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環境省と厚生労働省が入る、霞が関の中央合同庁舎5号館。
そのビルの23階にある、環境省の環境再生・資源循環局が2022年1月、デスクやロッカーを一新しフリーアドレス化した。環境省の中で、局全体をフリーアドレス化したのは初めてという。
霞が関では依然として「紙文化」が根強く、デジタル化を阻んでいるとも指摘されている。
環境省でもフリーアドレス化するまでは、机に書類が積まれた姿が当たり前だったが、そんなオフィスはどう変わったのか?
ビフォーアフターを取材した。
「資料をどう保管するんだ!」反発も
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「最初は職員がフリーアドレスをイメージできておらず、『どうやって資料を保管するんだ』という反発もありました」
環境省大臣官房秘書課・課長補佐の宍戸公さんはそう振り返る。
環境省でフリーアドレスの検討が始まったのは2020年8月。将来的な庁舎移転が決まっていることに加え、当時の小泉進次郎・環境相のもとで策定された、働き方改革の指針がきっかけになった。
指針には、「フリーアドレスなど多様な働き方を可能とする次世代型オフィスの拡大」が盛り込まれており、2021年4月に「環境省次世代型オフィス検討チーム」を結成した。宍戸さんはチームメンバーとして、フリーアドレス化する新オフィスの設計などを担ってきた。
フリーアドレスへの移行のための「荷物」は、個人ロッカーに入れられる「一人あたり段ボール1箱分だけ」と決めた。
「当時は『資料を保存するためにPDF化しよう』という意見もありました。ただPDF化には費用がかかるうえ、実際に資料を整理してみると、これまで見返すことがなかった資料がほとんどだと、改めて気が付きました。
『いつか使うかもしれない』と何となく手元に保管されてきた資料も、フリーアドレス化をきっかけに処分が進みました」(宍戸さん)
オフィスのビフォーアフター
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2021年の年末には、フロアにあったデスクなどを搬出。2022年1月、新しいデスクや個人ロッカーがそろい、部署ごとにフリーアドレス化が始まった。
フリーアドレス化によって、デスクの上には紙の資料がほとんどなくなり、密集していたデスクの配置にも余裕が生まれた。
フリーアドレス化を進めたチームの若手官僚、環境省総務課の小泉大樹さん(27)は次のように話す。
「これまでは机が密集し通路も狭かった。用事がないと他の人の机に行くこともなかったのですが、フリーアドレス化されて会話の機会が増えました。何よりも、以前より気分がよく仕事ができています」
フリーアドレス化による最も大きな変更点は、これまで一人にひとつだったデスクを8割に減らしたこと。環境再生・資源循環局には約250人が在籍しているが、個人用のデスクが2割減った。
ねん出されたスペースを使って、フロアの中央には自由に机を動かして位置を変えられるスペースを設置。また会議や打ち合わせ、オンライン会議などで使えるスペースをフロアの各所に設けた。
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個人用のデスクを減らしたのは、環境省でもリモートワークを継続していくという意思の表れでもある。
コロナ禍の緊急事態宣言中などには、「出勤人数の5割減」などの目標を掲げてリモートワークを推進してきた。現在のリモートワーク実施率などは公表はしていないが、テレワーク勤務は日常になりつつあるという。
前出の若手官僚・小泉さんも、リモートワークが増えたと話す。
「2月は担当していたフリーアドレス化がやっと落ち着いたこともあり、テレワークをメインで働き、出勤したのは週に1日~2日程度でした。
コロナから2年が経過して、出勤とテレワークの使い分けができる環境になってきています。もちろん、国会対応などで出社がマストな日もありますが」(小泉さん)
「窓辺のデスク」→「打ち合わせスペース」
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フリーアドレス化する前まで、管理職などの机が置かれていた窓側。フリーアドレス化にともない、作業用のデスクや、複数人で使える打ち合わせ用のデスクを設置した。

「我々の局のオフィスは23階にあります。これまでは日比谷公園などが見渡せる眺望の良さを全く生かせていませんでした。
今回は窓側については、集中力を高めたり、リフレッシュしたりできる共有スペースが中心になるようなレイアウトに変更しました」(宍戸さん)
資料は個人ロッカーで保管
フリーアドレス化に伴い、個人で使う資料などは個人ロッカーで保管することになった。
「上司の承認などはすでに電子化されていますが、これまで通りに資料を紙に印刷して読む人も多い。フリーアドレスを機に、今後はさらにペーパーレス化も進んでいくことに期待しています」(宍戸さん)
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福島県産木材を使用
今回フリーアドレス化した環境再生・資源循環局は、東京電力福島第一原子力発電所の事故で被害を受けた福島県の除染などを担当している部署だ。
今回のフリーアドレス化では、福島の復興を応援するため、福島県産の木材を使ったデスクを採用した。
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環境再生・資源循環局がフリーアドレスに切り替わってから、まだ数カ月。
今回のフリーアドレス化を、単なるオフィス改造だけで終わらせず、ペーパーレス化による業務効率化や、リモートワーク推進などの多様な働き方につなげられるか?
真価が問われるのはこれからだ。
「 よりよい仕事をするためには、オフィス環境も大切なピースの一つ。そして大事なことはよりよい政策を作っていくことです。より効率的な働き方をし、パフォーマンスを上げていきたいと思っています」(宍戸さん)
(文・横山耕太郎)