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昨今、行政の現場では「ナッジ」(nudge)と呼ばれる行動経済学の考えを生かした政策手法が注目を集めています。
ナッジとは「そっと後押しする」という意味で、強制したり、禁止したりするのではなく、人々が自発的によりよい行動を取れるように手助けする手法です。
川崎市は2024年の年末、正月用の買い出しのため車で混雑する中央卸売市場北部市場の渋滞緩和を目的に、ナッジを生かしたユニークなメッセージを発信しました。どんな効果があったのでしょうか。回答は、同市 中央卸売市場北部市場管理課 庶務係長の青木貴さん。
川崎市中央卸売市場北部市場における年末商戦の時期において、一般のお客さまの来場手段を自家用車から他の交通手段に転換していただくことを目的に、令和6(2024)年12月13〜30日、市場を紹介する川崎市のWebサイト上で、ナッジを生かしたメッセージの発信を行いました。
当市場においては、毎年12月28日以降の数日間、年越し・お正月に向けた食材などの買い出しに来られるお客さまで大変にぎわいますが、多くの方が自動車で来場されることにより交通混雑(例年、駐車するまでに1時間以上待つ渋滞)が発生していました。
北部市場は開設から40年以上経ち、現在、機能更新(施設の建て替えなど)が計画されており、大事な時期を迎えています。そのような中で、令和6年の年末は、例年発生していたような渋滞を少しでも減らし、来場者の皆さまに気持ちよくお買い物を楽しんでいただくとともに、地域の方に迷惑となる渋滞の解消に努めることで、一層市民に親しまれる市場となりたいと考え、ナッジによる取り組みを発案しました。
令和6年の年末は、令和5年度末までと異なり、場内の駐車場待ちがほぼ発生せず、結果として周辺道路まで伸びる渋滞も発生しませんでした。
もっとも、今回はナッジ手法を用いたメッセージの発信と併せて他の取り組み(自家用車の進入動線の変更、宅配業者の臨時集荷所の設置など)も行ったので、今回の結果は、ナッジ手法だけではなく、それらの相乗効果によるものではないかと考えています。
当市場は、自家用車以外の交通手段で来場する場合の利便性が決して良いとはいえない立地にあるため、そもそも一般のお客さまに対して自家用車の利用を抑制するようなナッジが効きにくいと想定されていました。
そのような中「買い物をして帰るのだから自家用車で来たほうが快適だ」という常識に対して、「自家用車で来るデメリット」をどのように打ち出し、かつ「自家用車以外で来るデメリット」をいかに軽減するかがポイントでした。
実際に発信したメッセージとしては「今年こそ 待たずに入る 北部市場」というキャッチコピーのほか、自家用車で来ないほうが待たずに快適な買い物ができることをドライバーに訴えかけるため、高速道路で見る看板をもとに作成したイメージ画像などを使いました。
その検討を進める過程で大変だったのは、訴求テーマに合ったナッジの類似例が見当たらず、手探り状態で進めざるを得なかったことです。ナッジ手法と併せて実施する他の取り組み手段を含め、渋滞解消という目的に対して的を射たものであるのか、どれだけ効果が見込まれるかについて不安もありました。
このため、具体的なメッセージの出し方などについて関係者の間で意見が分かれ、調整に時間を要したこともありました。しかし、この手の取り組みはトライ&エラーが大事であることから、まずは試してみるべきという判断となり、実施することができました。
アイデアの着想からWebサイト上での公開開始までに要した期間は1カ月程度でした。ナッジ手法の利用を思いついた職員が中心となり、北部市場内の複数の職員の助言などを得て実施しました。
職員のアイデアを基に進んだため、企画の立案自体には外注コストはかかっていません。また、ナッジを含む取り組みを広報するため、有料の広報媒体(地域情報紙、インターネット広告)へ出稿するのに要した経費は20万円程度です。
騒音対策や、不法投棄対策などにもナッジを生かした取り組みができればと考えています。
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