アパレル業界が揺れている。今夏、三越伊勢丹ホールディングスなど一部の百貨店やファッションビルが、バーゲンの開始時期を遅らせた。年明けの冬のバーゲンについても、三越伊勢丹は1月18日に開始を遅らせる。夏のバーゲンでは三越伊勢丹の施策に賛同した大手アパレルの多くは、冬のバーゲンでは例年通りの対応となる見通しだ。
そもそも、三越伊勢丹がバーゲン時期の変更に乗り出したのは、夏物もしくは冬物が最も売れる時期に安売りをしている現状を正すためだ。その背景には、苦境に立たされている国内アパレルメーカーの現状がある。
なぜ百貨店などに商品を納めるアパレルメーカーが苦境に陥っているのか。そして、既存アパレルが苦戦する一方で、グローバルブランドになりつつあるユニクロは成長を続けることができるのか。アパレル業界に詳しいコンサルティング会社、ジェネックスパートナーズの河合拓取締役に聞いた。
(聞き手は小平 和良)
アパレルメーカーの多くが業績悪化で苦しんでいます。

ジェネックスパートナーズ取締役。1991年に関西学院大学文学部を卒業し、同年、イトマン(現住金物産)に入社。2000年に大手米系コンサルティングファームに転職した後、2004年ジェネックスパートナーズに。小売業や商社、卸売業などの事業戦略策定と実行支援を数多く手がける。政策学校一新塾(大前研一氏創設)の卒塾生であり、現在、講師および政策指導、社会起業アドバイザーを務める。
河合:私は今、アパレルメーカーの新規事業や新規ブランドの立ち上げを手がけています。面白いのは、どんな風に数字を作ってもなかなか黒字にならない。理由は損益分岐点が高すぎるためです。
仮に店を1つ出すために、5000万円が必要だとしましょう。アパレル業界では、30店舗以上出さないと生産ロットに乗ってきませんから、それだけで15億円の投資が必要になってしまいます。
インターネット上のEC(電子商取引)サイトでも、PV(ページビュー)を増やすために多額の費用がかかります。EC業界では、広告によるPV増を計る「レスポンスレート」というものがあります。例えば1億円分の広告を使ったら、どれだけPVが増えるかという標準値があるのです。また、サイトを訪れた人のうち何人が買うか、という数字にも平均値があります。売上高100億円規模のブランドをインターネット上で作るために、40億円ほどの広告宣伝費が必要になる場合もあるのです。
日本のアパレルの問題は人件費でなく広告費
売上高の4割を広告宣伝費に使う必要がある、と。
河合:例えば、の話です。ただ、そのようなケースもある。それくらい、アパレル産業は黒字にならないんです。みなさんがブランドを作る際に間違えているのは、「日本は人件費が高いから、ローコストオペレーションができない」と思い込んでいる点です。実際に、あるアパレル通販企業を見ると、コストに占める人件費の割合はたかだか5~6%です。一番大きいのは広告費。以前、私が関わった109系のブランドは、売上高20億円のうち広告費に約3億円を使っていました。
広告費を抑えることはできないのでしょうか。
河合:広告費を削るとどうなるか。息の根が止まってしまうんです。ブランドが目立たなくなって、雑誌に掲載されなくなり、「東京ガールズコレクション」にも出られなくなって、認知度が下がる。そして最後に消えてしまう。これを私は「ユンケル現象」と呼んでいます。24時間戦うためには、「広告」という栄養ドリンクを飲み続けなくてはならない。私の著書『ブランドで競争する技術』でも書きましたが、アパレル業界は儲かりにくい構造になっているのです。
なぜ、そのような構造になったのでしょうか。
河合:いくつか要因がありますが、まずは市場そのものが縮小していることが大きい。少子高齢化が進む中、アパレル市場ではブランドがあふれ、供給過多になっています。
日本全体の衣料品の消費量から考えると、日本の衣料品の供給量は30%ほどオーバーしています。過剰となっている30%分は、捨てられることを前提に作られていると言えるわけです。商品が過剰なため、ブランドごとの差異化も難しい。そうなると、広告費という“ドーピング”によってどれだけ目立つことができるかが勝負を分けることになります。大量に広告費を使って目立った者が勝つ。それが現在の基本的なアパレル業界の仕組みなのです。
事業構造を「フロー型」から「ストック型」に変える
この構造の中で成功するにはどうすればよいのですか。
河合:勝つ方法は2つしかありません。1つは、広告費をいくら使っても、痛くもかゆくもないスケールを作ることです。例えば、ファストファッションブランド「ZARA」を展開するスペインのインディテックスや、米ギャップグループは1兆円以上の売上高があります。年間数億円の広告費を使っても、痛くもかゆくもないでしょう。分母となる売上高が大きいほど、“ドーピング”が“ドーピング”ではなくなって、常備薬くらいの存在になるわけです。
ところが、先ほど説明したように、認知度を高めるためには売上高20億円規模のアパレルメーカーであっても、巨大企業と同じような広告費が必要になることもあるのです。そうなると厳しいですよ。
もう1つの方法は、広告費を使わなくても売れる仕組みを作ることです。私はこちらの方が大切だと思っています。
それは何かというと、事業構造をフロー型ではなくストック型にすることです。フロー型とは、毎回、毎回、新しいお客を呼んで、いろいろな商品を買ってもらうことです。一方、ストック型は、「私はこのブランドしか買いません」というファンを作ることです。客数、つまりフローそのものは増えませんから、その分、購入の頻度を高めていくのです。
顧客基盤をストック型にし、たとえ来店客の絶対数は増えなくても、1人当たりの購買回数を増やしていく。すると売り上げが上がります。そして、1人当たり購入回数を増やすには、商品そのものを良くするしかないんです。
例えばある女性が一度どこかの店で服を買う。その店でもう一度買いたいと思う理由は、有名な女優がテレビCMに出ているからではないでしょう。その商品が良いからリピートするわけです。広告費を払わなくてもリピートさせるには、そのブランド自体のファンを作らないといけません。
購入回数を増やすことは簡単ではなさそうですが。
河合:購入回数を増やす方法は3つあります。商品そのものが圧倒的に良くなるか、ブランドのイメージに独自性を持たせる、もしくは、そのビジネス自体に価値を持たせることです。つまり有名人がテレビCMに出ているから買うのではなく、商品やイメージ、事業内容を評価するから買うという流れを作る。それが「ブランド化」です。
【お申し込み初月無料】有料会員なら…
- 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
- 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
- 日経ビジネス最新号13年分のバックナンバーが読み放題