なぜ『F-ZERO 99』はレースゲームとバトロワを「次の高み」に乗せたと言えるのか?
この路線で新作を、この路線で新作を!!
Nintendo Switch Online加入者向けのタイトル『F-ZERO 99』は、単なる「サブスクのおまけ」ではない。レースゲームとバトルロイヤル(バトロワ)をかけあわせ、新たな可能性を引き出したゲームなのである。
……とプレイするたびに感じるのだが、この素晴らしさを表現する人はあまり多くない。しかし、楽しんでいる人は本作の魅力にうっとりしているのだと思う。
ならば、書かねばならない。『F-ZERO 99』がレースゲームとバトロワを「次の高み」に乗せたと言える理由を。
「リスクとリターン」を中心に据えた見事なルール
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『F-ZERO 99』は、1990年に発売されたスーパーファミコン用ソフト『F-ZERO』にバトロワ要素をかけあわせた新作である。
ルールはシンプル。99人のプレイヤーが同時にレースを行い、1位を目指すというものだ。しかし、互いのプレイヤーは当然ながら邪魔をし合うわけで、トップになるのは容易ではない。
基本システムで特に秀逸なのが画面右上にある「パワーゲージ」だ。これはプレイヤーの体力であると同時に、ブーストゲージでもある。なくなればブーストができなくなるだけでなく、ほかのマシンにやられてしまう可能性が出てくるわけだ。
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パワーゲージがなくなった状態で攻撃されたり壁にぶつかると、マシンは「F-ZERO」らしく大爆発を起こしてしまい、当然ながらその時点でクラッシュアウト(失格)となってしまう。ゆえにパワーゲージを温存したくなる。
しかし、パワーゲージを大事にしすぎていると上位にはなれない。ブーストできないのだから当然のことで、多少は危険を冒しててもゲージを消費して上位を目指すべきである。つまり、基本システムにおいて「リスクとリターンの駆け引き」が実現しているわけだ。
リスクをとればリターンが得られる可能性があるというのは、ビデオゲームにおいて重要である。危険なリスクに肝を冷やしてドキドキするし、大きなリターンを得られれば喜びも倍増するからだ。
勝利と敗北にグラデーションをつける配慮
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シューター系バトロワが流行しているとき、その一因として「勝者はひとり(もしくは一組)なので負けても当然」という理由を挙げる人がいた。
これは間違いだとは思わないが、完璧なやり方ではないように思える。そもそもシューター系バトロワは「やられた時=順位が決定する時」が多いので、どうしても負けを意識するのは間違いないのである。
しかし、『F-ZERO 99』はこの点をもう一歩進めている。本作は負けにも勝ちにも以下のようなグラデーションを用意しており、プレイヤーそれぞれの目標を持てるようにしているのだ。
- パワーゲージがなくなり爆発(確実に負け)
- 無事ゴールできる(最低限のハードル越え)
- ライバルに勝つ
- 1位になる
初心者はまずゴールすることを目指し、次は順位を上げてライバル(試合開始時に実力が近い人が自動的に認定される)を越えられるように努力し、最後はしばしば1位を取れるようなプレイヤーへの進化を目指すわけである。
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当然ながら、やられて順位が決定するよりもゴールして順位が決まるほうが心地よい。目標が小刻みになっているおかげで、20位くらいの結果でも「悪くはなかったな」と思えるのである。
また、シューター系バトロワは序盤・中盤でやられてしまったプレイヤーが終盤の重要な展開を練習できないといった問題も存在する。『F-ZERO 99』は1レースが2~3分とかなり短く快適で、やられなければ最後まできちんと走れるのである。
上位プレイヤーへの妨害や、皆が積極的になる仕組みもきちんとある
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もちろん、上記の要素だけですべてを解決することはできない。『F-ZERO 99』は、バトロワとレースゲームを組み合わせたときに起こりうる問題を丁寧に解決しているのだ。
混戦になりやすいレースゲームは1位を維持すると安定するが、本作では赤いバンパーに気をつけなければならない。これは爆発してパワーゲージを大きく削る厄介なもので、上位のプレイヤーにとってかなりの障害となる。
敵に吹き飛ばされて赤いバンパーを食らうこともあるし、これを避けて走ったらギリギリを攻めたほかのプレイヤーに抜かされることもある。しかも赤いバンパーはかなりの数が出てくるので、1位であること自体に相応のリスクがある。
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下位プレイヤーには救済があり、黄色い玉(エネルギーアイテム)を一定数獲得すれば「スカイウェイ」を利用できるようになる。
スカイウェイは障害物のない上空の道を走れるというもので、一気に順位を上げることが可能だ。エネルギーアイテムは下位プレイヤーほど獲得しやすくなっているので逆転要素になっているし、どのタイミングで使うかの戦略にも関係してくる。
また、本作は4種類のマシンが用意されているのだが、これも絶妙な性能差が存在する。上位プレイヤーの人気が偏ることはありうるだろうが、どれも一長一短になるようにはなっているだろう。
敵プレイヤーを倒すとパワーゲージが回復&上限アップするのも重要な要素だ。バトロワ系ゲームではあえて消極的になることも戦略のひとつだが、それでは試合の盛り上がりが欠けたいわゆる塩試合になってしまう。敵を倒すことに大きなメリットをつけると、それを防ぐことができる。
レース中に敵プレイヤーをクラッシュアウトさせるのは容易ではないものの、倒せれば非常に大きなチャンスとなる。プレイヤーを攻撃的にする動機もきちんと用意しているのだ。
「完全新作で作ってほしい」と思えるほどのゲーム
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このように『F-ZERO 99』はレースゲームとバトロワのよさを組み合わせつつ、既存のバトロワにおける問題をしっかりと潰して強みに昇華できている。Nintendo Switch Online加入者向けとはいえ、無料なのに驚く出来栄えだ。
もっとも、本作が完全無欠なわけではない。やはりレトロゲームを元にしたタイトルなので、グラフィックやサウンドが弱いと感じるのも正直なところだ。
99台のマシンがぶつかり合うのは迫力があるものの、いまの3Dグラフィックで描けばより激しいものになるだろう。サウンドも軽い印象を持ってしまうので、ぶつかる音や爆発音が大迫力であればより興奮できる作品になるのは間違いあるまい。
とはいえ、その弱点を飲み込んだとしても『F-ZERO 99』は注目すべき作品だ。この路線で「F-ZERO」シリーズの続編を出してほしいほどだし、それが難しければなんらかのレースゲームでこのシステムを取り込んでほしいと思えるほどである。
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『F-ZERO 99』はレースゲームとバトロワを「次の高み」に乗せたゲームである。それは間違いないだろう。