スペースデータは2月18日、東北大学 工学部 航空宇宙工学専攻(吉田和哉教授研究室)に対し、同社がデジタル空間上に構築した「バーチャル国際宇宙ステーション(ISS)」の研究利用を目的とした無償提供を実施したことを発表した。

  • 発表概要

    スペースデータは東北大学の吉田和哉教授研究室に対し、「バーチャル国際宇宙ステーション」を無償提供することを発表した(出所:スペースデータ)

“宇宙ロボット”の新技術開発推進へバーチャルISSを提供

宇宙を“民主化”し、誰もが利用可能なインフラとして身近なものにすることを目指すスペースデータは、地球および宇宙環境を再現するデジタルツイン技術の開発をはじめ、宇宙ロボットおよび宇宙ステーションのオペレーティングシステムの開発などに注力している。

同社は2024年11月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主導する「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の枠組みのもと、ISSをデジタル上に再現したバーチャルISSを開発し、全世界向けに公開した。その際バーチャルISSは、世界最大級のPCゲームプラットフォームであるSteam上で公開され、現在に至るまで、ゲームやエンターテインメント、教育分野を中心に利用が広がっていたという。

  • 「バーチャルISS」

    宇宙ロボットシミュレーション向けの「バーチャルISS」(出所:スペースデータ)

そして今般スペースデータは、このバーチャルISSを宇宙ロボット開発者向けにアップデートし、運用試験や技術検証を可能にしたとのこと。そして研究開発を目的とする大学の研究室での活用が決定したとする。東北大の吉田研究室では、宇宙環境下で動作するロボットの設計や制御技術に関する研究を行っているといい、バーチャルISSの精緻な3Dモデルを活用してさまざまな研究を推進するとしている。

具体的に同研究室では、宇宙ステーション内部で手すりや固定レールを把持しながら自立移動するロボット技術や、急斜面および宇宙ステーションのような無重力環境で活動する多脚ロボットの安定性を向上させる新たな制御技術を開発しているとのこと。前者においては、グラフ理論を応用した経路計画アルゴリズムにより、摩擦の無い微小重力環境でも効率的に貨物を運搬でき、従来のフリーフライヤー型ロボットでは困難だった精密作業を実現することで、宇宙飛行士の作業負担軽減や自動化推進に貢献するとしている。また後者については、外部からの衝撃や荷物積載時にロボットが受ける力をリアルタイムで検知し、関節の動きを柔軟に調整することで、バランスを保ちながら安全に作業を継続できる仕組みだといい、月面探査でのサンプル回収や宇宙ステーション内での衝突回避など、過酷な環境でのロボット活用への応用が期待されるとする。

スペースデータは今回の取り組みについて、“宇宙デジタルツイン”を活用した新たな可能性を示すものだとしており、これまで限られた専門家しかアクセスできなかった宇宙環境シミュレーションを学生や研究者にも開放することで、宇宙分野への参入ハードルを下げ、同社が掲げる宇宙の民主化という理念を推進するとした。また吉田研究室としても、リアルな船内環境モデルを活用することで、ロボットの実運用に向けたシミュレーションによる研究開発を進め、これらの活動によって得られた知見を積極的に対外発表することで、宇宙の民主化に貢献していきたいとしている。