もっと速く、スマホ時代の先へ行く――代表取締役COO 出澤氏に聞く 2015年のLINE(前編):新春インタビュー(1/2 ページ)
全世界で1億7400万の月間アクティブユーザー、そして日本では5400万人以上のユーザーを抱える巨大サービスの「LINE」。スマートフォン時代を象徴するサービスともいえるLINEは、今後どこに向かうのか。2015年4月から社長に就任する出澤剛氏に話を聞いた。
フィーチャーフォンからスマートフォンへ。
この変遷をもっとも体現したアプリケーションは何かと問われたら、多くの人が「LINE」と答えるだろう。2011年6月のサービス開始以降、LINEは急速に普及拡大し、2014年9月時点でのMAU(月間アクティブユーザー)は全世界で1億7400万に達した。日本でも5400万人以上のユーザーが使用しており、若年層や女性を中心に「LINEをしたいからスマホを買う」ほど一般的なサービスになっている。
かつてのiモードが“ケータイメール”で人々のコミュニケーションの在り方を変えて新しい文化を創ったように、LINEもまたコミュニケーションとライフスタイルを変えようとしている。こと日本においては、LINEこそがスマートフォン時代を象徴するアプリといえるだろう。
そして2014年12月、LINEを立ち上げ期から率いていた社長の森川亮氏が2015年3月末をもって勇退し、現在同社代表取締役COOを勤める出澤剛氏が新社長となる方針が発表された。
2015年、LINEはどこに向かうのか。新春特別インタビューとして、4月から新社長に就任する出澤剛氏に話を聞いた。
LINEの社長交代は“スムーズなバトンタッチ”
―― まず昨年(2014年)の振り返りで考えますと、12月にLINEを創生期から率いていた森川社長が退任するという大きなニュースがありました。LINE事業が順調な中でなぜ勇退されるのか。どういった背景事情があったのでしょうか。
出澤氏 背景事情といいますか引退の理由は、森川がブログに書いているとおりでして、(森川氏が)スタートアップ企業の支援・育成や新規事業に注力していきたいという思いによるものです。彼は若い頃から芸術家の支援といったことに熱意を持って取り組んでいて一時は画廊などを経営したこともあるようでして、もともとそういう“育てること”が好きなのですね。
実は2014年4月の時点で、森川から「時期はいつかは分からないが、そういうこと(スタートアップ支援など)をやりたいのだ」と相談を受けていました。ですから2014年度は私も代表権をもって経営チームを率いてまいりました。いわば、私の(経営者としての)トライアル期間ですね。そして2014年9月に森川から正式に引退の時期も含めた話があり、12月の発表に至りました。
―― 今回の社長人事は「経営刷新によって事業方針を変える」といったものではなく、あくまで現在の事業方針や経営方針が大きく変わることなく、森川体制から出澤体制へと移行していく。スムーズなバトンタッチである、と考えてよいのでしょうか。
出澤氏 その通りです。まだ内定段階ですし、移行プロセスの途中ではありますが、かじ取りが大きく変わるというものではありません。引退というより、卒業といった感じですね。
―― 引退する森川社長からはどのような指示を与えられていますか。
出澤氏 「今の体制で、もっと速くもっと大きく成長しろ」と言われています(笑)。
「LINEの成功要因」「LINEらしさ」とは何か
―― 今では“スマートフォン時代の象徴“とまでいえる成功をおさめたLINEですが、出澤さんから見て、LINEの成功要因はどこにあったといえるのでしょうか。
出澤氏 外的な環境によるものと、我々自身のサービス作りの考え方というふたつの成功要因があると見ています。
まず外的環境についてですが、これは時期的な要因が大きかったと考えています。(フィーチャーフォンから)スマートフォンへの地殻変動が大方の予想よりも大きいものになったわけですが、我々はとてもよいタイミングでLINEを投入することができました。なおかつ、初期の段階から海外ユーザーがいましたから、LINEは当初からグローバルな視点で(コンセプトやサービスを)考えることができた。ここが外的要因としては大きかったと思います。
そして我々自身のサービス作りについてですが、ここでは常に「利用者の体験を第一に考える」を徹底してきました。このユーザー体験重視の中で、品質やUI(ユーザーインターフェイス)を考え、こだわってきました。またLINEを作る時には、PCやフィーチャーフォン(のUIや文化)は一切捨てて、「スマートフォンでどうあるべきか」を追求しました。スマートフォン向けのクローズドなコミュニケーションに、インフォメーションではなくてエモーションを乗せるという考え方で作り上げていった。こういった初期のコンセプトが、とてもよかったのだと思います。
―― 確かにLINEはインターネットメールともケータイメールとも違う、スマートフォン向けの“新しい形”を作りましたね。しかもそれは従来からのインスタントメッセンジャー(IM)とも違う形に進化していった。
出澤氏 そのような観点では、スタンプの成功は大きいですね。これは2011年9月にスタートしているのですが、LINEの見え方を変えたといいますか、本当に「LINEらしさ」が醸成されるきっかけになりました。
―― LINEは登場後に進化していっても、多機能化の弊害による使いにくさがあまり生じなかったのも興味深い点だと考えています。一言でいえば、ユーザー体験に“ブレがない”。
出澤氏 別に明文化されているわけではないのですが、作っているメンバーの間で「LINEらしさとは何か」という共通認識を持っています。ですから新たな機能やサービスを追加する際にも、「それはユーザーにとって必然性があるのか」を徹底的に考えます。提供者側の思い入れは時として思い込みになってしまいますから、LINEユーザーが必要としているものかどうかで(新機能を実装するかを)判断しなければなりません。この軸は絶対に崩しません。
―― それはとても「よい考え」ではありますが、企業として徹底して実践するのはとても難しいことですね。
出澤氏 ええ。ですから我々はこだわります。LINEらしさを考える上で、(単純な利益追求を目的とした)ビジネスがそこに入ることはないですし、個々の企画者の思い込みが介在しないように腐心しています。LINEらしさの軸にあるのは、LINEユーザーのユーザー体験を素晴らしいものにしていくこと。この考えを貫くことで、(多機能化で)コンセプトがブレるといった事態が防げます。
―― 「ユーザー体験を重視する」「ユーザーにとってよいものを作る」というのはとても正しい姿勢ですが、一方で、ユーザーの意見を聞きすぎると、革新的なものは生まれず、あまり使いやすいものにもなりません。例えばキャリアが作ったスマートフォン向けキャリアメールなどは、ユーザー調査をしっかり行いユーザーの声にあわせて仕様策定をした結果、ケータイメールの仕様やUIをずいぶんと残してしまって、スマートフォン向けとしては使いにくいものになってしまった。こういった課題について、LINEではどう考えているのでしょうか。
出澤氏 それはおっしゃるとおりですね。我々はユーザーの声に耳を傾けますが、それによって機能を付加していくという考えではありません。どちらかというと機能を殺して(アプリ/サービスを)研ぎ澄ましていく方向にユーザーの意見を生かしています。総花的にはしない、シンプルにしていく。この基本的なスタンスのもとで、ユーザーの意見を聞いていくのです。
―― ユーザーに「欲しいものを聞く」のではなく、「いらないものを聞く」と。
出澤氏 シンプルにしていく過程で、ユーザーがどう思うか。この思考プロセスが大切ですね。
あと開発体制のお話を少しさせていただきますと、LINEには最高峰のエンジニアリングチームがいる一方で、同じく最高峰のデザインチームがいると自負しています。そして技術的にすばらしいのはもちろんのこと、デザインも優れたものでなければならないという考え方で開発を行っています。新たな機能を実装していくにしても、それはシンプルで反応速度がよく、デザイン的にも優れたものでなければならない。(開発チームとして)それが共有されていることは大きいと思います。
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