就活を勝ち抜くための3つのポイント

近年、企業の新卒採用活動では学生優位の売り手市場が続いており、今年もその情勢が続く見通しとなっています。一見すると、これは就職活動をする学生さんにとって非常に有利な状況です。

しかし、好条件の求人の増加や早期内定など就活が有利に進む一方、選択肢が増えることに伴い、意思決定の難しさや多くのオファーにより迷いが生じ、自身にとって最適な選択をするのに苦労する人が増えることも懸念されます。

このような状況のなか、新卒の大学生が「売り手市場」の就職活動の中で自分に合った就職先を選択し、面接で採用を勝ち取るためには、“企業の決算書を読み解く力”を持っていることが必要になります。

就活で採用される可能性を高めるためには「自己分析」「企業分析」「大手にこだわらず中小企業にも選択肢を広げる」の3つのポイントがあるとされています。

このうちの「企業分析」に必要なのが決算書を読み解く力になりますが、その前の「自己分析」も、自分に合った就職先を選択するためには重要なポイントです。

就活では、有名企業やホームページの魅力だけで選ぶ人も多いでしょう。しかし、それでは見た目だけで人を判断するようなものです。

その結果、職場環境や仕事内容が合わず、精神的につらくなったり、早期退職につながる可能性があります。

自己分析は、自分の強みや価値観を明確にし、適職を見つける重要なステップです。

自分はチームで働くのが得意なのか、一人で作業するのが得意なのか、リーダーシップを発揮したいのか、専門的なスキルを磨きたいのかなどが、自己分析により分かるようになります。

就活生向けの自己分析ツールなどがさまざまなところから出されているので、それをやってみるのがいいでしょう。

決算書を読む上でのポイント

次の「企業分析」では、自分が働きたいと思う企業の文化や価値観、ビジョン、経営方針を知ることにより、自分の価値観や目標と一致する企業を見つけることができます。

そしてもちろん、その企業の財務状況や経営成績、市場での立ち位置、将来性についても知ることができます。

上場している大手企業の場合、企業のホームページのインベスター・リレーションズ※(以下、IR)をクリックすれば、決算報告書や決算短信を見ることができます。

※企業が株主や投資家向けに経営状態や財務状況、業績の実績、今後の見通し等を広報する活動

決算書は大きく分けて「貸借対照表(BS)」「損益計算書(PL)」「キャッシュフロー計算書(CF)」の3つがあります。それぞれの役割を理解することで、企業の財務状況を総合的に把握することができます。

そして決算書を効果的に読み就活に役立てるには、見るべきポイントがいくつかあるのですが、はずせない重要なポイントとして以下の2つは特に覚えておいてください。

●自己資本比率

貸借対照表で見るべきポイントに、自己資本比率があります。自己資本比率は企業の総資産に対する自己資本の割合で、この比率が高いほど財務的に安定していると判断できます。 自己資本比率=(純資産)÷(総資本)×100(%)

●営業利益率

損益計算書で見るべきポイントに営業利益率があります。

営業利益率は売上高に対する営業利益の割合で、この比率が高いほど企業は効率的に営業活動を行っていると判断できます。営業利益が伸びている企業は、成長性が高いといえます。

営業利益率=(営業利益)÷(売上高)×100(%)

「豚の貯金箱」で決算書を視覚化して分かりやすくする

決算書の理解を深めるためには、視覚的な資料も有効です。

例えば、下の図のような絵を用いて、各項目の関係性や意味を図解することにより、複雑な財務情報も直感的に理解しやすくなります。

今回は、弊社が従業員に決算書の読み方を教える際、実際に使っている方法を一部ご紹介します。

弊社では、貸借対照表を豚の貯金箱に、損益計算書を風船に置き換えて考えるようにしています。

まず、決算書を読み解くには下準備が必要です。初めに、下の図の項目にあたる数字を貸借対照表、損益計算書から書き出してみましょう。

豚の貯金箱は、上半身に流動資産、下半身に固定資産、その右、貯金箱の外側の上に負債、下には純資産(自己資本)の額を、貸借対照表を見ながら埋めていきます。

同じように、損益計算書を見ながら売上高、費用、営業利益といった数字を風船に書き込みます。

次に、企業分析で重要視するポイントの「自己資本比率」、「営業利益率」を前述の公式にあてはめて算出し図に記入していきます。

今回は、わかりやすくするため、事例として業務スーパーを経営する神戸物産の2024年10期の決算短信より数字を引用しています。

  • 著者作図

  • 著者作図

では、図に記入した数字をもとに読み解いていきます。

はじめに豚の貯金箱の右側より純資産の割合=自己資本比率を見てみましょう。

自己資本比率を求める公式、純資産(1,327億)÷総資産(2,333億)×100で計算すると57%もあることがわかります。

国の平均は40%と言われており50%を超えると優良企業とされます。よって、かなり優良だということが分かります。

比率を見る際、目安として30%以下だと要注意です。

ただし、自己資本比率は創業から年数が経たないと増えていかないので、例えば創業10年以下の企業が30%以下だったとしても、それほど心配する必要はありません。

このように自己資本が高いほど過去に利益を出すように努力されている事を表すため経営の安全性が判ります。

続いて豚の貯金箱の中はどうでしょうか。

流動資産が1,610億円あり、総資産の69%に相当し固定資産に比べて多いのがわかります。

流動資産はすぐにお金にしやすい資産で、固定資産は機械や建物、土地といったお金になりにくい資産です。

流動資産が多いということは、例えばコロナ禍のようなピンチになった時にお金になりやすい資産をたくさん持っていると判断でき、運転資金が保持されている、イコール安心だということが分かります。

次に重要なポイントである営業利益率から何がわかるのか見ていきましょう。

この図では風船の外観を売上高、風船内の青色のヘリウムガスを営業利益額、その他を費用としています。

  • 著者作図

営業利益率は売上高に対する営業利益の割合でした。つまり、売上高の5,078億円のうち営業利益は343億円で、その割合、営業利益率は7%となります。

営業利益率(7%)=営業利益(343億)÷売上高(5,078億)×100

業種やビジネスモデルによって異なりますが、一般的には5~10%程度とされており、7%ある神戸物産は優良なことを表しています。

もし、余力があれば、過去2年程度の数字も遡って利益額と利益率が伸びているか見てみると良いでしょう。その数字から会社の成長性がわかります。

どうですか、数字だけで見るよりも、大きい小さいといった視覚的要素を交えて見ることで理解が深まるのではないでしょうか。

ちなみに、目指す業界内で企業対比をすることで、これまで意識していなかった企業の新たな魅力に気がつけることもあるので、試してみてください。

決算書が読めると、他の応募者との大きな差別化に

さらに、決算書が読めれば他の応募者と差別化できます。

決算書という具体的な財務データを基にした分析を提示することで、自身の理解力や分析力をアピールできます。

例えば、固定資産への投資額や利益率などの具体的な数値を引き合いに出し、その企業の戦略や強みを論理的に説明することが可能になります。

特に競争の激しい業界やグローバルな視点が求められる企業では、このような具体的な財務分析は高く評価されるでしょう。

就職後にも役立つ決算書を読む能力

最後に、3つ目のポイント、「中小企業にも選択肢を広げる」についても説明しましょう。中小企業に就職するメリットはいくつかあります。

大企業では入社すると特定の業務に集中していくことが求められますが、中小企業では多様な業務を幅広く経験することができます。

その結果、柔軟性や多角的な視点を身に付けることができ、短期間で多くのスキルを習得し、成長することが可能です。

また、経営者との距離が近いことも大きな利点です。経営方針やビジネスの方向性を直接聞いたり、影響力を持つ立場の人々と日常的に接したりすることは、ビジネスの全体像を理解しやすくなり将来の参考になります。

そして、決算書を読む能力は就職後にも多くの面で役立ちます。

まず、上司から指示されたことを単にこなすだけでなく、財務状況が理解できることで、課題を改善していくようなアイデアを自主的に提案でき、それが実行されて会社の利益となれば、大きなやりがいにつながります。

さらに、それが賞与アップや昇給にもつながるだけでなく、昇進や異動の際に高く評価され、キャリアアップにもつながります。

決算書の基本を理解し、企業分析に活かせば、最適な企業選びが可能になります。

これは就活だけでなく、就職後の実務にも役立ちます。今回ご紹介した豚の貯金箱のような視覚的な資料も活用し、早いうちから積極的に決算書に触れていくことをお勧めします。

著者プロフィール:松本めぐみ

松本興産株式会社 取締役(総務・経理管掌)
Star Compass株式会社 代表取締役
福岡県出身。外資系半導体製造装置メーカーに勤務。2010年、International Management Institute SwitzerlandでMBA取得。12年に結婚、15年に松本興産に入社、取締役(総務・経理管掌)。22年、財務諸表を分かりやすく理解する「風船会計メソッド」を確立。Star Compass株式会社を設立し、行政、大手企業で風船会計を用いたセミナー講演活動を展開。