大企業における生成AI社内導入の初動振り返り(魂の5000字)
1. はじめに
「技術的に優れていれば自然と受け入れられる」というのは幻想なんじゃないか・・・。
こんにちは、ハヤカワ五味です。
最近、生成AI関連で知ってくれた人も増えてきたので軽く自己紹介をすると、高校生時代からブロガーとアクセサリー制作や販売をしており、大学1年の時に立ち上げた下着ブランド「feast」がバズり法人化、その後フェムテックブランドを立ち上げたりして、2022年にそれぞれM&A、ロックアップが終わって2024年7月からIT系上場企業で生成AIの社内導入推進担当的な感じで働いています(広報チェックが面倒なので伏せていますが、隠してはいないのでググればすぐに出てきます)。
半年間、色々やってきましたが、施策的な話でなくもう少しウェットな話に関しては振り返りが面倒で放置していました。ただ、先日、ふぁどさんのポストを見かけて「大企業だとちょっと動きが違うよな」と思ったので、いい機会にまとめてみました。
AIを社内に展開するには
— ふぁど|なんでもやるエンジニア (@fadysan_rh) February 22, 2025
まず自分が自腹切って使う
↓
衝撃を受ける
↓
社長に「やべぇっす」と伝える
↓
勉強会する
↓
社長のアゴ外れる
↓
社内勉強会に発展する
↓
参加者のアゴが外れる
↓
予算が下りる
この流れは覚えておきたい
ちなみに、SNSにいる生成AI関連の発信をしている方は、大体開発サイド、経営サイド、個人事業主が多く、私のように大企業で働いている人の話はあまり出て来ません。なぜなら、とにかく広報チェックが面倒だからというだけなのですが、普段そういった人とも話すことが多いのでその際に聞いている話も含めてまとめています。
※本noteは、所属先とは関係のないハヤカワ五味個人の発信であり、自身の経験や周囲の同業の方の話を聞いて抽象化しまとめたものになります。
※上記の理由で、自社の状況については意識的に伏せているのですが、まあこうやって振り返って書けるってことはね・・・察してくれ。
入社2ヶ月時点の振り返りは以下。
公式な振り返りは以下。
2. 人/企業はなぜ変化を嫌うのか?チェンジマネジメントの基本
先日、ぱぴこさんという方の以下のポストを見た時に「私のやってること、めちゃチェンマネじゃん!!!!」と思いました。それまでチェンマネ(チェンジマネジメント)という言葉は知らなかったのですが、めっちゃそれすぎた。
なんかさ~DX!生成AI!みたいなの、実は地味に興味を持てないんだよな。触るのが嫌いって話ではなくて、これを組織に装着していく活動にあまり興味がないのかもしれない。なんか結局技術の話じゃなくてチェンマネの話じゃん…となるからなのかも。だったらチェンマネ案件として取り組みたい欲求。
— ぱぴこ (@inucococo) January 7, 2025
自分がやってたことに名前があったのが嬉しくていくつか本や記事を読んだのですが、企業で新しいものを導入しようとすると、「変化への抵抗」に直面するのはお約束なんだなと思いました。具体的には、既存のシステムを変更するとか、新しいプロジェクトを立ち上げるとか、M&AやPMIなどなど。私はこれまでも、M&AやPMI、大企業での新規事業立ち上げなどをやって来たのでその難しさには心当たりがありました。
そして、これは単なる個人の感情ではなく、組織の構造的な問題で課題であるなという風にも思います。
まずは、チェンジマネジメントについて簡潔にまとめます。
私はチェンジマネジメントという言葉を知らずに同様のことをやっていたので、早くこれを知っていれば・・・と思いました。
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💡 チェンジマネジメントとは
組織を「現状」から「目指す姿」へと移行させ、目的を達成するための変革推進手法。
以下のように、代表的なチェンジマネジメントモデルがいくつかあるようです。
レヴィンの変革モデル
① 解凍(Unfreeze):「今のままではまずい」と気づかせる
② 変化(Change):新しい技術やルールを導入する
③ 再凍結(Refreeze):新しいやり方を定着させる
悲しみを受け入れるプロセス
精神科医のキューブラー・ロスは、人が予期せぬ大きな変化を受け入れる心理的プロセスを5つの段階(否認、怒り、取引、落ち込み、受容)と定義しました。
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で、まあなんでこんな体系的にまとまっているかというと、人類が、これまでも何千何万回と同じような変革とそれに対する抵抗ということをやってきてるからですね。
生成AIに限らず、技術の変革みたいなのがあると大体今と同じような感じで否定的な人も出て来ますし、それは組織も同じでこれまでも何度も新システムを導入しようとして躓いて廃れていった会社があるということや。
最近は、頭の中で「チェンキャン(チェンジキャンセル界隈)」と呼んでいるのですが、そのように変革をキャンセルする人たちはこれまでも、どんな時代でもいたということです。風呂キャンセル界隈がかわいく思えて来ますね。
なので、変に頭を抱えて頑張らずとも、これまでに何度も擦られてきたチェンジマネジメントを学び、自分の会社なりにやるのが良いと思います。
「チェンキャン(チェンジキャンセル界隈)」例
19世紀のラッダイト運動(機械化反対運動)
インターネット普及期の「FAXで十分派」
生成AI時代の「AIを使うとバカになる!禁止!」
チェンジマネジメントに必要な力
では、チェンジマネジメントに必要な力はどんなものなのでしょうか?
それは、「人を動かす力」「環境を整える力」「持続する力」だと思います。
まず、「人を動かす力」ですが、人の心理と行動の変化を促す力ということです。具体的には、ストーリーテリング・コミュニケーション/説得・ステークホルダー調整の能力だと思います。私は、ここが元々強かったので割とハマり役だったのだと思います。
たまにインターネットで「大企業のリリースは生成AI経費削減とか薄い、それっぽい数字ばっか、●●(クソデカ)はまだか」みたいなのを見かけますが、わかりますか、これはストーリーテリングやステークホルダー調整の一種なんですよ。正論じゃ人は動かないんです、やってる人たちだって「これは薄い・・・本質的ではない・・・うう・・・」と苦しみながらやっているので、むしろ同情してあげてください。
「環境を整える力」は、変化ができる環境を整える力で、プロジェクト推進とかに近いと思っています。具体的には、プロジェクトマネジメント能力・UIUXデザイン力で、もしかしたら組織の流れを読む能力も必要かもしれません。今会社がどのような状況かみたいな話ですね。
「持続する力」は、持続する力と持続させる力の両面があると思います。どうしてもすぐに売り上げが立ったり効果が出ないので、いかなる逆境だろうが自身を奮い立たせ続け、かつ予算を切られないように社内や経営人の熱量を維持する必要があります。
私は、この半年で数回心が折れそうなタイミングがあり、何度か辞めようと思っていました。ただ、そのタイミングでやめていたら、何も変化はなく失敗したことになっていたと思うので、やはり持続力、粘り強さは重要だと思います。
心が折れそうだった原因は、基本的にはチェンキャン界隈からの嫌がらせっぽいことだったのですが、チェンジマネジメントについて知ったタイミングで「まあ、今も昔もよくあることなのか・・・人間ちゃんったら全くしゃーねーな」と思い、赦すことができました。あと、マジで心理的コストがかかる割に目的に寄与しないものに関しては早急に手放した方がよかったなという反省もあります。
そんな感じで、割と広めな能力が必要で、逆に社内推進というだけであればそこまでガチで生成AIに詳しい必要はないと思っています。1人で全部とか無理なので適宜人を頼りましょう。上記の能力と生成AIの詳細な知識を兼ね備えている人を求めても、まあ、いませんから!!!!
3. おまけ「変化を拒む人々」あるある
私がこの半年会社でやってきたことは、恐らくこれまでの人の営みの中で何度もあったことですし、これからやろうとしている人も恐らく同じような事象に出会うと思います。なので、生成AI導入・推進時に出現しがちな人をとりあえずまとめておきました。マジで、よく知らないまま遭遇すると殴りたくなるので、予習しておいた方がいい。
ただ、もうちょい体系だってまとめられる気もするので、どなたかお願いします。
主なAIチェンキャン界隈
・斜に構えて冷笑する人
あるある:「どうせ流行りモノでしょw」
何だか気になるけど素直になれない人。一度斜に構えた態度を取ってしまった手前、途中で態度を変えづらいので、このタイプの人がマイノリティになるまで放置でok。
・やたらAIにだけ厳しい人
あるある:「AIを使ってるから〜(ミス)だったんですけど」
人がしたら流すような小さなミスでも、AIに対してだけやたら厳しい人。何かしらダメ出しをすることで、自分の保身だったり、自分わかってますけど感を出したい。その人でもわかる分野やその人が得するような事例を持っていこう。
・勝手に期待値を上げて失望する人
あるある:「今日の日付聞いたら間違ってたんだけどw」
一番人数が多いタイプ。早期に勉強会などをやって、なるべく期待値調整をするのが重要。
・懐疑的なマネージャー/管理職
あるある:「最近流行ってるやつでしょ」
具体的な競合事例や、それっぽいROIを提示する。大抵、それっぽいROIを提示すると、エンジニア近辺から「本質的じゃない」みたいなツッコミが入りますが、そもそも皆が本質で動いてたら何も苦労しないんじゃ。
これはチェンキャン事例達ですが、上記以外にも突然確変に入る人とか、ポジティブな人も勿論いるよ。
4. 生成AI導入には「ドメイン知識」が不可欠
ここまでで、チェンジマネジメントの基本的な話をしてきましたが、具体的に生成AIを社内推進・導入する場合に必要な力をまとめてみようと思います。
まず、序盤に話したチェンジマネジメントに必要な力というのは最低限として、その上で必要なのは「生成AIの詳細な知識」よりも「生成AIの最低限の知識」と「広範なドメイン知識」だと思います。ドメイン知識と記載してしまうとふわっとしてしまうのですが、この場合は「企業経営に関する広範な知識」です。
例えば、法律・会計・マーケティング・エンジニアリング・デザイン・人事などなど。
なぜ後半な知識が必要かというと、チェンジマネジメントの際に、ただ正論を投げるだけでは足りず、相手の痛みを理解しそれに対しての解決策として生成AIを提案する必要があるからです。ある程度の業務知識がないと、そこの感覚がつかみづらいのではないかなと。
私の場合は、過去10年間の起業経験+上場企業での経験により会社経営に必要な全領域をとりあえず1度は体験したことがあるという薄く広い経験が生きたと思います。また、今いる会社がEC系であり、私もこれまでずっとECをやって来ていたというのもよかったです。完全に別業界だったら難しかったかもしれないです。
5. 経営層へのアプローチ戦略
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