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我々が峠恵子さんをお招きしたのは、彼女の歌が聞きたいという思いがあったからでもある。そのため2次会はカラオケルームを確保していた。ほどなくして峠恵子リサイタルが始まるかと思いきや、いきなり本の話へと大きく舵が切られる。峠恵子の歌声と折り重なるように本の紹介が始まり、「あ〜、あれね!」と懐かしい掛け声が飛び交った。往年の名曲たちと最新のノンフィクション本に、時々お酒の話も添えて紹介させていただきます。 ◆ 成毛 眞 量子超越: 量子コンピュータが世界を変える作者: ミチオ・カク 翻訳: 斉藤 隆央 出版社: NHK出版 発売日: 2024/12/25 成毛眞と中野亜海コンビが次に企画している本は、難しい内容を中学3年生向けに作るジュブナイル的な一冊だ。最近は小難しい本の売れ行きが良くないなか、本書は成毛がイメージしている「これから売れそうな本」とのこと。余談だが、私は旅行中の随所に中野の編集
HONZ活動記 in 伊豆① はこちら HONZ活動期 in 伊豆・番外編はこちら 宴会開始 海底温泉でウミガメやサメを堪能していたらあっという間に18時になった。さぁ、宴会の時間だ! 一同、宴会場「金波」に集合する。舞台、金屏風、スタンドマイクと会場は整った。皆、浴衣に着替えたかーい? 「昭和の社員旅行」というコンセプトの通り、形式をきちんと守ろう。まず、代表を舞台に誘い、乾杯の挨拶をいただく。成毛眞も「普段はこんなことやらないんだけど」と言いながら、ノリノリである。 成毛代表挨拶。「ほんのちょっとした出来心でHONZを始めて13年、ノンフィクションの書評は社会的なパワーを持ちました。少しは社会を変えたかなという印象です。さぁ、今日限りで、HONZのことはさっぱり忘れて、明日から頑張りましょう!乾杯!」かんぱーい!! 私は今回の幹事を担当したご褒美として、HONZパーカーをプレゼントいた
2024年7月15日、13年間続いたHONZは遂に幕を閉じた。初期メンバーはたった10人のキュレーター勉強会から始まり、その後メンバーが入れ替わり立ち替わり、24年7月には総勢24人という大所帯にもなったが、「もう、やり切ったかな」というテンションで呆気なく終わった。 「せっかくだから卒業旅行をしよう」成毛眞の呼びかけにより、師走の忙しい時期にもかかわらず26名が集まり、1泊2日の伊豆旅行に出かけた。懐かしいメンバーが集まり宴会をしただけの活動期ではあるが、「本好きってどんなところに旅行に行くの」「本好きが集まって何話すの」ということに興味があれば、ぜひご笑覧ください! HONZ旅行企画会議 企画者の東えりかの繁忙期によりバトンを受け取った刀根だが、とんでもなく荷が重い。一番難しいのは場所の選定である。全国から集まりやすい場所として、伊豆方面というのは確定だ。あとは、好事家で捻くれ者のメン
2011年7月15日にオープンしたノンフィクション書評サイトHONZ。本日2024年7月15日をもちまして13年間のサイト運営に終止符を打つこととなりました。 2011年の東日本大震災から、記憶に新しいコロナ禍まで。はたまたFacebookの時代からChatGPTの到来まで。その間に紹介してきた記事の総数は6105本。 発売3ヶ月以内の新刊ノンフィクションという条件のもと、数々のおすすめ本を紹介する中で、様々な出会いに恵まれました。信じられないような登場人物たち、それを軽やかなエンターテイメントのように伝える著者の方たち、その裏側で悪戦苦闘を繰り広げていたであろう版元や翻訳者の皆さま。さらに読者へ届ける取次会社や書店員の皆さま、そしてHONZを愛してくださったすべての皆さま、本当にありがとうございました。 サイトを閉じることになった理由に、明快なものは特にありません。こんなサイトがあったら
あなたがあの曲を好きなわけ: 「音楽の好み」がわかる七つの要素 作者: スーザン・ロジャース,オギ・オーガス 出版社: 化学同人 発売日: 2024/3/26 音楽は好きでも、音楽の話をするのはわりと苦手だったりする。 自分が微妙だと思うアーティストを好きと言われたら返答に困るし、一見好みが近いように見えても実は「良い」と感じているポイントが全然違って噛み合わないこともある。 同じ曲を聴いても、人によってなぜこれほど感じ方が異なるのか。自分が大好きな曲があの人の琴線には触れず、あの人が最高だと言う曲はなんだかピンとこない理由はどこにあるのか。そんな謎を解くヒントを授けてくれたのが本書である。 聴き方の違いとしてときどき目にするのが「歌詞重視かメロディー重視か」問題である。自分の場合は歌詞よりも断然サウンドの方に意識が向きがちで、どんなに歌詞が評価されていようが音が好みじゃない曲はハマりきれ
英国の本屋さんの間取り 作者: 清水 玲奈 出版社: エクスナレッジ 発売日: 2024/7/4 2016年以降、イギリスで書店の数が増え続けているという。書店の減少が止まらなかった2010年頃から何がいったい変わったのだろう。コロナ禍が明けた頃、2023年1月6日のBBCニュースは「20年ほど続いた書店の減少に、確実に歯止めがかかった」と報道、この同じ年にイギリスでは51軒の独立系書店が創業したという。 もちろん古い個性派書店も多いお国柄だが、そういう店ほどうまくリセットして再出発している感さえある。そんな新旧19軒の本屋さんを、1996年の渡英以来、書店や出版、カルチャー系を追い続けてきたジャーナリストの清水玲奈さんが、追う。 個性派書店と言っても、当たり前だが紹介される19軒は多種多様で、成り立ちもそれぞれだ。 例えば、LV MHグループの出資を受けた出版社、アスリーンの豪華なビジュ
ボーアとアインシュタインに量子を読む――量子物理学の原理をめぐって 作者: 山本義隆 出版社: みすず書房 発売日: 2022/9/12 山本義隆さんといえば、毎日出版文化賞と大仏次郎賞をダブル受賞した『磁力と重力の発見』をはじめ、『十六世紀文化革命』や『世界の見方の転換』など、浩瀚な科学史の著作がまず頭に浮かぶ。だから、このたびの『ボーアとアインシュタインに量子を読む』も、量子物理学の歴史の本なのだろうと予想して手に取った。 ところがページを開くなり、その予想はハズレたことを知った。山本さんは「はじめに」の冒頭で、こう宣言していたのだ。 本書は、物理学の書です。記述は歴史的でもあり、時に哲学者の言説にも触れていますが、しかし量子力学史ではなく、ましてや科学哲学の書でもなく、基本的には量子物理学の原理的な理解のための書です。 「あ、そうなんだ。物理学の本なんだ」と、わたしは頭を切り替えてペ
1兆円を盗んだ男 仮想通貨帝国FTXの崩壊 作者: マイケル・ルイス 出版社: 日経BP 日本経済新聞出版 発売日: 2024/6/26 この『1兆円を盗んだ男』は、『マネー・ボール』や『最悪の予感』などで知られるマイケル・ルイスの最新作。今回彼がテーマに選んだ人物は暗号資産取引所FTXを立ち上げ莫大な富を築き上げた後、2022年に逮捕されてしまった男サム・バンクマン=フリードだ。 マイケル・ルイスといえば複雑な題材であっても見事な一本筋の通ったストーリーに仕立て上げるノンフィクションの名手だ。しかし、本書ではさすがにそうもいかなかったらしい。最終的には年間で10億ドルもの利益をあげるようになり、20代で長者番付にも名を連ねた暗号資産の若き天才に幼少期から迫る──というプロローグながら、マイケル・ルイスの取材中にFTXは破産。 その後、サムはFTXの破産と関連した詐欺やマネーロンダリングを
定年後に読む不滅の名著200選 (文春新書 1442) 作者: 文藝春秋編 出版社: 文藝春秋 発売日: 2024/3/19 本読みは人がどんな本を読んでいるかを気にする。同様に本好きは、自分が読んでいない名著が気になって仕方がない。おそらくHONZの読者もそうだろうが、私はブックガイドと見れば直ちに購入してしまう。そして本書は「定年後に読む」と名打っているのだ。 「人生100年時代」と言われ始めて、寿命が100歳前後まで伸びる話が現実味を帯びてきた。人生を教育・仕事・老後の3ステージで区切ってみると、平均寿命80年そこそこの時代は、教育20年、仕事40年、老後20年のスパンだった。 それが100年時代になると、老後が仕事と同じ何と40年まで延びてしまう。つまり、現役時代に匹敵する時間をどう過ごすかが、大きな課題となってきたのである。 私も24年教授を勤めた京都大学を3年前に定年となり、定
死の貝:日本住血吸虫症との闘い (新潮文庫 こ 28-2) 作者: 小林 照幸 出版社: 新潮社; 文庫版 発売日: 2024/4/24 小林照幸『死の貝 日本住血吸虫症との闘い 』(新潮文庫)が注目されている。4月24日に上梓されて以来、現在4刷、累計2万6千冊のスマッシュヒットだ。26年前の1998年に出版された本が、なぜいまこんなに注目を浴びているのか。以前より小林照幸の本を”激推し”してきた東えりかと、医学者・仲野徹が話を聞いた 仲野 『死の貝』は昔読んだ記憶があったけれど、文庫化されたのも20年以上時間が経ってからだし、こんなに注目されることってある?と不思議になりました。どうして突然文庫化されたんですか? 小林 それは新潮社さんからご説明頂きましょうか。 編集部 もともと新潮社の営業部と未来屋書店で、月に一回、情報交換の定例会議をしています。そのなかで女性書店員さんが「そういえ
医学問答 西洋と東洋から考えるからだと病気と健康のこと 作者: 仲野徹,若林理砂 出版社: 左右社 発売日: 2024/6/27 この本を読み終えたら、きっと「あぁ面白かった」と思われるはずです。「勝手なこと言うな、なんでそんなことがわかんねん!」とお叱りを受けるかもしれませんが、まずはその理由を。 この本の企画は出版元である左右社の編集者・梅原志歩さんからいただいた企画書に始まります。そこには、 「西洋医学と東洋医学の専門家が『不調と病気との付き合い方』について徹底問答! 西洋医学と東洋医学はなにが違うのか、また違うに思えて実は共通するところも(あるのかどうか)? からだとはなにか、病気とはなにか、なおるとはなにか。両者の立場から自分の体を見つめることで、自分のからだの心地よい状態、そこそこ健康な生き方を考える」とありました。 さらに、「・自分のからだについて異なった視点から知ることがで
「明鏡止水 武のKAMIWAZA」というNHKの番組をご存知だろうか。格闘家でもある俳優の岡田准一が司会を務め、武道各流派を率いる一流の武術家たちが集結し、真髄を語り秘儀を披露していく。録画をして繰り返し観るほど私の好きな番組だ。 『シャーロック・ホームズの護身術バリツ:英国紳士がたしなむ幻の武術』には技の説明のため120点を超える写真が掲載され、中には袴を穿く人物が登場している。動いている姿を見てみたいという欲望が沸き上がる。この番組で実演してくれないだろうか。 「バリツ」という格闘術が一般に有名になったのは、ひとえに〈名探偵シャーロック・ホームズ〉シリーズの「空き家の冒険」で、宿敵のモリアーティ教授の死闘を回想したこのシーンからだ。 ―崖っぷちから落ちかけたぼくたちは一瞬ふたりそろってよろめいたんだ。でもぼくは日本の格闘術であるバリツを少々かじっていて、何度もそれに救われたことがあって
2015年8月、衝撃的な写真が新聞に掲載された。北アルプスのライチョウがニホンザルに捕食されている姿が初めて撮られたのだ。ライチョウの生息数は激減している。そこに新たな天敵としてサルが加わることは大きな脅威となる。 世界的なライチョウの研究者で信州大学名誉教授の中村浩志は緊急記者会見を開き、マスコミを使って警告した。このままでは絶滅すると。 信州大学農学部卒の著者、近藤幸夫は当時朝日新聞長野総局の山岳担当記者。この記者会見までそれほどライチョウに興味を持っていたわけではない。 だがここで会った中村の熱い思いに圧倒され、取材者の立場を越えて、スタッフとなり、早期退職をしてしまうほどのめり込んでいく。 「鳥の気持ちが分かる」と中村は言う。幼い頃から鳥に興味を持ち、カッコウの研究では世界のトップレベルにあった。中村の恩師である羽田健三から引き継いでライチョウの研究を継続したのも自然のことだった。
読み終えたあとも、まだ消化できないものが残っている。こと読書では、これはマイナス評価ではない。たやすく消化できるものばかりが良い本とは限らないからだ。 この本の消化しづらい感じをどう説明すればいいだろう。とても大切なことが書かれているのに、それを著者と同じように理解するのは難しい、とでも言えばいいか。あるいはもっとわかりやすくするなら、次のような問いに言い換えることもできるかもしれない。 〈愛する人が傷つけられたとき、加害者を赦すことができるか〉 著者は「西鉄バスジャック事件」の被害者である。犯人は当時17歳の「少年」だった。 2000年5月3日、著者は友人の塚本達子さんと一緒にバスで福岡へと向かっていた。ふたりが乗ったのは、佐賀駅バスセンター12時56分発福岡天神行、西鉄高速バス「わかくす号」。「少年」が不意に立ち上がったのは、バスが佐賀駅前を出発して、高速道路に入って間もなくだった。
皆さんはコミュ力に自信がおありだろうか?もしそれほど自信がないのであれば、本書の冒頭に記されている言葉はかなり衝撃的なはずだ。本書はこのような書き出しから始まる。 あなたの言葉が伝わらないのは、あなたに人としての“魅力”が欠けているからである。 どうであろうか。バットか何かでぶん殴られたような衝撃を受けないだろうか?かく言う私もコミュ力が低いことを自認しているため、本書の冒頭部分を読んだだけで、KO負けしたかのようなダメージを食らった。何しろお前には人としての魅力が欠けていると言われているのだ。これほどの攻撃力ある言葉もなかなか無いではないか。しかも厄介なのは、これが個人の経験のみで書かれた自己啓発本ではないということだ。本書はサイエンスジャーナリスト鈴木祐がコミュニケーションに関する科学データ3128個を精読し導き出した帰結なのだ。某論破王気取りで「それって、あなたのかんそうですよね」な
『あらゆることは今起こる』、芥川賞作家・柴崎友香さんの最新作である。いかにも小説っぽいタイトルだが、そうではない。柴崎さんが40代の後半でADHD(注意欠如・多動症)と診断を受けられ、治療薬のひとつであるコンサータを服用、いかに変わられたか。その自分の経験からADHDやASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害について考えていかれるノンフィクションである。 小学校六年生の修学旅行で夜更かしして翌日眠たくて、それ以来一回も目が覚めた感じがしなかったんですが、今、三十六年ぶりに目が覚めてます それって映画「レナードの朝」のロバート・デ・ニーロやん、と思わず突っ込んでしもた。スンマセン。柴崎さんがコンサータの最初の一錠を服用された時の感想だ。つい小説的な表現かと思ってしまいそうやけど、「比喩でもないし誇張でもない」と続けられている。 ドーパミンやノルアドレナリンという名前は聞かれたことがあるだ
太平洋戦争末期、小笠原諸島の硫黄島でアメリカ軍と栗林忠道陸軍中将率いる日本軍の激戦があったことは、クリント・イーストウッド監督の映画『硫黄島からの手紙』で若い人にまで広く知られている。 日本軍兵士約2万3000人のうち戦死者は約2万2000人。だが1万人分の遺骨がいまもなお見つかっていないということを知っているだろうか。 著者の祖父は小笠原諸島父島の防衛に携わる部隊に居り、終戦後は衰弱した身体で帰還した、と著者は幼い頃より聞かされて育った。 北海道新聞の記者となってから、硫黄島で玉砕した戦没者の遺児で遺骨収集団に15回も参加している三浦孝治さんと出会う。 取材者として参加することは禁じられていた。だがすでに老齢に達していた三浦さんから聞く遺骨収集の過酷な現実に衝撃を受けた著者は参加を決意する。この戦闘に関係した者の孫として遺骨の収集を行いたいという純粋な気持ちからだった。 硫黄島は地熱温度
2024年の元日に能登半島地震が発生し、多くの犠牲者が出た。現在も復興作業が続けられている最中だが、その後も千葉県・房総半島沖で地震が頻発するなど、日本列島周辺の地盤変動が止まらない。 巨大地震と津波が東北・関東地方を襲った東日本大震災から13年が経ち、多くの人が「日本は地震国」であることに改めて気づかされた。それ以後も熊本地震や北海道胆振(いぶり)東部地震など震度7を観測する大地震が次々と発生し、人々の不安が強まっている。 地学を専門とする私の目からは、未曾有(みぞう)の災害をもたらした東日本大震災は「まだ終わっていない」のである。というのは、日本列島で1000年ぶりに起きた大変動は今も継続中だからだ。 東日本大震災の直後から、地球科学者が「地殻変動」と呼んでいる地盤に対する大きな歪みが日本各地で地震や噴火を引き起こしてきた。 ちなみに、私が一般市民や中高生に向けて講演会や出前授業を行う
インターネット30周年を祝うイベントが開かれていた1999年頃、ネット関連の会議などで頻繁に話題に上る本があった。それは、その前年に出版された本書『ヴィクトリア朝時代のインターネット(The Victorian Internet)』という不思議なタイトルの本だった。これを読んだ関係者が、「たかだか数十年の歴史しかないとされるインターネットだが、実はそのルーツは19世紀にまで遡ることができるんだ!」と胸を張っていたことを思い出す。 「インターネットの父」と呼ばれ、69年の最初の実験にも加わり、現在はグーグルのチーフ・インターネット・エヴァンジェリストという肩書きを持つヴィントン・サーフ氏もこの本を絶賛し、2008年に日本国際賞を受賞した際のスピーチでも言及している。「ネット業界のカルトな古典」とまで言われ、英国ではテレビ番組も作られたこの本の邦訳が、やっとここに出ることとなった。 もちろん、
不思議だと思っていた。にぎやかな下町に住んでいるとはいえ、徒歩圏内に「インド料理店」が五軒もある。うち一軒はビリヤニなどもメニューにあるホンモノのインド料理店だけれど、他の四軒は「インド・ネパール料理店」で、メニューも値段もえらく似通っている。 さらに不思議に思ったこともある。ちょうど5年前、トレッキングでネパールへ行った時にわかったのだが、カレーがほとんど出てこない。代わりによく食べた、というより食べさせられたのはダルバートだ。豆(ダル)のスープと米(バート、もちろんインディカ種)がメインで、そこにカレーに似た、といってもそれほどスパイシーではないタルカリというのがついていて、アチャールという漬物や薬味が添えられている。トレッキングのガイドさんたちは毎食ダルバートばかり食べていた。 ずいぶんと前だが、日本の「インド料理店」はほとんどがネパールの人によって経営されていると聞いたことがある。
作者: デイヴィッド・グラン,David Grann 出版社: 早川書房 発売日: 2024/4/23 本書『絶海――英国船ウェイジャー号の地獄』は、2023年にダブルデイ社から刊行されたデイヴィッド・グランのノンフィクション、The Wager: A Tale of Shipwreck, Mutiny, and Murder の翻訳である。 原書は、刊行された2023年4月からこれまで40週以上連続でニューヨーク・タイムズのベストセラーリストにランクインしている。オバマ元大統領の2023年読書リストに選ばれた他、CBSニュースの番組「60ミニッツ」が本書と著者グランの特集番組を制作放映。ウォール・ストリート・ジャーナル、GQ、エコノミスト、ボストン・グローブ、ニューヨーク・タイムズ、トロント・スター、ロサンゼルス・タイムズ、ニューヨーク・マガジン、タイム、グローブ・アンド・メール、エル、
まだ学生だった頃の話である。その日、山手線のある駅で待ちぼうけを食っていた。ふと周りをみるとギャラリーがある。ガラス張りで見通しがきくし、これなら待ち人と行き違うこともなさそうだ。それに暇つぶしに絵画鑑賞なんてしゃれてるじゃないか。そう考えて足を踏み入れたのが間違いだった。 入ると、若い女性が満面の笑みで寄ってきて絵の説明をはじめた。熱心だなと好印象を抱いたが、途中からやけにボディタッチが多いのが気になった。そのうち話がおかしな方向に向かっていることに気づいた。彼女は作品の解説をしていたのではなかった。売りつけようとしていたのだ。 いくら断っても彼女は一歩も引かない。お金がないと言えば、48回払いをすすめられ、待ち合わせ中だと言えば、ぜひお友だちもご一緒にとぐいぐい迫ってくる。結局どう振り切ったか覚えていないのだが、なんとか難を逃れた。 あの時、あやうく売りつけられそうになったのが、クリス
近所に夜中まで開いている小さな本屋がある。開いているといっても、頑張って遅くまで営業しているという感じではない。店先に並べられた雑誌はかろうじて最新号だが、棚にある書籍は、すべて背表紙が日に焼けて色褪せている。そして店の奥では、本の山に寄りかかるように、おじいさんがひとり眠っているのである。 終電近い時間に前を通ることが多いが、老店主はいつも眠っている。客の姿も見たことがない。まるで時が止まっているかのようだ。書店が危機に瀕しているというニュースを目にするたびに、くたびれたこの本屋を思い出す。 街の書店が次々に姿を消している。書店がない自治体はいまや全国の約4分の1にのぼるというが、近年は都市部ですら書店の空白地帯が目につく。通い慣れた店の閉店の知らせを聞くことも珍しくなくなった。 本書は、逆風の中で模索を続ける全国の11の書店を追ったノンフィクションである。どうすればもっと本を手に取って
あれから10年です。 国民的人気番組だった『笑っていいとも!』が約32年間の歴史に幕を閉じた日から、きょう(2024年3月31日)で、ちょうど10年です。 社会学者として、これまでに多くのテレビ論、アイドル論をものしてきた太田省一さんの最新刊は、あの番組を、ただ懐かしむだけではありません。 タモリとはどんな存在なのか。新宿とはどんな街なのか。そして、テレビの未来、さらには、戦後民主主義の理想まで、やさしいことばで解き明かしてくれています。 あの番組の舞台「スタジオアルタ」があった「新宿アルタ」(東京・新宿駅東口駅前)について、先日、所有する三越伊勢丹ホールディングスが、その営業を2025年2月28日で終了すると発表しました。 また、ちょうどこの3月で、「ブラタモリ」のレギュラー放送が終わりました。 あれから10年が過ぎ、時代が変わるなかで、もうタモリは、テレビの第一線から身を引いてしまうの
「イノベーションは加速化する」なんてウソや! 『Invention and Innovation : 歴史に学ぶ「未来」のつくり方』 「やっぱり自分の考えが正しかったんや!」 思わずそう叫びたくなった。 多くはないが、大勢の意見と自分の考えが違っていることがある。気にしなければいいのだが、どうにもモヤモヤする。そのひとつが「イノベーションは加速化する」というやつだ。ウソとちゃうんか。どの程度のことからをイノベーションというのかは難しいけれど、そもそもイノベーションというものはそうそう出てくるものではないだろう。 すこし広げて、イノベーションだけでなく発明も含めて考えてみよう。確かに、ある分野が爆発的に進むことはあるかもしれない。しかし、それが長期間にわたって続くなどということはありえないのではないか。収穫逓減というやつだ。1年半で集積度が倍々になるという半導体回路におけるムーアの法則がある
一見関係のないものを掛け合わせると、思いもよらない新しいものが生まれることがある。本書は「中国現代史」と「トヨタ創業家の歴史」を組み合わせることで、これまでにない角度からトヨタの核心部分を描くことに成功している。 異質なものを掛け合わせるには触媒が必要だが、本書では、ひとりの男性がその役割を務める。男の名は、服部悦雄。”低迷していたトヨタの中国市場を大転換させた立役者”であり、”トヨタを世界一にした元社長、奥田碩を誰よりも知る男”であり、”創業家の御曹司、豊田章男を社長にした男”でもある。そんなキーパーソンへの長時間にわたるインタビューをもとにまとめられたのが本書だ。 この本には読みどころがふたつある。ひとつは、中国現代史の暗部を身をもって体験した服部の貴重な証言。そしてもうひとつは、トヨタと中国との知られざる因縁である。 服部の半生は異色だ。1943年(昭和18年)、旧満州の伊春市生まれ
アメリカのミシガン湖とデス・プレインズ川をつなぐシカゴ・サリタニー・シップ運河。およそ45kmにわたるその川の一画に、不穏な看板が掲げられている。「危険」、「この先、魚用の電気バリアあり。感電の危険大」。しかし、それほど危険な電気バリアがなぜ川に仕掛けられているのだろうか。 その理由は、わたしたちと自然の複雑な関係を象徴している。サリタニー・シップ運河がまだ存在しなかった19世紀、シカゴ市の汚水はシカゴ川に垂れ流され、最終的にはミシガン湖へ流れこんでいた。だが、ミシガン湖といえば、当時もいまもシカゴ市唯一の飲料水源である。そこで、20世紀初頭に運河を開通させ、川の流れを逆転させることにしたのである。 図 シカゴ・サリタニー・シップ運河の開通とその後の川の流れ。本書21頁より。 その結果、シカゴの汚水はミシガン湖ではなく、デス・プレインズ川へ、それからイリノイ川へ、そして最終的にはメキシコ湾
社会学者、と聞いて、誰をイメージするでしょうか? 古市憲寿さん、岸政彦さん、宮台真司さん・・・。 世代などによって、かなり異なるかもしれません。 今回、わたしが書いた加藤秀俊先生は、どうでしょう(個人的に教えを受けたので「先生」と呼びます)。 この本を校正していた昨年9月に93歳で亡くなりました。最晩年には『九十歳のラブレター』が広く読まれていたので、そのお名前を再認識されたかたも少なくないはずです。 戦後に活躍した社会学者のなかで、最も早く「著作集」を出した人でもありますし、「加藤秀俊データベース」に掲載されている膨大な文章を書かれてきました。少なくともある時期までは、日本で最も有名な社会学者(のひとり)でした。 その加藤先生についての拙文をふくむ『戦後日本の社会意識論 ある社会学的想像力の系譜』は、戦後に活躍した社会学者についての、評伝選と言えるものです。ほかには、鶴見俊輔(を社会学者
う~ん、あかんがな。読み始めてすぐにそう思った。エッセイとは本来こういうものを言うのだろう。う~ん。なにがあかんか、まずはその話から。 最相葉月さんといえば、押しも押されもせぬノンフィクションライターだ。『絶対音感』を読んだ時の衝撃-テーマへの迫り方の凄さ-は今でもよく覚えている。それだけではなく、エッセイの名手でもある。 ずいぶんと前になるが、「我が心の町 大阪君のこと」を、記憶が正しければ文藝春秋の巻頭エッセイで、読んだ。このエッセイが元になって、後年、真中瞳主演の映画「ココニイルコト」が作られたほどだから、大きな広がりを感じたのは私だけではなかったのだ。エッセイの舞台が大阪だったということともあるが、その視線の温かさにすっかりファンになった。 ちなみに、この映画、まだ無名だったころの堺雅人が「大阪君」の役で登場し、「ま、ええんとちゃいますか」というセリフを絶妙にずれた大阪弁で話してる
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