『感染症もサッカーもゼロリスクを求めてはいけない』岩田健太郎教授に緊急取材、サッカー観戦の感染リスクとJリーグ再開の是非(前編)
新型コロナウイルス対応に追われるクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に入り、「カオス状態」と告発する動画をアップ(2日後に削除)し、一躍時の人となった神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授。自主隔離を続ける現在もTwitterを中心に有益な情報を発信しているが、タイムラインには突如、ヴィッセル神戸の情報をRTしたり「エル・クラシコ見たいな」とつぶやいたり、サッカー通であることを匂わせる投稿が時折流れてくる。
もしやサッカー愛にあふれる感染症の先生なら、Jリーグの試合延期と今後の対策について、ファンの視点をふまえてアドバイスをいただけるはず、ということで2月28日電話でのインタビューに特別に応じていただきました。
全サポーター、サッカー関係者必読の内容を、2回に分けて公開いたします。前編は「試合開催の是非と今後の再開の仕方」についての見解を、後編は実際にスタジアムで試合をする際の「観戦者や選手の感染リスク」について、最後はおまけで岩田教授のベールに包まれたサッカー遍歴もあわせて聞いています。
(取材・文/阿波万次郎)※岩田教授のお話は取材を行った2月28日時点の情報に基づいています。
【試合開催の是非について】
■ゼロリスクを求めてしまうと試合は永遠に開催できない
――Jリーグは3月15日まで試合の延期を決定しました。試合開催の是非について岩田先生の見解を聞かせてください。
凄く残念ですけど、なかなか難しい判断だと思います。いままさにこのインタビューを受けているこの日(2月28日)、この時がクリティカルな、つまりこれから先、感染がどんどん広まって収拾がつかなくなるのか、ここで抑え込んで問題を克服できるかのちょうど瀬戸際だと思っています。瀬戸際では全力を尽くして感染を抑えにかかるのが筋ですので、はたして短期間の試合延期で効果があるのか、ないのかが明らかになるまではある程度やむを得ないのかなと思います。
いま日本の感染マッピングを見ると、感染者が出ているところと出ていないところのコントラストがはっきりしている。中国地方とか四国はクルーズ船(ダイヤモンド・プリンセス)の人はいましたけど(29日に高知で、3月2日に愛媛で新たな感染者が出たと発表)、流行は起きていない。東北地方もほとんど起きていない。北海道、愛知、東京、神奈川、千葉あたりは集中的に起きている。すごくムラがあるんです。生活一般で言うと、いま患者さんがいないところで、生活を制限するようなことをやる意味は小さいと思っています。
――そうしたなか、昨日、政府は全国の小中高へ休校要請を行いました。
学校の休校は全国レベルでやる意味はあまりないと思っています。流行しているところだけでやればいいんじゃないかと思うんですけど、Jリーグが難しいのは全国にチームが分布しているため、チームやサポーターが移動するところです。つまり、流行していない地域に、流行している地域の人がウイルスを持ってきてしまう可能性があって、そこがネックだと思っています。各地に感染症が分散している現在の状況では、構造的にJリーグは相性がよくないんです。
これが地域のリーグとかであれば、流行の起きていない場所で開催するということができるかもしれませんが、J1、J2、J3は全国リーグなので難しいですね。
――ただ、感染者が確認されていない地域でも潜在的に感染者がいる可能性はありますよね。
あります。
――そこがなかなか腑に落ちないのですが、いままさに感染拡大を防げるかという状況でも、感染者が出ていなければその地域での開催は問題ないということなのでしょうか?
問題ないかどうかはわからないですけど、問題にする根拠がないということなんです。仮説を言えばいくらでも言えるんです。しかしながら、ある程度の検査数があるなかで、1人も感染者が見つかっていない地域では、ウイルス感染が起こっていると考えるよりは、起こっていないと考えるほうが絶対理にかなっています。感染者がいて発症していれば、どこかで検査にひっかかる可能性が高いですから。これは可能性が高いか低いかの問題で、絶対に正しいとか間違っているとかは言えないものなんです。100%の正しさは求めてもしょうがないことなので、我々はどれくらい可能性が高いかで判断するんですね。
そうすると現在感染が確認されていない地域では、ウイルス感染が起きている可能性はきわめて低いか、もしくはあっても非常に少ないレベルで存在しているのかのどちらかで、いずれにしてもサッカーの試合をスタジアムでやったからといってそこで流行が広がるリスクは低いと考えます。
ただこれが東京や神奈川、北海道のチームがビジターで新幹線や飛行機に乗ってきて…ということになると、当然リスクは高まる。これはあくまでも可能性が高いか低いかの問題です。
――どういうふうにリスクを見積もるかということですね。
「可能性は否定できない。ゼロではない」という論法を使ってしまうと、何もできなくなってしまう可能性が高いですね。それこそ、新幹線も感染の可能性があるから止めようとか…全てがそうなってしまう可能性がある。それでは失うものが大きすぎますね。
どこまで理性的に危険をおかすことができるか。これはサッカーと同じなんです。サッカーも、陣形を崩さなければ点をとられにくくなる一方、点もとれないとなる。リスクはある程度おかさないとダメなところはあるんです。
たとえばドリブルをするとボールをとられる可能性はあるわけですけど、「ボールをとられる可能性があるからドリブルをするな」となるのはまったくナンセンスな議論ですよね。
ドリブルをするに値するかは、そのシチュエーションが決めるので、感染が確認されていない地域というのは、シチュエーション的にはドリブルをする価値がある、つまり危険が大きくないだろうという判断ができる。これが北海道あたりになるとちょっと怖い、となる。
■模範はイニエスタ。サッカーの試合と同じで、パニックになっていいことはひとつもない
――試合延期にあたって主催側が考えなければいけないポイントはどこになるのでしょうか?
ポイントはいつ試合を再開するのかでしょうね。学校も同じで休むことは比較的決めやすいんですけど、いつ再開するかを決めるのは簡単ではない。再開をどういう根拠でやるか、ゼロリスクを求めてはダメで、それを求めてしまうと下手をすると何年もずっと再開できなくなる。それはまったくナンセンスです。
これからは、2つのシナリオが考えられます。
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