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Oculus Riftの登場以来、非常に大きな盛り上がりを見せているVR(Virtual Reality、仮想現実)。ソニーやValveも追随して続々とVRヘッドセットの開発が進められていますが、VRを普及させる上でどうしても避けられない問題が「VR酔い(シミュレータ酔い)」です。
乗り物酔いの一種であるVR酔いは、人の持つ感覚器官がVR内の視点移動と実際の体の動きとのズレに対応できないため起こる現象と言われており、頭痛や目眩、吐き気を引き起こしてしまいます。この問題に対して各メーカーは解像度やフレームレートの向上、残像の低減など様々な対策を練っていますが、完全解決には至っていません。
米パデュー大学コンピューター・グラフィックス学部のDavid Whittinghill助教授によれば、飛行機のコックピットや車のダッシュボードを表示すると視覚的な基準点として働き、VR酔いを低減する効果があるとの事ですが、それらが使用できるのは一部のゲームに限られます。そこで提唱されたのがVR画面内に「バーチャルな鼻」を表示するというものです。
Whittinghill助教授は学部生Bradley Ziegler氏によるこの提案を“天才的発想”と評価し、「あなたは自身の鼻を絶えず見ていますが、それを無視しています。しかしながら、それは基準フレームとしてあなたの接地を助けます」と解説しています。そして、学部生のJames Moore氏とTristan Case氏が行った研究内容と結果は次のようになっています。
- 「ジェットコースター」と「邸宅及び庭を歩きまわるトスカーナデモ」、2つのVRアプリケーションを使用。
- 被験者は41人。その内の何人かには画面内に鼻が挿入されたバージョンをプレイしてもらう。被験者には鼻の存在は伝えられていない。
- その結果、鼻ありのバージョンを体験した被験者は、鼻なしのバージョンを体験した被験者よりも長く(トスカーナデモでは平均94.2秒、ジェットコースターでは平均2.2秒)、VR酔いを感じずにプレイができた。
- 驚くべきことに、被験者はプレイ中に鼻の存在に気付かず、後の報告会で明かされた際も懐疑的であった。
- 発汗による皮膚全体の電気伝導を計測する皮膚電位計センサーでも、鼻ありと鼻なしで結果に違いが出た。
上記のように、VR酔いを低減する効果が明らかとなった「バーチャル鼻」ですが、何故そうなるのか明確な理由は明らかとなっていないそうです。Whittinghill助教授は、体が無視するのに慣れている安定した物を持っており、感覚器官がそれを認識できているからではないかとの見解を示しています。
果たして今回の研究結果はVRの今後にどのような影響を与えるのでしょうか。ますます楽しみになりますね。