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 最近、システム開発案件のコンペに参加したITベンダーに対して提案料を支払う、というユーザー企業の話を聞いた。複数のITベンダーから提案を求めて最も優れた提案を出したITベンダーを選定する際、全てのITベンダーに提案料を支払うのだという。

 IT業界の関係者ならほとんどの人が「そんなユーザー企業があるのか」と驚くと思う。提案料を支払うと明言するユーザー企業は、ほとんど存在しないからだ。そもそもユーザー企業のIT部門の大半は、ITベンダーに提案料を支払うという発想がない。「提案はITベンダーの営業活動の一環なのだから、対価を支払う必要はない」との認識が一般的だと思う。

 「提案料を支払わない」はIT業界の常識と言えるが、視野を広げると景色は変わる。例えば建築デザインのコンペでは全部が全部というわけではないが、提案料を支払う企業は多い。デザインは高度な知的作業であり付加価値は高い。成果物(提案)に料金を支払うのはある意味、当然と言える。

 実は10年近く前から、私は「ユーザー企業は提案料を支払うべし、ITベンダーは提案料を請求すべし」と主張している。システム開発の料金や根拠を提示する見積もり提案ならまだしも、最近のITベンダーの提案は、経営課題の分析や解決策の提示といったコンサルティング的な内容を含む「ソリューション提案」が多いからだ。

 だが残念なことに、「提案料を支払う」とするユーザー企業は、私が知る限りこれまで1社にすぎなかった。今回ようやく2社目の企業に出会ったわけだ。もちろん常に提案料支払いの有無を聞いているわけではないので、もっと多くのユーザー企業が提案料を支払っていると期待するが、それを踏まえてもあまりにも少ない。

 良い機会なので、改めて提案料を支払ったり請求したりすることの必要性を述べておこう。