今年のお買い物を振り返る「2024年ベストバイ」。ラスト18人目は、サカナクションの山口一郎さんです。今年はサカナクションの完全復活ライブツアー「SAKANAQUARIUM 2024 "turn"」が成功を収め、またTVアニメ「チ。 ―地球の運動について―」の主題歌として新曲「怪獣」が起用されるなど、新たな活動が注目を浴びています。病気と闘い、乗りこなしながらありのままを発信し、多くの共感を得ている山口一郎さんの、今年買って良かったモノ8点。
目次
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Paul Harnden Shoemakers セットアップ
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FASHIONSNAP(以下、F):今日も着用されている「ポールハーデン シューメーカーズ(Paul Harnden Shoemakers)」で今年はスタートですね。
山口一郎(以下、山口):最近こればっかり着ています。今年は僕の中で「10年後も好きなもの」というテーマがあって、10年前も好きだっただろうし、10年後も好きだろうな、という視点でモノを選んできたんですよね。このセットアップが、そのテーマにもピッタリで。
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F:一郎さんは以前からポールハーデンのセットアップに憧れがあるという話をされていて、前回のベストバイ企画でも「僕は、ポールハーデンの似合う男になりたい」と話していましたね。それを、今年ついに。
山口:10月にジョン・ガリアーノ(John Galliano)が来日していたじゃないですか。その時に着ていた服が気になって、よく行くお店の方に聞いたらポールハーデンだとわかったんです。それで改めて、ポールハーデンは僕の考えているテーマに合っているなと気付いたというか。これこそ10年後もその先も着られるものなので、ずっと着るつもりで手に入れました。
F:年齢を重ねていくと、さらに馴染みそう。やはり唯一無二の雰囲気があります。
山口:どこかズレているとか、左右非対称だったり、崩れたバランスに惹かれるんですよね。これはポケットに膨らみがあったり、ラインが真っ直ぐではないから、ズボンをスポッと履くことができないくらいで。
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F:かなり立体的な作り。ウエストもとても大きく作られていて、独特なパターンです。
山口:専用のベルト付きなんですよ。僕はジャケットを少し大きめにして、ボトムはワンサイズ小さくしたんですが、ジョン・ガリアーノはその逆でした。上が結構タイトで、パンツの裾はダラっと引きずるくらい長く、それも格好いいなあと。
F:表地はウールとリネンの混紡で、味のあるシワも特徴ですね。どこで出合えたんですか?
山口:コム デ ギャルソン青山店です。もう1着、ダークネイビーの別注素材のセットアップも手に入れました。後で知ったんですが、これと同じものをトム・ヨーク(Thom Yorke)も着ているそうです。
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F:ソロツアーで来日した時に買われたんですかね。トム・ヨークも昔からマルジェラを着ているので、どこか通ずる部分があるかもしれません。
柴崎重行 作 木彫り熊
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山口:これも、10年後もずっと好きなもの。可愛くないですか?
F:木彫りの熊、ですかね? 個人的に思っていたのと少しイメージが違うというか。
山口:よく見るのは、あの鮭をくわえた熊ですよね。でもこれは木を活かしたミニマルな表現で、今はもう亡くなられている柴崎重行さんの作品です。
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F:可愛らしさがありますね。北海道出身の一郎さんにもピッタリ。どこで見つけたんですか?
山口:伊勢丹新宿店で木彫り熊を集めた展示をやっていたんですよ。色々な熊があった中で、これに惹かれたんですよね。北海道八雲町の硬いオンコ(イチイ)の木でできているそう。民芸品というのも、また良くて。
F:3月に開催されていた「北海道の熊彫100周年記念『熊は100歳100祭』」という催事ですね。柴崎重行さんの作品は「幻の熊」と呼ばれているとのこと。
山口:加藤さん(「極楽とんぼ」の加藤浩次、北海道出身)と、ラジオの企画を兼ねて行った時に手に入れました。こういう木彫りをずっと探していたんです。
F:お部屋のインテリアにも合いますね。熊のうしろにある、立派な盆栽も気になりました。
山口:これは加藤さんから誕生日にいただいたものなんです。でも、うまく育てられるのか、不安ですね(笑)。
F:盆栽は難しそうです(笑)。確か、一郎さんのご実家は木彫工房でしたよね?
山口:はい。少し前にも、親父に木彫りのナマズを作ってもらったんですよ。見ますか?
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F:かわいいですね! なめらかなシルエットがとても繊細。ナマズは「アイニーヂューベイベー(I Need You Baby)」と一郎さんの「YI(yamaichi)」がコラボした時も刺繍のモチーフにしていましたが、なぜナマズなんですか?
山口:僕は釣りがすごく好きなんですが、原点がナマズ釣りなんです。子どもの頃に、親父の故郷の岐阜の川で、夜にずっとナマズを釣っていて。親父はアユ釣りしか興味ないから一緒にやらなかったんですけど(笑)。
MM6 Maison Margiela × SALOMON ミュールスニーカー
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山口:靴を今年も色々と試したんですが、中でも良かったのが、この色違いの2足。本当によく履いています。
F:「エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela)」と「サロモン(SALOMON)」のコラボスニーカーですね。サンダルタイプで、公式にはミュールという名称。最近少し増えてきているデザインですね。
山口:これはサッと楽に履けるし、シューレースでホールドされるので、スニーカーと同じ履き心地で脱げないんですよ。あと、パンツの裾がかかとに引っかかることもないので、ドンピシャでした。
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F:サロモンは一郎さんのベストバイ初登場です。
山口:履いてみたらハマりました。全身黒の時はブラック、ポイントとして身につけたい時はカラーの方。それぞれ2足買いすればよかったというくらい気に入っています。ミュールタイプだと、「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」の半分切り取られたようなシューズも可愛いんですよね。
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(左上から時計回り)Maison Margiela、NIKE ACG、MM6 Maison Margiela × Dr.Martens、LOEWE
F:もう一足、MM6がありますね。話題になった「ドクターマーチン(Dr.Martens)」とのコラボ。ローファーと3ホールシューズがドッキングしたデザインですが、履き心地はいかがですか?
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山口:ドクターマーチンは自分の足に合わなそうなイメージがあったんですが、全くそんなこと無かったです。名作ですね。それでローファーが良いなと思い始めて、「ロエベ(LOEWE)」のローファーを試してみたら、これもめちゃくちゃ良いんですよ。
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F:見た目ぽってりしていますが、履くと意外とスッキリ。ローファーとの出合いも、今年のポイントのひとつですね。
山口:あと、デニムに合わせるならこれかな。「ナイキ(NIKE)」のACGなんですけど、アッパーがモカシンぽいデザイン。本当は、「ミズノ(MIZUNO)」の「ウェーブ プロフェシー モック」のスエードタイプが欲しいなと思っていたんですが売り切れちゃって。まだ履いたことがないので、ミズノも気になっています。
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F:このままいくと、靴だらけになっちゃいますね(笑)。
山口:もうシューズボックスは一杯です(笑)。なので周りの知り合いによく譲っていますね。むしろ、誰かに似合うかなと思って手に入れている部分もあるかも。そうやってバトンを渡していきたいなと思っているんです。
MM6 Maison Margiela アクセサリー / TIMEX コラボウォッチ
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F:昨年のベストバイ企画で、「新しい自分」への変化のひとつとしてアクセサリーをつけ始めたというお話を聞きましたが、今年も増えましたか。
山口:今日つけている、MM6のブレスレットとリングがユニークで気に入っています。
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F:よく見たら鍵の形なんですね。以前のマルジェラで出ていた、スプーンやフォークを曲げて作ったアクセサリーを思い出しました。左手にしている時計は?
山口:これもMM6で、「タイメックス(TIMEX)」とのコラボの時計です。ベルトがマルタン期のエルメスでも出ていた二重巻き(=ドゥブルトゥール)なのがいいですね。ちょっとつけづらいですが(笑)。これと一緒に手に入れたんです。
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F:リングウォッチ! かなり小さいですが、しっかりと時計ですね。
山口:可愛いですよね。同じものをスタイリストの三田さん(三田真一)の誕生日にプレゼントしたんですが、「アウターで腕が隠れていても時間がすぐわかるから便利」と言っていて、確かにそうだなって。
F:ちなみに、今日かけている眼鏡は?
山口:これは「アイヴァン 7285(EYEVAN 7285)」で、サングラスのタイプもよくかけています。眼鏡も今年、新しい定番を探しているんですよね。試してみて良かったのが「ユウイチ トヤマ.(YUICHI TOYAMA.)」で、レンズとフレームの間にメタルパーツが入っているのが特徴なんです。
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F:角度によってキラッとメタルが見えるのが良いですね。今年、青山に路面店がオープンしましたが、行きましたか?
山口:はい。店内にヴィンテージの家具が置いてあったりして、趣味が合う感じもしたんです。この眼鏡、小森くん(GENERATIONS from EXILE TRIBE 小森隼)に教えたら、すぐ「買った」って(笑)。小森くんもジャパニーズモダンの家具を持っていたり、服の趣味も近いんですよね。
F:前回のベストバイ企画で、コム デ ギャルソンのライダースジャケットを小森さんに譲ったという素敵なお話を聞きました。
山口:少し前も、コム デ ギャルソン青山店で「クリストファー・ネメス(Christopher Nemeth)」が売られていた時に「僕、買いましたよ!」と連絡がきて。先手を打ってきました(笑)。
Maison Margiela ヘビーコットン ダブルコート / ウール シルクコート
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山口:今年、メゾン マルジェラの展覧会に行ったんですよ。
F:恵比寿で開催された「アーティザナル エキシビション 2024 東京」ですね。ジョン・ガリアーノが手掛けたメゾン マルジェラのアーティザナルコレクションを事後解剖した展覧会。無料とは思えないほど充実した内容でした。
山口:あれはすごかった。マルタンがいなくなってからのマルジェラって、どこかネガティブに捉えていたところもあったかと思うんです。でも、どういうコンテクストでデザインされて、どう作られているかを見れたことで、アトリエが持っている技術とか、ジョン・ガリアーノってやっぱりすごいんだなということが再確認できました。マルジェラはマルジェラなんだと、安心した部分もあります。
F:そんなマルジェラについては今年、手に入れたものはありましたか?
山口:ダントツで良かったのがアウター2着ですね。こちらのコットンの方は、4wayなんです。
F:一見すると、オーセンティックなヘビーコットンのアウターに見えますが...?
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山口:まずリバーシブルで着ることができて、さらに裾のジッパーを開くとロング丈のコートになるので、全部で4パターン。これが良くできていて、性別や年齢を問わなそうじゃないですか? たぶんおじいちゃんになっても着られるなあ、と思って手に入れました。
F:そしてもう1着は、チェスターコートでしょうか。シルク混のバージンウールの素材が上質です。
山口:昔のマルジェラで、こういった形のコートがあって好きだったんですよね。そのリバイバルの雰囲気もあって。ポケットとかディテールはクラシックだけど、裾が切りっぱなしだったり。
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F:袖口にはボタンが無くて、ボタンホールの位置を示す仕付け糸のみ。制作のプロセスを想起させる「ワーク・イン・プログレス」の手法ですね。少しオーバーサイズのシルエットも良い感じです。
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山口:値段は全然可愛くないですけど(笑)。でも長く着て、くたくたになってきても良い味が出ると思うんですよね。そういう視点で、次に良かったのがMM6のアウターです。こうやって着ると、ちょっとオアシスっぽくないですか(笑)?
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F:再結成して話題になったオアシスですね。襟の立ち方とシルエットがリアム・ギャラガーを彷彿とさせます(笑)。それにしても今年のベストバイは、特にMM6が多い気がします。
山口:良いなと思うものが多くて。マルタン時代のマルジェラを彷彿とさせるというか、実際にそういった初期のマルジェラが好きな人が作っているんじゃないかな、という感じもするんですよね。
Maison Margiela デニム2セット
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F:このデニムは、今年NHKで放映されたドキュメンタリー番組(「山口一郎 “うつ”からの再出発 ~サカナクション『怪獣』との格闘~」)でもセットアップで着ていましたね。こちらもメゾン マルジェラ。
山口:本当に気に入りすぎちゃって、夏から秋にかけてよく着ていました。生地もソフトで着やすくて、ヴィンテージやワークの雰囲気。きっとマルジェラのデザインチームに、ヴィンテージ好きがいるんじゃないかな。
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F:トップスはジージャンでもシャツでもなく、プルオーバーというのが珍しいです。
山口:最初はこの白いペイントのバツ印が気になっていたんですが、だんだん嫌いじゃないなって。色違いのブラックも出たらしいので、それも着てみたいんですよ。今年はデニムが良いものが多くて、こっちのアイスウォッシュの方も気に入っています。
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F:ノーカラーのデニムジャケットとパンツ。タグが無地の"白タグ"なので、「Co-Ed」コレクションのものですね。パーツのアウトラインだけインディゴの色が残っていたり、加工が凝っています。
山口:やっぱりコンセプチュアルなものに惹かれますね。マルジェラの白といえば、あのペンキのようなペイント(=ビアンケット加工)の印象が強いんですが、僕にとって着るのに少し勇気がいるんです。でも、これは毎日でも着られる。めちゃくちゃオーバーサイズなのも好きで。
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F:どれもこれも上下が揃っていますが、基本的にセットアップ買いなんですね。
山口:着回しできるように、揃っているものはセットで手に入れることが多いですね。最初のブルーデニムの方は同じパンツを小森くんも持っているので、「上も買った方がいいよ」とおすすめしたくらい。でもこれ、めっちゃ着てるけど全然洗っていないから、どうしよう(笑)。デニムってそれが難しい...。
F:洗濯表示を見ると、手洗いなら大丈夫そうですよ(笑)。マルジェラも結構また増えましたね。
山口:恵比寿店に友達がいるので、制作で煮詰まった時とか、ただ会って話しにいくこともあるんです。そういった部分でも、助けられているんですよね。
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PRADA Re-Nylon × サフィアーノレザー バックパック
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F:バッグのベストバイは「プラダ(PRADA)」。一郎さんのベストバイ初登場です。
山口:プラダは過去に触れたことがなかったので、あまり知らなくて。でも加藤さんもバックパックを持っていたり、良いという話は聞いていたので気になってはいたんです。
F:プラダのナイロンバッグが誕生したのが1984年なので、数えたら今年で40周年。ロングセラーのアイテムですね。
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山口:実は、伊勢丹のポイントがだいぶ溜まっていて。それでプラダを見てみよう、となったのがきっかけです。
F:実際に試してみて、いかがでしたか?
山口:めちゃくちゃ良くて、びっくりしましたね。本当は、ナイロンのバックパックで定番のポケットが2つあるタイプが良かったのですが、ちょうど売っていなくて。でも、たまたまあったこのポケット1つのタイプを試してみたら、すごく背負いやすい。生地の質が良いし、作りも丁寧で、やっぱり歴史のあるものは違うなあ、と思いました。
F:プラダでもう1点、ポシェットタイプもありますね。
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山口:今年、制作活動を再開しているんですが、その合間に散歩をするんです。そういった時に使えるポーチのようなバッグが欲しいなと思って、コム デ ギャルソン青山店に見に行ったのですが合うものがなく。それで、近くにプラダ青山店があるじゃないですか。フラッと立ち寄って、思いがけず購入したものです。
F:ちょうど目当てのものがあってよかったですね(笑)。
山口:ツアー先のちょっとした外出でも使えるので、手に入れてよかったです。次に良かったのは、メゾン マルジェラのバックパックですね。これが面白いのは、横にしてハンドルを持つとボストンバッグのようになるところ。
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F:ジッパーでガバッと大きく開くのも良いですね。これだけで1〜2泊はいけそう。
山口:ものすごく使いやすいから、妻夫木くん(妻夫木聡、同じ1980年生まれ)の誕生日に同じものを贈ったくらい。良いものは人にも使ってもらいたいんですよね。
COMME des GARÇONS PARFUMS オリジン & ODEUR 10
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山口:今年の僕のテーマにも合う香水のベストバイはこれ。コム デ ギャルソンの2本と、メゾン マルジェラです。
F:一郎さんの好きな2ブランドですね。「コム デ ギャルソン・パルファム(COMME des GARÇONS PARFUMS)」のコンセプトは"アンチパフューム"ということで、自分を奮い立たせるような香りを目指して作られているそうです。過去に、一郎さんから雑誌モノクルとのコラボの「ヒノキ」や「ヨヨギ」の香水を紹介していただきましたね。
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山口:今年、改めて良いなと思って使っているのが、ギャルソンから最初に発売されたオリジナル(正式名称は「コム デ ギャルソン オードパルファム」)なんですよね。今年30周年ということで、これが表紙の本も手に入れましたが、デザイン本としてもおすすめです。オリジナルは、ポールハーデンを着る時に合う香りなんですよ。
F:2本目は「ODEUR 10」。30周年を記念して今年発売されたもので、過酸化水素の香りと説明がありますが、どんな香りなんでしょう。
山口:少し懐かしい感じがするんですよ。試してみますか?
F:あっ、これは...ちょっと学生時代を思い出すような。
山口:そう、この爽やかさが懐かしいのかな。これは歌詞を書く時や、気分を変えたい時につけています。
F:もう1本は、メゾン マルジェラ「レプリカ(REPLICA)」フレグランスですね。香りは「レイジーサンデーモーニング」。
山口:最近、ちょっとがっかりしたことがあって。
F:何があったんですか(笑)?
山口:このレイジーサンデーモーニングが「女性が男性につけてほしい香水No.1」というのを見てしまったんです。そういうのでつけてるんじゃないんだって(笑)。これもきっと、ずっと好きな香り。普段これとギャルソンを、ファッションによって使い分けています。
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F:「ODEUR 10」もそうですが、今年のベストバイは本当に「10年」というテーマに沿っていますね。
山口:紹介しきれなかったけれど、ほかにも良いものにたくさん出合えました。このイサム・ノグチのAKARIも、リプロダクトなんですがもう手に入らなくて、オランダにいる友人がパリで見つけてくれたものです。
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F:家具では今年、天童木工と協業して椅子を作りましたね。
山口:あのプロジェクトはまだ続いていて、新しいことにも取り組んでいるんです。あ、これも紹介したいな。パソコンを置くやつ。天童木工の家具に合うものを探していたら見つけました。
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F:パソコンが宙に浮いているみたい。すごくシンプルです。「ヨハン(Yohann)」というブランドなんですね。
山口:あとは「コリコラン」って知ってます? パナソニックの高周波治療器。この「コリコランワイド」を装着したまま外出しちゃったりもしています。本当に楽になるから、みんなにすすめています。
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今年の買い物を振り返って
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F:たくさん良いものを紹介していただきましたが、今年の買い物を振り返ってみていかがですか?
山口:自分がうつ病だとわかった2年前は、好きなものから心が離れていって、音楽もファッションについても考えることすら辛かったんです。でも少しずつ戻ってきたので、反動でたくさん買ってしまっているのかも。ただ、なんでもかんでも買ってみるのは違うなと思っていたので、「10年後も好きなもの」というテーマが軸になりました。ずっと大切にしていきたいなと思うものばかりです。だからもう、来年は買わないかな(笑)。
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F:そんなことはないと思います(笑)。ただ、特にハイブランドなど物価がかなり上がっていますし、本当に良いものを皆が求めている時代ですね。
山口:僕は食わず嫌いのところもあったので、先入観を取り払って触れてみたり、新しいものにチャレンジしてみるという年でした。川久保さん(コム デ ギャルソン 川久保玲)はファッションは勇気だとおっしゃっていますが、本当にそうだなと思います。
F:昨年の「元に戻るのではなく、新しくなる」というお話に続いていますね。ポールハーデンは、まさに新しい定番ですし。
山口:自分の中で「何が新しい自分なのか」ということが少しずつわかってきた気がしています。新しい自分が、少しずつ構築されていくというか。生活においても、音楽においても。
F:サカナクションの完全復活ツアーをやり切ったことは、やはり大きかったのではないでしょうか。
山口:実際に僕自身、本当に実現できるのか不安でした。2年間お休みしていたので、忘れられているんじゃないかと怖かった。でも一人ではないというか、メンバーやチームがいて、乗りこなしながら作り上げて、ステージに立てたことは嬉しかったですね。こんなにたくさんの人が待っていてくれたんだって。やっぱりライブはミュージシャンとして栄養のようなもの。自分が音楽になれる瞬間でもあるので、それはもう格別でした。
F:その再起の裏側も、Youtubeライブで話したり、ドキュメンタリー番組で見せていましたね。今現在も、音楽制作の真っ最中とのこと。
山口:体調は完全に治ったわけではないので、良くなったり悪くなったり。七転八倒していますが、ここから生まれる音楽はある種、実験的なものになるかもしれません。嘘偽りなくさらけ出すことで、それに対して離れる人もいるかもしれないし、共感してくれる人もいると思う。ドキュメントしながら音楽を伝えていくことも、自分の中で大きな変化かなと思っています。
F:来年はサカナクションの新たなツアー(「SAKANAQUARIUM 2025 “怪獣”」)も控えています。
山口:次のホールツアーはストイックな感じになると思うので、どんな反応があるか、僕自身も今から楽しみにしています。
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photography: Masahiro Muramatsu
■山口一郎
1980年北海道生まれ。5人組バンド「サカナクション」として2005年に活動を開始し、2007年にメジャーデビュー。ほとんどの楽曲の作詞作曲を手掛ける。2015年に「NF」をスタートさせ、カルチャーをミックスした多様なプロジェクトを展開。コロナ禍の2020年から2021年にかけて画期的なオンラインライブを実現し、同年10月に新プロジェクト「アダプト/アプライ」を発表。全国アリーナツアー「SAKANAQUARIUM アダプト TOUR」を開催した。2023年に単独で全国を巡るツアー「懐かしい月は新しい月"蜃気楼"」、そして2024年には2年の時を経てサカナクション完全復活ツアー「SAKANAQUARIUM 2024 "turn"」を開催。2025年3月26日にライブ映像作品としてのリリースも決定。放映中のTVアニメ「チ。 ―地球の運動について―」の主題歌を担当。2025年1月から全国17会場34公演の全国ホールツアー「SAKANAQUARIUM 2025 “怪獣”」の開催が予定されている。
サカナクション公式サイト
全国ホールツアー「SAKANAQUARIUM 2025 “怪獣”」
■サカナクション 山口一郎のベストバイ
2016/2018/2019/2020/2021/2022/2023
■2024年ベストバイ
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