ラニョーサボラン/ラニョーサボランフォンビエイユNO.35
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世界中のつくり手を訪ね、5000種類を超えるウイスキーを飲んできた「目白 田中屋」店主の栗林幸吉さん。つくり手にも飲み手にも、深い愛情を持つ酒の伝道師である栗林さんの評価が聞きたいと、店には毎日のようにウイスキーやジンなどのサンプルが送られてくる。
「休日には送ってもらったお酒を何十種類と、一生懸命にテイスティングするんです。どれも個性があって面白いけれど、いろいろ飲むうちになにがいいのかわからなくなっちゃう(笑)」
だからこそ“自腹酒”に選ぶのは、自らの感性の指標となる一本。たとえば「ラニョーサボラン フォンビエイユNO.35」。ブドウの栽培から蒸溜、熟成、瓶詰めにいたるすべての工程を自家生産するプロプリエテールのコニャックだ。
「蒸溜所を訪ねると、畑仕事から酒づくりまで、90歳のおばあさんとその娘さんたちが自分たちの手で行っていました。そこにあるのは、本当の意味で変わらないもの。僕ウイスキーがいちばん好きだけど、彼女たちのようなコニャックのつくり手をとても尊敬しているんです」
グランシャンパーニュの自家畑のブドウをていねいに蒸溜し、平均35年もの熟成を経たシングルコニャックの濃密でなめらかな味わいを、栗林さんは「熟成蒸溜酒の王道」と表現する。
「開栓しても悪くならず、1年くらいかけて楽しめるのも蒸溜酒のいいところ。価格は少し高めでも一流のものはいろいろなことを教えてくれますし、なによりも幸せな気分になれる。合わせるなら味わいの邪魔にならないリンゴやチーズなどがいいと思いますが、僕の場合は音楽があればいい。素晴らしい音楽を聴いておいしいお酒を飲んでいると、迷いが消えて、もうなんでもいいやって気分になるんです(笑)」
世界の銘酒を知り尽くす栗林さんにとって、そんな瞬間こそが最高のリラックスタイムだ。
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酒は音楽や映画とともに楽しむのが栗林さん流。長く人々を魅了する王道とも言える味わいのコニャックには、ドリス・デイの不滅のヒット曲「ケ・セラ・セラ」をチョイス。
栗林幸吉
1963年、東京都生まれ。80年代にウイスキーの輸入会社を立ち上げ、その後「目白 田中屋」へ。2010年に「ワールド・ウイスキー・アワード」で世界最優秀小売店賞受賞。目白 田中屋
住所:東京都豊島区目白3-4-14 田中屋ビルTEL:03-3953-8888
※この記事はPen 2025年3月号より再編集した記事です。