1週空いてしまったが、第745回(「ソフトウェアの壁が独立系プロセッサーIPベンダーを困らせる RISC-Vプロセッサー遍歴」)の続きをお届けしよう
米中貿易摩擦の結果、中国の半導体企業がRISC-Vに傾注
2016年後半あたりから、RISC-V FoundationのFoundation Memberは相次いでRISC-Vのコアの開発やRISC-V向けのソフトウェアなどの開発を手がけているが、先にRISC-Vに傾倒し始めたのは中国であった。
中国と米国は2015年頃から不協和音が出ていた。ただオバマ政権時はあまり強硬な手段を取らなかったこともあり、それほど大きな問題にはならなかった。しかし、2017年にトランプ政権に変わり、デカップリング政策を取ったことで急速に関係が悪化する。
BIS(米商務省産業安全保障局)は、特定技術を利用した製品の輸出や移転をする際に認可を必要とするリスト、いわゆるエンティティリストにファーウェイを載せたことで、同社製品の販売に支障が出るようになった。2018年8月に施行された国防権限法では、米軍および米国政府が、中国当局に近いと見なされる企業から製品を購入できなくなり、これにはファーウェイだけでなくZTEなども含まれていた。
この動きはエスカレート。2019年5月にはArmのIPをファーウェイが利用することを禁ずる(正確にはArmに対して、ファーウェイとその関連会社への取引禁止措置が取られた)という騒ぎになる。
この時点では、Armはまだ英国の会社であったにも関わらず、この措置が可能だったのは、テキサス州オースチンに拠点を構える同社デザインチームで設計されたものがIPの中に含まれている可能性があるから、という半ばこじ付けの理由ではあるのだが、そうは言ってもArmが米国政府の意向に単独で逆らうのは難しい。
最終的には、ファーウェイに提供されるものは英国で設計されているということで同年11月に撤回になった。しかし、これらの状況を中国企業は注視していた。つまり米国製プロセッサを始めとするIPを使う限り、リスクを抱えることなると認識したわけだ。
ソフトバンクがArmを買収
ArmのIPを使い続けることはリスクがあると判断されるように
これに先立つこと2016年7月には、ソフトバンクがArmを買収している。この時点ではまだ「ソフトバンクは独立系ファンドであり、特定のメーカーに有利になることはない」と認識されていたものの、ファンドである同社が半導体IPベンダーをずっと保持するというのは基本的にあり得ないから、「どこかのメーカーに売り払われるリスクがある」と認識されるようになった(このことはNVIDIAへの売却が公開された時点で現実化した)。
つまりArmのIPを利用すると、長期的に特定のメーカーの管理下に入るというリスクを考える必要が生じたことになる。これを受けてリスクヘッジが求められるようになった。そこに来て、冒頭の米中半導体紛争である。単にファーウェイやその子会社のHiSiliconだけでなく、そのほかの中国系半導体メーカーにとっては、ArmのIPを利用するのはリスクが高い選択肢になったのだ。

この連載の記事
-
第812回
PC
2倍の帯域をほぼ同等の電力で実現するTSMCのHPC向け次世代SoIC IEDM 2024レポート -
第811回
PC
Panther Lakeを2025年後半、Nova Lakeを2026年に投入 インテル CPUロードマップ -
第810回
PC
2nmプロセスのN2がTSMCで今年量産開始 IEDM 2024レポート -
第809回
PC
銅配線をルテニウム配線に変えると抵抗を25%削減できる IEDM 2024レポート -
第808回
PC
酸化ハフニウム(HfO2)でフィンをカバーすると性能が改善、TMD半導体の実現に近づく IEDM 2024レポート -
第807回
PC
Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ -
第806回
PC
トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート -
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート -
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 - この連載の一覧へ