあって、そのために単に規則的なパターンやランダムなパターンよりも豊かな構造が出現するのである。そこで、これは『カオスの縁』である、などといわれる。
ある種の秩序とは言ったけれど、それは何を意味するのだろうか。どうやら 逆三角形と関係がありそうだ。そこで、全体のうち真ん中のひとセルだけが色違いになっている状態を出発点として同じルールで動かしてみると、実はこんな整然としたパターンが現れる。
256種類のルールの中にはもちろんカオス的ではないパターンを作り出すものもある。次はその例を見てもらおう。まずこれ。
次はこれ。
このようなセルオートマトンの世界を支配するルールを スティーヴン・ウルフラムはできるパターンの違いにもとづいて次の四つのクラスに分類した。
クラス1は時間が進むとやがて全体が一様にひとつの色になって静止してしまうもの。このルールが支配する世界はまったく何もない死んだ世界だ。クラス2はひとつの色にはならないものの、やがて周期的な変化に行きついてしまうもの。この世界には最終的には規則的な変化しか残らない。まったく変化しない場合も規則的な変化に含めるので、さっき見たカオス以外のパターンは実はどちらもクラス2だった。クラス3はランダムに見えるもの。さっきのカオス的なパターンである。
実はこの三つに加えてクラス4とよばれるものがある。残念ながら今までのように両隣しか参照しないルールではクラス4は実現しないのだけど、そのまた両隣、つまり 左右ふたつずつのセルを参照するルールで見ることができる。とりあえず、クラス4的なパターンの例を見てもらおう。
冒頭で紹介したラングトンは、生物のような複雑な組織体が生まれるのはまさにこの カオスの縁であると主張した。確かにクラス4ルールの作り出すパターンを見ていると、生物的なものを感じてしまう。ついでにいうと、実はライフゲームも平面上のクラス4セルオートマトンなのだ。
4. さて
かつて、決定論的な世界にはラプラスの悪魔が住んでいると思われていた。ラプラスの悪魔は宇宙にあるすべての粒子の位置と速度を知っており、未来永劫にわたって全粒子の運動を予言できるはずだった。これは、結局のところ決定論=予言可能という世界観にほかならないのだけれど、カオスという考え方が現われて、決定論的であることが必ずしも予言可能を意味しないことを今や僕たちは知ってしまった。
セルオートマトンの世界もルールと最初の配置を与えてしまえばその後のパターンは完全に決まってしまうという、まさに決定論的な世界の雛型になっている。その世界で、クラス4セルオートマトンのような複雑で予測できないパターンが出現するのはなかなか示唆的である。ラングトンはクラス4セルオートマトンに生命を見ようとしたのだけど、別に話はそれだけに限られているわけではない。ここまで抽象的なモデルになってしまえば、生命以外のなにか別の複雑なものを表しているのだと考えるのもまた自由である。あなたはそこに何を見るだろうか。
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なぜか二度目の登場です。前回は僕たちが自分で研究してる交通流の話だったけど、今回はもうちょっと普通の解説記事です。ご意見ご感想の電子メールはkikuchi@phys.sci.osaka-u.ac.jpまたはNiftyserveのGBF01555まで。むずかしいとかやさしいとかおもしろいとかつまらないとかお知らせいただけるとうれしい。ちなみにhttp://glimmung.phys.sci.osaka-u.ac.jp/kikuchi.htmlにWWWのページを置いています。
ところで、内田有紀(ちなみに僕はファンクラブ会員)が物理学科の学生に扮するドラマが始まるというので、これを期に物理の人気があがらないかなあと期待してるんですが。(戻る)
マイクル・クライトン作、酒井昭伸訳、早川書房刊
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J.H.コンウェイの考案による生態系をモデルにしたゲーム。ゲームといっても誰かと戦うわけでもなければ点数を競うわけでもない。仕掛けたらあとはじっと見てる以外にすることがない。コンピュータ上で動かした場合、強いていうなら環境ソフトに近いものとでもいうべきか。でも、見てると結構はまる。
ライフゲームと聞けば、往年のパソコン少年なら懐かしいと思うに違いない。かつてパーソナルコンピュータがマイコンなどと呼ばれてた頃、みんなディスプレイ上にライフゲームのパターンを描かせて遊んだものだった(らしい・・・というのは僕自身はパソコン少年じゃなかったのでよく知らないのです)。
ちなみに僕はVZエディタというMSDOS用の定番エディタのマクロで書かれたライフゲームを見て感動したことがあるんだけど、こういう感動のしかたは完全にMSDOS/UNIX文化のノリで、MAC的じゃないね。
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『ロストワールド』刊行記念(?)。しかし、どうもこういうまわりくどい枕を書かないと気が済まないっていうのは、デジタルリテラシーとは逆行してるなあ。
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