今回は、いわゆるIT職場(IT企業やSIer、情報システム部門)の人たちが既に身に付けているはずのプロジェクトマネジメント能力について論じる。世の中を見回してみると、プロジェクトマネジメントの能力不足やプロジェクトマネジメントの担当者不在が原因で業務がうまく回っていない事象が散見される。
職場のそのモヤモヤはプロジェクトマネジメント不在で起こっているかも
プロジェクトマネジメント能力を備える人がいないのでうまく立ち上がらない。あるいはそもそもプロジェクトマネジメントの考え方、もっといえばプロジェクト型で物事を進める発想・経験がないためにうまく進まない。このようなことは世の中にたくさんある。以下、いくつか具体例を示そう。
(1)新規事業が立ち上がらない
世間は新規事業創造ブームである。スタートアップの立ち上げが盛んだ。大企業も新規事業推進室などの専任部署を立ち上げ、従来と異なるビジネスモデルや稼ぎ方を創造する動きが加速している。
ところがこうした新規事業への取り組みは、最初は勢いがあるものの、なかなか形にならない。山のようにアイデアは出るものの、何ひとつとして続かないし、日の目を見ない。その背景や要因は様々だが、1つにプロジェクトマネジメントの不在がある。
「船頭ばかりで手を動かす人がいない」「発想や構想、ビジョンなどをかみ砕いて業務やタスクを設計し、実行・管理する人がいない」という状態になっている。筆者もこのような新規事業プロジェクトを山のように見てきた。
(2)新しい施策やイベントがうまくいかない
民間企業のみならず、官公庁の現場でも同様の曇り空の景色は見られる。例えば前回の連載で取り上げた「地方創生 2.0」などだ。政府および自治体が新たな政策を掲げ、活動の骨子や予算を計画する。また都道府県知事や市町村長がイノベーティブなビジョンを掲げることもある。
ところが、そこから先の物事が進まない。政策や骨子、ビジョンだけが掲げられたままだ。担当部署が創出されたり、担当者もアサインされたりするものの、具体的な話が何も始まらない。誰も政策や骨子、ビジョンを業務レベルやタスクレベルにまでかみ砕こうとしない。誰かが決めてくれるものだと思っている。またタスクの抜け漏れが多く、機能しないといったこともある。
(3)イノベーターが孤独になる
(1)や(2)のような状況を放置すると、イノベーターがやがて孤立してしまう。新しい発想や着想が生まれても、誰も業務やタスクに落とし込んで割り振ったり、管理したりしない。やがて新たな発想は無に帰する。または、いい出したイノベーターがすべての業務(業務設計やタスク管理など)を実行しなければならなくなる(いわゆる「いったもの負け」文化ってやつだ)。
なかなか酷な話である。イノベーティブな発想を得意とする人が、手を動かすのも得意とは限らない。その逆もしかりである。イノベーションが起こらない組織文化の背景の1つに、プロジェクトマネジメントの不在が間違いなく存在する。
(4)リモートワークがうまくいかない
プロジェクトマネジメント不在がもたらす残念な光景は、新規事業やイノベーションなどの立ち上げ時のみとは限らない。日々の定常業務やオペレーションでも起こっている。その1つがリモートワークによる業務遂行だ。
「リモートワークだとコミュニケーションがうまくいかない。だから毎日出社のスタイルに戻す」。このような残念な結論に至る企業が増え始めている。こうした組織に話を聞いてみると、仕事を投げるほうも受けるほうも常日頃から「雑」なのである。誰かに仕事を任せる際のタスク分解や、期待・役割の合意形成などが甘い。
仕事の目的や成果物、完了条件、報連相のタイミングや手段、業務遂行に必要なインプット、巻き込むべき関係者などの景色を合わせれば、たとえリモートでも仕事はスムーズに進む。認識の違いも早期に発見・修正でき、「言った言わない」などのいざこざや手戻り、それらの蓄積による不信感も払拭できる。
丁寧なコミュニケーションやマネジメントから逃げているのに、「リモートワークはうまくいかない」と決めつけてしまうのは組織としてあまりにお粗末かつ未成熟である。もっといえば、目的の伝達と共有やタスク分解、相手とのすり合わせなど、普段から丁寧なコミュニケーションを取っていれば、対面における仕事の効率も品質も上がる。これらはプロジェクトマネジメント能力の向上で十分に克服可能である。