撮影/中山実華
ダイバーシティを推進する組織の中で、社員はどれだけ本質を理解し、実践できているのだろうか。2024年3月8日「Wellbeing conference ──これからの社会と私たちのウェルビーイング」内で、「個人が活躍し続けるチーム、その中心にあるものとは」をテーマにしたトークセッションが開かれた。
アクセンチュア マネジング・ディレクターの大河原久子さん、同じくアクセンチュアの執行役員 成長戦略グループ日本統括の市川博久さんが登壇。モデレーターは、社外人材によるオンライン1on1を通じて、組織改革を進める企業を支援するエール取締役 篠田真貴子さんが務めた。
10年前のアクセンチュアは、グローバルコンサルティングファームゆえに「激務」というイメージが強かったが、それがいかにしてI&D(インクルージョン&ダイバーシティ/以下、I&D)の先進企業に変わることができたのか。アクセンチュアではI&Dを経営戦略として掲げており、数々の施策が実施されているが、今回は「ワーキングペアレンツのインクルージョン」「働き方改革」「若者就業力強化」を中心に話が進んだ。
ワーキングペアレンツをどう尊重するか
まず、大河原さんからアクセンチュアのI&Dの現在地を紹介。 アクセンチュアのI&Dにおける価値観は「Respect for the Individual=個人の尊重」だ。「イノベーションを起こすことがコンサルティングファームのビジネス提供価値である以上、ダイバーシティを保った組織であることは必須で、経営戦略としてI&Dに取り組んでいる」と大河原さん。
長年続ける中でインクルーシブな職場環境の基礎作りは達成してきた。そして今、アクセンチュアは次のステージに進み始めた。I&Dの基盤を醸成した上で、社員一人ひとりが「自分ゴト化」し、インクルーシブな振る舞いを実践することを目指す。I&Dの5つの注力領域と組織が連携を強め、すべての現場において、一人ひとりがアクションを起こすステージに到達しつつあるという。
アクセンチュアのマネジング・ディレクターであり、ソング本部 公共サービス・医療健康サービス統括の大河原久子さん。
撮影/中山実華
マネジング・ディレクターを務める大河原さんは、小学生の2人の子をもつワーキングペアレントだ。産休・育休を取得して職場復帰した約12年前は、まさに激務が当たり前の環境。当時にも時短勤務やフレックス、在宅勤務などの制度は整っていたものの、「制度をどう使うかは個に任されている状態だった」と振り返る。
「つまり、言い出せなくて制度を使いこなせない人もいたわけです。そういった制度をしっかり活用し、推進していくカルチャーを作らなければならないと考え、自組織でいくつかの施策を始めました」(大河原さん)
たとえば 、一人ひとりに伴走する「育休サポーター」、悩みを共有し合えるネットワーク「ワーキングペアレンツ会」の発足、リーダーの悩みをシェアする「情報共有の場づくり」といった取り組みだ。
「ワーキングペアレンツの悩みや課題は当事者にしかわからない部分もあり、横のつながりが重要。ワーキングペアレンツを業務にアサインしているチームリーダーも、リーダーならではの悩みを抱えていることがわかりました。マタニティの方への配慮や、時短勤務の社員への配慮など、何に直面するかは現場ごとに異なります。ワーキングペアレンツをインクルージョンするための、周りへの配慮も必要です。そこで、各リーダーが体験したTipsをシェアできる場を作りました」(大河原さん)
それまでも事例報告をする場はあったものの、現場で多発するさらに細かい情報を共有できるようになったのは大きな一歩だったという。
「他のメンバーと平等に扱うこと。求められるアウトプット・期待値は下げず、 限られた時間の中でどのような工夫をしたら達成できるか。レバレッジできる環境を相談しながら一緒に整える」 とスライドで掲げながら、大河原さんは現場での体験をまとめた。
生産性を高めることで生み出された時間を、新しい価値創造に使う
アクセンチュアの執行役員であり、アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 成長戦略グループ 日本統括の市川博久さん。
撮影/中山実華
市川さんはエンジニアからキャリアをスタートして、激務時代のアクセンチュアを経験したひとり。今、市川さんがリーダーの一人として力を入れて取り組む活動は2つあり、アクセンチュア独自の働き方改革「Project PRIDE」、そして「若者就業支援」だ。
「『Project PRIDE』は“人材こそが競争優位の源泉である”と考えるアクセンチュア独自の全社員イノベーション活動です。ハードとソフト、トップダウンとボトムアップの両輪で改革を推進し、アクセンチュアで働くすべての社員が、プロフェッショナルとして自信と誇りをもてる未来の創造にむけて様々取り組んでいます。取り組みから約9年が経ち、たとえば残業減少や離職率低下、女性比率向上などで成果を出しており、定期的に全社員向けに行っている調査『PRIDE サーベイ』でも数字を挙げています。
何よりもまず、徹底的に生産性を高めること。なぜ個々人が生産性を上げなければならないかというと、変化し続ける現代において、今100の力で仕事をしているとしたら、それを80の力で回していかなければならない。残りの20で新しい価値を創造する必要があるからです」(市川さん)
そこでカギとなるのが「多様性」だ。かつて、効率を重視していた時代は同質性の高い仲間同士で価値を出すのが良しとされるカルチャーだった。しかし、この9年間、多様な社員一人ひとりが活躍できる環境を整えてきた。結果、I&DとProject PRIDE活動を推し進める中でアクセンチュアは「多様」なだけでなく、「インクルージョン」も進んできた。
若者との間に化学反応を起こすには
もうひとつ、市川さんが力を入れているのが「若者就業力強化」だ。不安定就労の状態にある若者が増えているという実態を目にし、「就活アウトロー採用」を立ち上げた。検索をすれば、ビジュアル訴求からすでに驚くかもしれない。
「NPOと連携し若者と企業のマッチング支援を行っていたのですが、彼らと話をしてみると独創性に富んでいて、魅力的な人が多いことに気づきました。しかし、スキルは高いのに“働いたら負け”みたいな感覚を持っている。ひょっとしたら、彼らの生き方を肯定した上でイノベーションを起こす触媒のように彼らを組織に入れることができたら、面白いことが起きるかもしれない。それでNPO法人キャリア解放区と共に立ち上げたのが、就活アウトロー採用です」(市川さん)
若者と企業が相互理解を深める場をつくり多くの議論を行うなかで、若者世代も「自分たちのことを理解してくれる大人がいるんだ」と気づき、化学反応が起こっていった。
「この活動を続けて10年ほど。過去3000人以上がマッチングにより就職し、アクセンチュアでも60名以上を採用しました。離職率が低い点は自分でも驚いています。つまり、個々の生き方を肯定することはイノベーションの源泉になるのです」(市川さん)
制度・マネジメント・対話が転換のカギに
モデレーターを担当した篠田真貴子さん。社外人材によるオンライン1on1を通じて組織改革を進める企業を支援するエール取締役。
撮影/中山実華
真のI&Dを目指すため着目すべきことはなにか? 後半のディスカッションは、3つの観点「制度、マネジメント、対話」を軸に行われ、まずは「制度」について篠田さんの問題提起からスタートした。
「ある大企業の方から、自社はD&Iに関する制度がたいへん充実していると伺ったことがありました。しかし私が感じたのは、その制度があることによる『メインストリームの人材像はこれで、それ以外はマイノリティだ』という強烈なメッセージでした」(篠田さん)
では、制度はいかであるべきか? 大河原さんが例を挙げた。
「ワーキングペアレンツ会が発足したのは、私が所属する部署で育休復帰の社員が8人同時に重なったことがきっかけに。しかし、どうすれば全員いきいきと働くことができるのだろうか。メンバーに希望をヒアリングしても『昇進したい』『子どもとの時間を重視したい』と全員異なり、制度でカバーするのはほぼ無理だ、と気がついたのです」(大河原さん)
そのときに、制度をいかに“使えるカルチャー”にしていくかが非常に重要だと実感した、と語る大河原さんに、モデレーターの篠田さんは「制度を生きたものにするための取り組みで、踏み込んだ対応」と感想を述べた。
続く「マネジメント」に関しては、「好事例の発信」が効果的だと市川さんは話す。
「アクセンチュアではプロジェクト内でも組織内でも様々な施策を行っているが、それらを社内メディアなどで発信し続けている。仲間が実際に体験したこと、こういう方法があるという情報、それが数字になって現れると、チームが動き出すのです」(市川さん)
そして「組織規模で変容させなければならない」というメッセージを日頃からトップが発信することが重要で、かつ効果的であることを強調した。
撮影/中山実華
最後に、組織改革において重要となる「対話」、そして「傾聴」について。
大河原さんは、若い世代の意識の変化を挙げた。カッコ悪い現場、すなわち家庭を顧みず、育休も取らず、残業ばかりしている環境では働きたくないという価値観がある。潤沢な制度や、フレキシブルに働けることをアピールしてもそれらだけでは全く彼らに響いていないことに、面談をして対話を重ねることではじめて理解できた、と語った。
市川さんは、昔と今では働き方同様、求められるマネジメントのスタイルは変化していると話す。昔の働き方、スタイルでキャリアアップをしてきたリーダーの「自身から醸し出される空気感や影響力」は少なからずあり、リーダー自身がそれを認識したうえで部下とコミュニケーションを取らないと「対話」は始まらないという。
「20人の若者を集めて自由に話す場を作ったが、いざはじめてもシーンとして対話が始まらない。そのとき部下に『(自分から)醸し出される空気感』があって、それをメンバーが感じ取るがゆえに自由な発言がしづらい雰囲気が生まれているのだと指摘されました。『(この人に)ここまで話していいんだ』ということが可視化されて、はじめて対話が生まれるということがわかりました。場を和ませ、自由な意見が出しやすいようにあえて対話の場に「突っ込み役」をいれるなどして徐々に本音を引き出していきました」(市川さん)
大河原さんも、「仕事の話でも雑談でもよいのですが、上下関係なく話せる話題が対話のきっかけになると『この人に相談してみようかな』という次なるステップに進める」と、 対話のコツを伝えた。
制度化に留まることなく、対話を重んじたマネジメントが大事であると、次なるステージへのヒントが散りばめられた当セッション。篠田さんは「組織文化とは知性と感性の蓄積である」と、ある経営者の言葉を引用し、「知性は人間理解、感性は相手に関心を寄せ、我がこととして受け止めることなのでは」と会を締めくくった。
撮影/中山実華
Wellbeing conference
個人が活躍し続けるチーム、その中心にあるものとは
大河原久子(アクセンチュア マネジング・ディレクター)、市川博久(アクセンチュア 執行役員 テクノロジー コンサルティング本部 成長戦略グループ日本統括)、篠田真貴子(エール取締役)
アクセンチュアのインクルージョン&ダイバーシティ(I&D)の取り組みについて、詳しくはこちら
取材・執筆/島田ゆかり
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