中国のDeepSeek、その低コストAIモデルの全て―QuickTake
Saritha Rai、Newley Purnell-
トップクラスのAIモデルに匹敵する性能、はるかに低コストで実現
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米国の技術輸出禁止、効果なしか-限られたリソースでの改善を示唆
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The icon for the DeepSeek application
Photographer: Lam Yik/Bloomberg創業1年余りの中国の人工知能(AI)新興企業であるDeepSeek(ディープシーク)は、世界トップクラスのチャットボットに匹敵する性能を、その数分の1程度のコストで実現する画期的なAIモデルを披露し、シリコンバレーを感心させると同時に慌てさせている。
ディープシークの登場は、未来のAI開発には際限ない電力とエネルギーが必要だという一般的な考えを覆すものとなるかもしれない。
ディープシークの革新性に対する期待が膨らみ、投資家が米国のライバル企業やそのハードウエアサプライヤーへの影響について考え始めたことで、世界のテクノロジー株は27日に急落した。
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ディープシークとは?
ディープシークは2023年に、AI主導のクオンツヘッジファンド、ハイフライヤー・クオント(幻方量化)の最高経営責任者(CEO)である梁文峰氏によって設立された。
同社はオープンソースのAIモデルを開発しており、これは開発者コミュニティーの誰もがソフトウエアを検査し、改善することができることを意味する。同社のモバイルアプリは1月上旬にリリースされると、米国のiPhoneダウンロードチャートでトップに躍り出た。
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このアプリは、オープンAIの「ChatGPT(チャットGPT)」のような他のチャットボットとは異なり、プロンプトに対する応答を返す前に明確な理由付けを行うことで、他と一線を画している。
同社は、リリースされた「R1」はオープンAIの最新バージョンと同等の性能を提供すると主張。この技術を使用したチャットボット開発に興味のある個人に対して、その上に構築するためのライセンスを付与していると説明している。
ディープシーク「R1」はオープンAIやメタAIと比較してどうか?
ディープシークからの詳細な説明は出ていないが、ディープシークのモデルのトレーニングと開発にかかる費用は、オープンAIやメタ・プラットフォームズの最上位製品に比べるとほんのわずかに過ぎないようだ。
このモデルの優れた効率性は、AI開発各社がエヌビディアのような企業から最新かつ最も強力なAIアクセラレーターの入手に多額の資本を投じる必要があるのかという疑問を生じさせる。
また、米国がこのような先端半導体の対中輸出を制限していることがあらためて注視されることになる。輸出制限はディープシークが示すような画期的な進歩を阻止することを目的としたものだ。
ディープシークによると、R1は数学的タスクのAIME 2024、一般知識のMMLU、質問応答性能のAlpacaEval 2.0など幾つかの主要なベンチマークにおいて、ライバルモデルと同等か、それ以上の性能を発揮しているという。また、カリフォルニア大学バークレー校が運営する「Chatbot Arena」というランキングでも、トップクラスの性能を誇っている。
米国で何が懸念されているのか?
米政府は米国と中国の技術覇権争いの要となるAI分野で中国が優位に立つことを阻止しようと、画像処理半導体(GPU)などのハイエンド技術の中国への輸出を禁止した。しかし、ディープシークの進歩は、中国のAIエンジニアが限られたリソースで効率性の向上を追求し、規制の影響を回避できていることを示唆する。
ディープシークがどれほど高度なAIトレーニング用ハードウエアを利用できたのかは不明だが、同社が示した能力は、貿易制限が中国の進歩を完全に妨げるものではないことを十分に示した。
ディープシークが世界的な関心を呼んだのはいつか?
ディープシークは23年に初期モデルをリリースして以来、注目を集めてきた。昨年11月には、人間の思考を模倣するように設計された推論モデル「DeepSeek R1」を世界に披露した。このモデルは、モバイルチャットボットアプリの基盤となっており、今年1月にリリースされたウェブインターフェースと併せて、オープンAIの代替となるはるかに安価な製品として世界的に注目を集めた。
投資家のマーク・アンドリーセン氏はこれを、旧ソ連が1957年に世界初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功したことになぞらえ、「AIの『スプートニク的瞬間』」と呼んだ。
市場調査会社アップ・フィギュアズのデータによると、ディープシークのモバイルアプリは1月25日までに160万回ダウンロードされ、オーストラリア、カナダ、中国、シンガポール、米国、英国のiPhoneアプリストアで1位を獲得した。
ディープシークの創設者はどんな人?
1985年に広東省で生まれた梁氏は、浙江大学で電子工学および情報工学の学士号と修士号を取得した。企業データベース天眼查(Tianyancha)によると、梁氏は1000万元(約2億1000万円)の登録資本金でディープシークを設立した。
梁氏は、さらなる進歩へのボトルネックは資金調達ではなく、米国による最先端チップへのアクセス制限だと、中国メディア36krとのインタビューで語った。同氏によると、ディープシークのトップ研究者のほとんどは中国の一流大学を卒業したばかりの学生だという。同氏は、エヌビディアとそのAIチップを基盤とするものと同様のエコシステムを、中国国内に構築する必要性を強調した。
「より多くの投資が、より多くのイノベーションにつながるとは限らない。そうであれば、大企業がすべてのイノベーションを独占してしまうだろう」と梁氏は述べた。
中国のAI業界におけるディープシークの位置付けは?
中国テクノロジー業界のリーダーであるアリババグループ、百度(バイドゥ)、テンセント・ホールディングス(騰訊)などは、AI事業におけるハードウエアと顧客の獲得競争に多額の資金とリソースを投入している。李開復(カイフ・リー氏)が率いるAIスタートアップ、零一万物(01.AI)と並んで、ディープシークはオープンソースのアプローチで際立っている。
ディープシークのモデルはより手頃な価格であるため、既にAI開発者のコスト削減に貢献している。
グローバルなAI市場への影響は?
ディープシークの成功により、オープンAIやその他の米国のAIサービス提供会社は、確立された優位性を維持するために価格を引き下げざるを得なくなるかもしれない。また、より効率的なモデルがはるかに少ない支出で開発できるのであれば、メタやマイクロソフトなどの企業による巨額の支出にも疑問が投げかけられる。
AIサービスへの需要の高まりから恩恵を受けてきたエヌビディアやASMLホールディングなどの株が売られ、27日には世界の株式市場が混乱した。科大訊飛などディープシークと関連のある中国企業の株価は上昇した。
既に世界中の開発者がディープシークのソフトウエアを試用し、それを用いたツールの構築を検討している。これにより、高度なAI推論モデルの採用が加速する可能性がある。一方で、その使用に関する指針の必要性について、さらなる懸念が生じる可能性もある。ディープシークの進歩により、AIの開発方法を規定する規制が早まることもあり得る。
ディープシークの欠点は?
他の中国製AIモデルと同様に、ディープシークは中国でセンシティブと見なされるトピックについては自主検閲を行っている。1989年の天安門事件に関する問い合わせや、中国が台湾を侵略する可能性など地政学的に微妙な問題に関する質問は回避する。
テストでは、ディープシークのボットはインドのモディ首相のような政治家については詳細な回答を出すことができるが、中国の習近平国家主席に関する回答は拒否する。
ディープシークのクラウドインフラは、突然の人気によって試されることになるだろう。同社は27日、一時的に大規模なサービス停止を経験した。新規ユーザーや復帰したユーザーがチャットボットにさらに多くの問いを投げ掛けることで、同社はさらに多くのトラフィックを管理しなければならなくなる。
原題:All About DeepSeek and Its Lower-Cost AI Model: QuickTake(抜粋)