中国、「脱党ブーム」はらむ党内混乱と「米中対立の今後」 | 勝又壽良の経済時評

中国、「脱党ブーム」はらむ党内混乱と「米中対立の今後」

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党費払わずとも党を除名せず

1930年代と酷似する現代

 

中国では、共産党と聞けば泣く子も黙るほどの最高権威だ。その共産党から離党する人が跡を絶たないとは、聞く方がビックリする。実利に賢い中国人が、自ら得た立身出世のパスポート「中国共産党員」バッジを外したいとは信じがたい。そういえば、日本共産党も党員の高齢化が目立っている。「共産党」の存在に魅力を感じなくなったのか。こんなことを書くと、日本共産党からお叱りを受ける。本日のテーマは、中国共産党だからあしからず。

 

党費払わずとも党を除名せず

『大紀元』(12月18日付)は、「党費の不払いでも除名させない、離党ブーム広がり恐れる中国共産党」と題して、次のように伝えた。

 

中国の大学には、共産党からの離党意思があるため、党員であるにもかかわらず党費を納めていない教授が少なからず存在するという。中国人民大学の張鳴教授は、党紀に反して、一定期間党費を納めなかったにもかかわらず、支部の党責任者から、離党や除籍を認めないと通達されたことが明らかになった。入党は認めても、脱党は認めない。なにやら、暴力団組織と似かよった感じがする。

 

そういえば、中国共産党は南シナ海で暴力団と同じ振る舞いをしている。南シナ海を「九段線」で囲み、勝手に「中国領海」と宣言している。島嶼を埋め立て軍事基地に仕立てて、「自衛措置で接近した艦船を砲撃する権利を持つ」とまで言い出した。常設仲裁裁判所から「違法」「歴史的根拠なし」との判決が出ているにもかかわらず、だ。こうした振る舞いをする中国共産党に愛想を尽かす党員が出てきても不思議はない。

 

ここで、人間が経済的な環境が好転すれば、欲望もそれによって変化するという「マズローの欲望段階説」を取り上げたい。これによると、人間は飢餓生活から脱してゆとりを持つ生活へ向上するにしたがい、要望も変化し高度化=自己実現型に変わるのだ。マズローは、次のように指摘している。「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化したものである。

 

マズローは、人間の基本的欲求を低次の1から、順次2.3.4.5へとより高い欲望へと発展して行く、としている。

  1. 生理的欲求
  2. 安全の欲求
  3. 所属と愛の欲求
  4. 承認の欲求自己実現の欲求
  5. 自己実現の欲求

 

以上の5段階分類から「階層説」とも呼ばれる。また、「生理的欲求」から「承認の欲求」までの4階層に動機付けられた欲求を「欠乏欲求」とする。生理的欲求を除き、これらの欲求が満たされないとき、人は不安や緊張を感じる。「自己実現の欲求」に動機付けられた欲求を「成長欲求」としている。

 

マズローの説に従えば、中国共産党は1~3の段階までは、正統性を維持できた。だが、国民生活が欠乏段階を越えて、1人当たり平均名目GDPが1万ドル未満の段階へ達すると、共産党の指示・規制は党員にとって「うっとうしく」なるに違いない。思想・宗教まで規制される生活が疎ましくなって当然だ。ここに、共産党から脱党したい客観的な要因が醸成される。皮肉だが、「中華の夢」は国民や党員の夢でなく、逆に党員にとって「桎梏」として襲うのだ。習近平氏は、「マズローの欲望段階説」の示唆するところを玩味すべきであろう。

 

(1)「12月12日、中国の著名ジャーナリスト高瑜氏がツイッターで、中国人民大学の張鳴教授が一定期間党費を納付しなかったにもかかわらず、離党や除籍が適用されなかったことを明らかした。高氏によると、同大学の党委書記は、党費を滞納していた張教授に対し指導をすべく呼び出しを試みたものの、同教授がこれを無視したため、待ち伏せをする形で同教授と接触し、党費を滞納しても自動的な脱党は認めないこと、除籍は行わないこと、党費未納の件は不問にするとの3点を伝えたという。党規約によると、党員には1か月に1度党費を納付する義務があり、6カ月以上滞納した場合は自動的に除名処分となることになっている。つまり大学の党委は、張教授に対し、党員が党費を納めなくても除籍にならないと「例外的」な処置をしたことになる」。

 

共産党規約によると、党員には1か月に1度党費を納付する義務があり、6カ月以上滞納した場合は自動的に除名処分となることになっているという。前記の中国人民大学の張鳴教授が、一定期間党費を納付しなかったにもかかわらず、離党や除籍が適用されなかったというのだ。党委書記は張鳴教授に対して、①党費を滞納しても自動的な脱党は認めないこと、②除籍は行わないこと、③党費未納の件は不問にするとの3点を伝えたのだ。党支部が完全妥協して、「脱党」を食い止めたわけである。中国共産党の威厳も落ちたものだ。

 

(2)「これに対し中山大学で講師を務める李興業氏は大紀元の取材に対し、『共産党は、大勢の人々が離党したがっていることを大衆に知られることを恐れている。離党ブームを隠し通そうとしている』と語っている。李氏はまた『確固とした思考を持ち、良識をそなえ、善悪の判断が付くものでいれば、党員で居続けることなど、とてもできないはずだ』とも指摘。恥を知るものであれば、腐敗のはびこる堕落しきった党の一員であることに耐えられないはずだからだという」。

 

(3)「同氏は、張教授が今回党費の不払いという方法を取った理由を、離党を望むものの公に表明できないという『消極的な抵抗』だと説明する。離党を公にすれば、共産党に正面から歯向かうことと見なされ、容赦ない処分が待ち構えているからだ。張教授のように、敢えて党費を納入しない大学教授は中国国内の大学に数多く存在すると見られており、これからも増え続けるだろうと考えられている」。

 

習近平氏が政治生命を賭ける「反腐敗闘争」は、政治権力を握る人間として恥ずかしい行為の取締だ。他人から賄賂を受け取って便宜を与える。個人が「公権力」を利用して、懐に金を入れる行為は、最も忌むべき反社会的な犯罪である。それを高位高官になればなるほど行う。こうした人間の屑が権力のトップにいることは、一般共産党員にとってこれ以上の恥はないのだ。中国共産党は、権力に酔ってここまで堕落した。脱党者が増えて当然である。

 

(4)「北京大学教授で作家であり、共産党の御用学者として『高級五毛(訳注)』と揶揄されている孔慶東氏でさえ、かつて、『多くの大学では、共産党は党員であることを大っぴらにするのが恥ずかしい“非合法的な党”になり果ててしまい、党員が規定の党員活動にも参加しなくなってしまった。誰かが講義でマルクス・レーニン主義や毛沢東思想について擁護や賛同の発言をしようものなら、周囲からはたちまち頭がおかしくなったと思われるだろうし、日常生活や仕事の上でも、差別や攻撃に見舞われかねないだろう』と嘆いている」。

 

「五毛」とは、書き込み1件につき5毛(約8.5円)の報酬をもらい、ネット上に党に有利な書き込みをする人、または上司から命じられ、業務としてそのような書き込みを行っている公務員を指す。孔慶東氏は、大学教授という高い地位にあり、金銭的にも不自由していないにもかかわらず、自ら進んで「五毛的」な発言を行っていることから、一般から「高級五毛」という蔑称で呼ばれているという。

 

共産党の御用学者である孔慶東氏ですらかつて、「マルクス・レーニン主義や毛沢東思想について擁護や賛同の発言をしようものなら、周囲からはたちまち頭がおかしくなったと思われるだろう」というほど、共産主義思想は中国社会で浮き上がった存在になれ果てた。こうした中で、共産党員であることがメリットどころかデメリットになっている。共産主義の教義と現実が、余りにも乖離しすぎているのだ。これこそが矛盾であり、中国共産党はその矛盾を解決する能力を失った。それは、既得権益の擁護が第一となり、現実とのギャップを埋める努力を放棄している結果であろう。

 

(5)「米国に拠点を置く中国人政治学者の丁毅則氏は、中国共産党の下層支部が党規約に公然と違反し、党員の脱党を禁じているのは、メンツを保つためだと指摘している。また同氏は、共産党はもはや単なる利益集団と化しており、もし共産党を純然たる政党だと称するならば、党をあまりにも過剰評価しすぎていると、歯に衣着せぬ批判を行っている。これまでに国内外合わせて2億6000万人もの中国人が中国共産党とその関連組織からの離党を表明した」。

 

 30年代と酷似する現代

上記のように、すでに2億6000万人もの人々が、中国共産党および関連組織から離党を表明したという。習近平氏が、この動揺する党立て直しの密命で、巨大権力を与えられているとも読める。ここで、次期米大統領のトランプ氏が、「一つの中国論」にこだわらないとの主張を繰り返すようになると、中国共産党の統治問題は深刻な影響を受けるであろう。中国は、「一つの中国論」で台湾の独立を阻止する構えである。トランプ氏と言えど、簡単に触れてはならぬ政治的な「タブー」である。

 

トランプ氏はそれを百も承知の上で、「バーター取引」を狙っているに違いない。それは、南シナ海からの中国撤収だ。この問題は日本軍が戦前、旧満州(中国東北部)からの撤退を求められたと同様、極めて扱いにくい問題となっている。中国は、この問題の処理を誤って、強気を通すと国家滅亡の危機を招くであろう。日本が結局、太平洋戦争開戦へと道を誤ったが、中国もメンツにこだわって米国を侮ると、同じ道を歩むことになりかねないのだ。中国に、米国と日本を相手に戦える機略も戦力もないにもかかわらず、メンツゆえに戦争に訴える危険性は強い。中国共産党が内部崩壊を食い止めるテコに、開戦という禁じ手を使う懸念は消しきれないのだ。

 

1929年の世界恐慌で、米国経済は甚大な被害を被った。その後、世界を覆った保護貿易主義とナショナリズムが第二次世界大戦への誘引剤となる。現在は、2008年のリーマンショックから8年経ったところである。現代世界は、ナショナリズムに通じる「大衆迎合主義」がはびこり、保護貿易主義の流れも強まっている。1930年代を彷彿とさせる雰囲気が漂うのだ。アジアでは1930年代の波乱の目は日本だ。現在は中国である。ともに領土拡大を狙う新興国として登場し、覇者の米国に立ち向かおうとしている。極めて似かよった構図が出来上がっている。

 

中国は、既述の通り共産党離党者が増加している状態だ。習近平氏を党の「核心」に据えざるを得ないほど、混迷を深めている。中国共産党には混乱を収拾する「蓋」が必要になったのだ。党内混迷と経済波乱が重なり、習近平氏は何か強硬策をとらなければ、自らの地位すら危うくなりかねないところに追い込まれていると読める。習近平氏が、党の「核心」に昇格した裏に隠された思惑は複雑であろう。

 

そこへ、トランプ氏が米大統領で登場する。トランプ氏の「米国流」が、従来の「中国流」を押し返すと、必然的に摩擦が生じる。習氏は、「一つの中国」を守るべく軍事的に対抗する危険な道を選ぶ懸念もある。17年以降の米中問題は、これまでの「ウイン・ウイン」関係から一転するリスクが広がるのだ。

 

(2016年12月28日)

 

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