『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』(山口真由著、PHP研究所)の冒頭、「はじめに」の部分に記された、東大卒業から8年を経た現状についての著者の思いがまずは印象的でした。
8年の間に、私は財務省で働き、そして、今は、弁護士として働いています。(中略)それなのに、いまだに「財務官僚」「弁護士」ではなく「東大主席」が、私自身を語るキーワードになるなんて。「8年前の私」に対する微かな敗北感を抱きながら、「今の私」は自分自身に100%は満足できていないことを実感してしまうのです。
しかし、多くの人にも共通する「100%は満足できていない」状態こそが、実はかけがえのないものであるとも主張しています。なぜならそれは、自分のなかに「向上心の塊」があるということだから。そして、向上心と正しい方法論を身につければ、内にこもっていたエネルギーが爆発的な推進力となる。その方法論こそが「勉強法」であるということです。そんな考え方に基づいた第4章「誰でもできる!『7回読み』勉強法とは?」に目を向けてみましょう。
調べものは「リサーチ読み」で
著者が行なっている読書法は3つあり、まずひとつは普通の読み方である「平読み」。2つ目が「リサーチ読み」で、これは調べものをするときに役立つ読み方。ビジネスパーソンが情報収集を行なう際などに有効だといいます。
たくさんの本に目を通す「リサーチ読み」の、強い味方になるのは図書館。最初に調べたいテーマやキーワードを検索機に打ち込み、関連のありそうな本をすべて書棚から出して目を通す。ただし、きちんと読んでいると時間がかかるので、目次を見て書かれていることをチェックし、流し読みしながら関連性の高い部分を探すといいそうです。そして読み方のコツは、文章を読むのではなく、文章のなかにあるキーワードを見つけることだけを意識すること。文章の意味がとれなくても、まったく気にする必要はないといいます。(126ページより)
「7回読み」3つの特徴
3つの読書法の3つ目が、試験勉強から、知識を身につけたいときにまで役立つという「7回読み」。これには3つの特徴があるそうです。
1.「読むこと」の負荷が小さいこと。
「7回読み」は、1回1回が流し読み。「しっかり読んで理解しなくては」と思いながら本に向かう集中力とは無縁。
2.情報をインプットするスピードが速いこと。
「読む」「書く」「話す」「聞く」にかかる速度をくらべたら、言うまでもなく、最も速いのは「読む」。ノートを書いたり、講義を聴いたりするよりも、短時間で大量の情報をインプットできるわけです。
3.いつでも、どこでもできること。
本一冊あれば、時と場所を選ばずに勉強することが可能。通勤時間やスキマ時間を活用できるため、時間が無駄にならず、短期集中型の勉強にも最適。
なお、必ずしも「7回」という数にこだわる必要はないといいます。事実、著者も7回でわからない難しい内容は、さらに何度か読み足しているのだとか。(129ページより)
「認知」から「理解」への道筋
知識や情報に触れるとき、著者はいつも「知らないことは、理解できない」と感じるそうです。たとえば「太郎が花子に花を贈った」という文を読んだとき、太郎という男の子が、花子という女の子に花を贈っている場面を目に浮かべることは容易です。でもそれは、「太郎」が男の子の名前で、「花子」が女の子の名前だという「共通化された前提知識」があるから。無意識だったとしても、ある文章を理解するときには、必ずなんらかの予備知識が前提となっているということ。
理解する前には、まず「認知」というプロセスが必要だとも言えますが、重要なのは「認知」と「理解」とは似て非なるものであるということ。たとえばある文章を見て、「こんなことばが書いてある」と視覚的に感じ取るのが「認知」。それに対し、イメージをくみ取り、意味を読み取り、メッセージを把握するのが「理解」。これに近いのは、知らない人同士が初めて会うときの状態。
つまり「理解しよう」と思って本を読みはじめる人は、いきなり初対面の相手と親友になろうとしているようなものだということ。だから「難しい」と感じ、投げ出してしまいたくなるわけです。しかしたいていの人間同士は、いきなり親友にはなれないもので、最初は単なる「知り合い」。
「認知」とは、この「知り合い」の状態をつくること。少しずつ頭に情報を刷り込み、書かれていることと「知り合い」になっていく。それを何度も繰り返すと、文章との間に親密さが出てくる。回数を重ねるごとに、知り合いは「友人」「親友」へ近づいていく。いわば7回読みは、そのための作業だということです。(131ページより)
「30分の流し読み」を7回繰り返す
「7回読み」の1回あたりの速度はとても速く、著者の場合は300ページ程度の本を1回30分で読むそうです。単なる流し読みだから、この程度ですむわけです。そして「7回読み」をする際には、時間を置かずに読むのがおすすめだとか。読み終えて、記憶が薄れないうちに次の回を読めば、定着も早まるからです。「1日以内」に読めれば理想的。「何度も通読すれば、平読み1回よりも記憶への定着度が強い」という考え方には説得力があります。
また読むときは、気負わないことも大切。集中しなくてはいけないと思うと、それが雑念となるため、「本を開いてページをめくっているなら、読んでいるということだ」と思って気楽に読めばいいということです。(133ページより)
「7回読み」ということばは初めて知りましたが、1日1冊以上のペースで本を読んでいる私も、いつも著者と同じ方法で本に向かっています。もちろん無意識でそうしていたにすぎませんが、だからこそわかるのは、本書に提示された考え方の的確さ。本を読む機会の多い人には、きっと役立つと思います。
(印南敦史)