「出生率は曲者だ」少子化問題の専門家が警鐘を鳴らす「誤解」のわな

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羽賀和紀
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 日本全国で子どもの数が減っている。2023年に生まれた日本人の子どもは72万7277人で、統計がある1899年以降で過去最少となった。政府や自治体は子育て支援に力を入れるが、反転の兆しは見えない。ニッセイ基礎研究所(東京)の天野馨南子・人口動態シニアリサーチャーに現状の打開策を尋ねた。

 厚生労働省の人口動態統計によると、2023年の合計特殊出生率は1・20と過去最低を更新した。東京では1を割り0・99となったことでさらに衝撃が広がった。しかし天野さんは「そもそも出生率は曲者(くせもの)だ」と警鐘を鳴らしている。

 合計特殊出生率とは、1人の女性(15~49歳)が生涯に産む見込みの子どもの数を示す。「夫婦が持つ子どもの数」とイメージされがちだが、計算上は未婚の女性も含む。そのため、未婚女性が多い地域では出生率は低くなる。

 たとえば、ある地域に既婚と未婚の女性が5人ずつ計10人いると仮定する。既婚者に2人ずつ子どもがいる場合、地域にいる子どもの数は計10人で出生率は1になる。この地域から未婚女性2人が域外に転出すると、女性の数は8人に減るので出生率は1・25に上昇する。子どもの数は変わらないのに、出生率だけが上昇することになる。

 この仮定と同じ状況が全国の地方で実際に起きていると、天野さんは指摘する。未婚女性の多くは20代前半の就職時に都市部へと出て行く。そのため過疎地では一時的に出生率が上がり、「女性1人あたりの子どもの数が増えたから少子化対策は成功した」と誤解する例が後を絶たないという。

 天野さんが人口減少施策を助言している高知県では、出生率は全国平均を上回り、23年は1・30だった。しかし出生数は47都道府県で下から2番目の3380人。「少子化対策で重要なことは、生まれる赤ちゃんの数を減らさないこと。いくら出生率が高くても、未婚女性が絶えず外へ出て行くような地域では子どもは増えない。少子化対策の成否は出生率という割合ではなく、出生数という実数で論じるべきだ」

少子化の根本原因は未婚化

 では、少子化の根本原因はどこにあるのか。天野さんが挙げるのが「未婚化」だ。

 人口が急増した第2次ベビーブーム(1971~74年)前の70年と2022年を比べると、出生数は約193万人から約77万人と半世紀で6割も減った。しかし婚姻数あたりの出生数は、半世紀で1・9から1・5と2割減にとどまる。

 大きく変化したのが結婚するカップルの数だ。70年に103万件あった婚姻数は、2022年には50万件に半減した。「少子化の決定的な要因は未婚割合の上昇にある。日本は婚外子が少なく、カップルの成立なくして出生はない」

 ここで天野さんが注意を促す…

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この記事を書いた人
羽賀和紀
高知総局
専門・関心分野
地方自治・人口問題/海洋文化
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    西田亮介
    (社会学者・日本大学危機管理学部教授)
    2024年9月9日8時6分 投稿
    【視点】

    もはやデータのうえでは地方における少子化問題を短期的に地方だけで解決することはほぼ困難で、その現実を受け止めるところが出発点に思える。東京をはじめとする東京圏や都市部に適齢期の若い人たちが移動すれば、組み合わせの選択肢は論理的には地方よりよ

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    上西充子
    (法政大学教授)
    2024年9月9日9時46分 投稿
    【視点】

     各都道府県の人口規模が異なるので率で比較するのが適切と思いがちですが、人口移動によって出生率を算出するための分母が変わってしまうため、都道府県別の出生率の比較は実態把握には適切ではないということですね。都道府県別に比較する際には、出生率

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