「webOS」にみるHPのコンシューマービジネス戦略ねんがんのモバイルOSをてにいれたぞ(1/2 ページ)

» 2011年03月30日 17時35分 公開
[後藤治,ITmedia]

「webOS」を手中に収めたHPがめざすもの

webOSを搭載する9.7型タブレット「TouchPad」

 米Hewlett-Packard(以下、HP)が12億ドルをつぎ込んで手に入れたPalmの「webOS」は、同社のビジネス戦略にとって今後(しかもかなり大真面目に)重要な役割を担うものになりそうだ。

 webOSは旧Palmが開発したモバイル端末向けOSで、クラウド/ソーシャルサービスを一元管理する「Synergy」や文字入力を即座に検索やアプリに投げる「Just Type」、非接触型充電が可能な「Touchstone」、webOS搭載端末どうしの情報共有など、スマートフォンやタブレットに最適化されたさまざまな特徴を持つ。

 急成長中のスマートフォン/タブレット市場を受けて、Appleの「iOS」、Googleの「Android」に対抗すべく、HPも本格的にこの分野に乗り出しており、スマートフォンの「Veer」「Pre3」に続き、2011年夏に投入予定のwebOS 3.0搭載タブレット「TouchPad」でwebOSの存在感をアピールする構えだ。

webOSのデモ。ユーザーが行う作業をカードごとに分類するタブレット向けのUIを採用する。映画を視聴中にカレンダーをチェックしてEメールに返事を出してから映画に戻る、といった一連の作業を途切れることなく行える。また、関連する作業はスタックされる

Eメールもタブレットの広い画面を生かした作りだ。画面をドラッグするとペイン表示になり、複数のフォルダだけでなく、複数のアカウントのメールを同時にプレビューできる。ソーシャルネットワークとの統合も特徴の1つ。Facebookの写真をフォトアプリで表示し、その写真について投稿されたコメントを読むといったことが同じアプリ内で行える。メッセージが入ると右上に表示され、わざわざアプリを切り替えずにすむ

webOSによってデバイス間の溝も吸収される。“デバイスどうしが話し合う”ように、スマートフォンとタブレットが同期し、ソファでタブレットを閲覧中に、書斎に置いてあるスマートフォンに入ってきたメッセージをタブレットで受けられる。スマートフォン(Pre 3)をタブレット(TouchPad)にタッチすると情報(URL)が転送される「touch to share」もユニークな機能だ。タブレットで閲覧していたレストランへ出かける際にスマートフォンをタブレットにタッチすれば即座に情報を持ち出せる

 webOSのマーケティングを統括するアプリケーション&サービス担当上級副社長のスティーブン・マッカーサー(Steven Mcarthur)氏が「webOSですべてをつなげていく」と語っていたように、同社がwebOSでめざしているのはユーザー体験の統合だ。

上海で行われた「A New HP World」イベントでwebOSを紹介するスティーブン・マッカーサー氏

 ノートPCやeBookリーダー、スマートフォンなど、インターネットに常時接続されたデバイスが複数存在し、目的に応じて異なるデバイスを使い分ける環境では、操作性の共通化や情報の同期が求められる。例えば、ある動画を見たいと思ったときにそのデータがどのデバイスに保存されているのか分からずに探してしまう、あるいは特定のアプリやサービスを利用するために、画面サイズやOSの異なる(つまり操作方法も違う)複数のデバイスを交互に使う、といった煩雑さを体験したことがある人は少なくないだろう。

 HPは今後、PCやタブレット端末、スマートフォン、プリンタなど、さまざまなデバイスにwebOSを搭載していくことを明らかにしており、webOSをプラットフォームとしてユーザー体験そのものを統合していこうと考えている。

 これはちょうど、Acerが次世代戦略として掲げる「clear.fi」構想に似ている。Acerも世界シェア首位のHPに続く巨大なPCメーカーだが、clear.fiではWindowsとAndroid上で動く独自UIをスマートフォンやPCに提供し、デバイスごとに格納されたデジタルコンテンツをどのデバイスからでも同じ操作感で扱える共通化されたユーザー体験を指向している。

ジョス・ブレンケル(Jos Brenkel)氏

 アジア太平洋/日本地域の上級副社長を務めるジョス・ブレンケル(Jos Brenkel)氏は、2月に行われた「A New HP World」イベントのインタビューで「私たちがマイクロソフトを首にしたという冗談もあるようだが、それは違う。(PCに搭載される)webOSはWindowsの拡張であり、webOSのアプリがWindows上で動くと理解してほしい」と語っている。また、Acerとの相似を指摘すると「AcerはOSを持っていない。彼らはハードウェアビジネスを主軸にしており、ハードが売れなければ生き残れない。AcerやLenovoはwebOSを持つ我々とはまるで違う」と強く否定し、「めざす方向性はむしろAppleに近い」ともコメントしている。

 もっとも、ここで引き合いに出されたAppleの名前からは、開発者にプラットフォームを提供するということ以外に、iTunes Storeのようなコンテンツ配信ビジネスも視野に入れたものと思われる。実際、HPは2010年に音楽配信サービスの「nuTsie」を展開するMelodeoを買収しており、コンテンツ配信に意欲的な姿勢を見せている。

Acerは2010年11月のイベントで「alive」を発表した

 Acerもすでに音楽や動画、電子書籍などを配信する「alive」の展開を発表しているが、PC市場の世界シェアでトップに名を連ねるメーカーが相次いで独自プラットフォームを展開し、コンテンツ配信ビジネスに乗り出そうとしているのは興味深い。「マーケットは変化している。今はデバイスごとだが、今後はコンテンツでどれだけシェアを取れるかが重要になるだろう」(ブレンケル氏)。

 2011年1月、App Storeからのアプリダウンロード数は100億本を超えた。特にiPadが発売された2010年は、わずか1年間でそれまでの3倍以上にあたる約70億本を積み上げている。一方のAndroidも各社がこぞって搭載端末を投入し、Android Marketは急速に拡大しつつある。モバイル広告やアプリストアによる収益(アプリ販売やアプリ内課金、サブスクリプション)と、モバイルインターネット市場に参入する動機は十分だ。“後発”のHPがうまく立ち回り、iOSやAndroidのアプリ開発者をwebOSに引きつけることができれば、わずか1秒の間に2台のPCを出荷しているHPが巨大なエコシステムを構築する可能性はあるだろう。

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