
第5回 書店人の覚書帳
2025年(令和7年)2月7日(金)立て続けに読売新聞がネットに記事を連投しました。
2025/02/07 05:05
2025/02/07 05:04
2025/02/07 05:03
読売新聞社と講談社は、街の書店減少が深刻化していることを受け、「書店活性化へ向けた共同提言」をまとめた。
この共同提言は、講談社のホームページにも掲載されています。
さらに読売新聞は、2025/02/07 05:01
翌日2025/02/08 05:00
2025/02/09 05:00
2025/02/11 05:00
そして、2025/02/11 05:00
あれ?🔑が!有料記事か...。
提言に思うこと
あらためて【提言】という言葉の意味を確認してしまった。
提言とは
考え・意見を提出すること。
共同宣言は、読売新聞社・講談社の「考え」「意見」ということになります。
しかし、正直なところ、この提言で、何か新しい「考え・意見」が示されたわけではありません。

いずれも経済産業省の「書店振興プロジェクト」による「関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)」でまとめられて、またこれに対するパブリックコメントを公募して、1月28日に、パブリックコメントを含めた経産省の答えをだしたばかりです。
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000286288
読売新聞社と講談社の示した5項目も、「関係者から指摘された書店活性化のための課題(案)」に盛り込まれています。
なぜ既出のものを、わざわざ提言として、新聞の1面に掲載したのだろうか?
今一度、この記事の冒頭を読んでみると
書店は本と人とをつなぐ地域の文化拠点であり、豊かな想像力や独創性を育む国力の源と位置づけた。そのうえで、経営環境の整備や、図書館との連携、読書教育の充実など5項目を求めた。
「5項目を求めた。」とあるが、誰に求めているのだろう?
国なのか自治体なのか?あるいは納税者の国民にか!
ここで、少し話を絞って、考えてみました。
提言のひとつ
ICタグで書店のDX化を
購買傾向を把握し返本削減
について、注視したいと思います。
ちなみに現在、ICタグを装着しているのは、大手4社、講談社・小学館・集英社・KADOKAWAだけで、しかもコミックに限定されています。
※講談社は文庫にも装着
2025年1月30日の日経の記事によると、2025年中に100店へ導入とあり、この記事では返品率削減については何も書かれていない。
ところが、同じ日。
喫緊の課題は「返品率改善」
業界紙『新文化』2025年1月30日号の1面特集は、【喫緊の課題は「返品率改善」、経産省書店活性化アクションプラン/経済産業省商務・サービスグループ文化創造産業課課長・佐伯徳彦氏に聞く】でした。
このインタビュー記事で、経済産業省の佐伯徳彦氏は、「書店または出版界の課題は返品問題であるとお考えですか。」の質問に以下のように回答しています。
出版社や取次会社はこれまで、配本制度を基盤にして書店流通を手がけてきましたが、雑誌で4割を超える返品率は異常だと思います。送られてくる段ボールを開けずに返品する書店もあるそうで、書籍も高止まりしています。残念なからこれでは、商売になっていないのではないでしょうか。配本制度が機能していないとも言えます。この返品問題について、それぞれのプレーヤーがコミットしていかないと、出版産業の収益性が保てなくなります。書店廃業・後継者問題に取り組む原資も生み出せません。この返品問題は喫緊の課題として重要だと思っています。
POSを導入する書店はすでにデータを採取することができますが、有効に活用できていない書店もあります。カフェや文具などの複合化も進めていますが、自社に合った配本の在り方を取次会社と再度話し合い、地域の人にどうやって本を手渡していくかを考えていただきたい。
ー中略ー
出版社は本をつくって、取次会社に納品するだけでは返品率を改善することは難しいと思います。Pubtexに限定することはありませんが、RFIDの装着にご協力いただき、返品率を下げてほしいと思います。そして、3者間の利益配分にもしっかり応じていただきたいと思います。取次会社もRFIDによる各種データをもとに、無駄のない流通を推し進めていただきたい。
この1面特集には、
RFID装着で市場掌握
無駄のない仕入可能に
4割超える返品率は異常
もはや商売になっていない
などの見出しが飛び交っていますが、肝心要の
返品率を下げる具体策がありません。でありながらRFIDを装着すると、業界の問題が解決される論調になっています。
さらに次の『新文化』では
2面に「Pubtex『BOOKTRAIL』開始/RFID利活用呼びかけ」という記事があります。
丸紅や大手出版社3社科などが出資するPubteXがこのほど、書籍トレーザビリティシステム「BOOKTRAIL」の商用サービスを開始した。出版界の構造改革を目指し、書店や出版社にRFIDの利用を呼びかけていく。書店の初期費用は1店舗当たり100万円以上だが、早期の普及を図るため2027年3月まで導入する書店には、早期導入割引で「20%オフ」とする。該当期間に多店舗導入する書店には追加支援していく考えがある。
しかし、この記事には、導入店舗で万引きが減少したことは記されているが、返品率が下がったとは、一言も書いていない。
それでも、RFID推進のニュースは、続いています。
今一度、『新文化』2025年1月30日号の経済産業省商務・サービスグループ文化創造産業課課長の佐伯徳彦氏のインタビュー記事を抜粋します。
ーーその支援策では、補助金または助成金が予算化される可能性はありますか。
「RFIDを中心にしたデジタル支援策を、今年の補正予算としてつくっていきたいと考えています。それにより返品率が減少し、適正な利益配分ができて出版産業全体が活性化できればと思います。
読売新聞社・講談社の提言のひとつである「ICタグで書店のDX化を購買傾向を把握し返本削減」について、講談社のホームページでは以下のように説明しています。
RFID(Radio Frequency Identification)の機能を持ったICタグを出版物に挟み込み、在庫の電子管理を可能にする技術が実用化されている。これを導入すれば、棚卸し作業が効率化され、購買傾向の分析も可能になる。その結果、売れ残った本の返品を減らし、粗利益率を向上させることができる。ICタグは、出版社にとっても書店にとっても、導入・運営のコストが大きく、なかなか導入が進まないのが実情だ。業界で普及を急ぐとともに、国や自治体にも支援を求めたい。
うーん🧐やはり返品率削減に何ら具体策もないまま、ICタグ導入を推進しています。そして、国や自治体の補助金や助成金が目当てのようです。
このままだと経済産業省の書店振興プロジェクトは、RFID導入に補助金を使ってしまうのだろうか?!
どう考えても、RFIDだけでは返品率は下がらないと思うのだが...。
返品率削減に関する具体策が、知りたいという方は、2月26日の本の学校連続講座を受講することをオススメします。
つづく