「脂肪にドーン」は不適切――。サントリー食品インターナショナルのトクホ(特定保健用食品)、「黒烏龍茶」のテレビCMが、偏った食生活を助長するとの理由で消費者庁から通知を受けた。漫画「笑ゥせぇるすまん」の主役、喪黒福造が人差し指を突き立て、決めポーズとともに「ドーン」とやる、あのCMだ。
事の発端は3月12日にさかのぼる。内閣府の新開発食品調査部会で、ある委員(以下A委員)からCMに対する指摘があった。同部会の議事録に載っているA委員のコメントを抜粋すると、「私たちはあれ(黒烏龍茶のCM)を認めているわけではないということは声を大にして申し上げておきたいと思います」「許可している現場にいる私の立場では、とてもあの広告を見ることがつらい。つらいというのは、何か個人的な感想みたいな感じかもしれませんが、適切ではないということの怒りがとても大きい」と、とにかくものすごい憤りが感じられる。
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これを受けた消費者庁は3月26日、サントリーに改善を求める文書を送付。合わせて同庁は、公益財団法人の日本健康・栄養食品協会にも改善を要望する文書を送付し、協会はトクホを販売する加盟企業にその旨を伝えたという。
「脂肪にドーン」のCMは、そんなに消費者をミスリードするものなのか。サントリーのホームページには、今も喪黒福造シリーズのCMが公開されている。お笑いタレント、アンタッチャブルの山崎弘也氏が軽いノリで喪黒に〆のラーメンが食べたいとせがみ、「脂肪にドーン」とともに黒烏龍茶が登場。山崎氏がこってりとした屋台のラーメンを味わっている横に、「食べながら脂肪対策」という文字が出る。確かにこれを見て、ラーメンを食べても「黒烏龍茶がなかったことにしてくれる」と思う人もいるだろう。
ただ、この手のCMは黒烏龍茶に限ったものではない。キリンビバレッジ「メッツコーラ」のCMでは、ハンバーガーやピザをドカ食いする「あしたのジョー」の主人公、矢吹丈が「これトクホのコーラだぜ」と言いながらメッツコーラを飲み干す、という場面もある。個人的な印象では、これら2つに大きな差は感じず、むしろドカ食いしている後者のほうがインパクトは大きい。
トクホを出すメーカーの間でも、“黒烏龍茶ショック”は広がっている。
「あれでNGなのか」。驚くメーカーも
「あれでNGなのか」。あるトクホのメーカー担当者は驚きを隠せない。「サントリーは事実をねじ曲げているわけではない。CMまで規制されては、そもそも投資をしてトクホを出す意味がなくなってしまう」と続ける。
なぜ黒烏龍茶だけが槍玉に挙げられたのか。実はこれには理由がある。
先の新開発食品調査部会は、本来CM表現の妥当性を議論する場ではない。各メーカーからの新たなトクホの申請に対して、調査審議を行う部会というのが本来の目的だ。また、既に販売されているトクホに、新たな許可表示を追加したい場合などにも議論がなされる。
黒烏龍茶は後者だ。もともと「ウーロン茶重合ポリフェノール」が食事から摂取した脂肪の吸収を抑えて排出を増加させる、という許可表示で、2006年からトクホとして販売されていた。
サントリーはこれに加えて、新たな許可表示の取得に動き、別途有効性を確かめるための試験などを実施。12週間の長期臨床試験で、体脂肪の低減効果を確認。花王「ヘルシア緑茶」などと同様の、「体脂肪が気になる方に」という許可表示を追加で申請していたのだ。
この申請が新開発食品調査部会に上がってきたのが3月12日。これを見たA委員が「そう言えば」とCMを思い出し、逆鱗に触れてしまった。完全な“薮蛇”に、当のサントリーも面食らったに違いない。
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