「廃食油由来のバイオ燃料の補油及び被補油船の航行トライアル」の様子が、2月1日に名古屋港・大江ふ頭で公開された。地球温暖化対策・SDGsの社会的な認識の高まりを受けて発足した「廃食油・バイオ燃料連絡協議会」の実証調査の一環で実施された、今回の取り組み。同協議会で事務局を務めるJRTT(鉄道・運輸機構)に、その背景などを聞いた。

陸上試験を経て航行トライアルを実施

2021年10月に改訂され、2030年度の内航海運におけるCO2排出量を2013年度比で17%削減することを目標に掲げる政府の地球温暖化対策計画。省エネ・省CO2の取り組みのひとつとして注目が高まっているのが、廃食油を原料とするバイオディーゼル燃料の製造と活用に関する取り組みだ。

内航海運分野ではカーボンニュートラル推進のため、鉄道・運輸機構(JRTT)、日本内航海運組合総連合会(内航総連)などで構成される、「内航船の廃食油回収・バイオ燃料活用の連絡協議会」を2023年8月に発足。 既存船における廃食油回収の促進と、これを原料としたバイオ燃料活用の拡大による地産地消型リサイクルシステムの構築を目的に、各種実態調査や実証試験を実施している。

2023年度には、港湾における船舶から出る廃食油の回収・保管に関する実態・課題調査を実施。船舶から回収された廃食油からのバイオ燃料への精製、バイオ燃料の船舶へのバンカリングにおける手法の検討、現時点での課題点の整理を行った。 また2024年度には、船舶用エンジンを用いた陸上試験設備で、バイオ燃料と従来燃料の混合燃料の燃焼確認と燃焼性状を確認。 これらの結果を踏まえ、このほど「名古屋港での廃食油由来のバイオ燃料の補油及び被補油船の航行トライアル」(内航船舶での廃食油回収とバイオ燃料燃焼の実証試験)の実施に至った。

船舶から廃食油を回収、バイオディーゼル燃料に

JRTTによる2024年度技術調査の一環で行われた本試験。内航船から回収した廃食油をバイオ燃料に精製し、船舶へバンカリング(燃料供給)して使用する一連のサイクルの検証と、今後の課題点の抽出整理を主な実施目的としている。 補油を受けた内航船は、UBE三菱セメントの完全子会社「MUアークライン」と独立行政人であるJRTTの共有船「貴興丸(たかおきまる)」。

C重油に廃食油由来のバイオディーゼル燃料(FAME:食用油などをメチルエステル化した脂肪酸メチルエステル)を10%混ぜた「B10」の混合燃料を用い、のべ24時間以上の航海を行った。 バイオ燃料は先述した連絡協議会に調査協力者として参画する「ダイセキ環境ソリューション」が精製したもの。船舶からの廃食油の回収やブレンディングを含む燃料化、混合燃料のバンカリングなどはJRTTや豊田通商の協力のもとで実施された。

本実証では「貴興丸」が航行中に厨房で使用し、貯め置いた廃食油を陸揚げ。廃食油回収業者に手渡すセレモニーも執り行われた。 家庭やレストラン、食堂から回収された使用済みてんぷら油などの廃食油だが、現在、内航船の厨房から出る廃食油は廃棄されることがほとんど。港湾における廃食油の回収は着手されていない。 セメント運搬船である「貴興丸」など、内航貨物船から出る廃食油の量はそれほど多くないが、フェリーなどからはある程度まとまった量の廃食油が出ることが昨年度の調査で確認されているという。

カーボンニュートラル実現の柱のひとつに

連絡協議会の設置は2023年度から2025年度の原則3年(参加者の同意により延長)で、本協議会での各種実態調査や実証試験も2023年度からの3か年で取り組んでいる。 バイオ燃料の普及促進に向けては安定した供給体制の整備とコスト面が最も大きな課題となっており、来年度以降、廃食油由来のバイオ燃料の供給体制や混合燃料の濃度の規格などの検証も行なっていく見込み。

船舶用のバイオディーゼル燃料は基本的に現行の船舶エンジンのまま、ドロップインで使えるため、とくに内航海運事業者には高いニーズがあり、2050年のカーボンニュートラル実現の柱のひとつに位置付けられている。 大型の船舶が多い外航船ではアンモニアや水素といった代替燃料も採用しやすいが、小型の船舶が多い内航船の事業者にとって、そうした燃料の採用は負担が大きく、あまり現実的な選択肢ではないようだ。

各地での廃食油の回収と利用の促進へつなげることを目指し、連絡協議会では内航海運分野における取り組みの情報発信や実証調査での成果を展開。関係企業・団体とのチャンネルづくりやネットワーク構築を通じて、安定的な廃食油の提供とバイオ燃料の供給のあり方を模索していくという。