この国の政治の不在、対極としての『コラプティオ』

先日来ちきりんが、『ハゲタカ』や『ベイジン』などを紹介してきたのは、ご縁あって著者の真山仁さんにインタビューをさせて頂く機会があったからです。2時間の予定だったのですが、白熱して3時間半(休憩無し!)のロング・インタビューとなりました。

キャリア選択の方法からエネルギー政策、移民問題や農産物の自給方針など、幅広い話題について話しましたが、「政治とリーダーシップ」についての議論は特に印象的でした。


きっかけは真山さんが言われた「なんで福島第一の原発事故は国がなにもせず、東電だけに対応させているのか?」という至極まっとうな問いかけでした。

普通、化学メーカーのコンビナートなどで火災が起こった場合、その原因が地震だろうと化学工場側のミスだろうと消防隊が駆けつけて消えるまで消火活動をします。大きな火災であれば消火ヘリを出し、空中から特別な消火剤を撒きますよね。そういった火災が起こった場合、消防隊がなにもせず、民間企業である化学メーカーが単独で消火活動をするなんてありえません。事故対応のリーダーシップを発揮するのは消防隊の方です。

ところが福島原発の事故では、ごく一時期に消防隊が出動しただけで、あとはずっと東電がやってます。これ、なぜなんでしょう?


どこの国でも原発はテロの標的です。戦争が起これば原発サイトが狙われる可能性があることは、軍隊にとって「想定内」のはず。とすると、当然、地元に原発がある消防隊や自衛隊は「原発が北朝鮮のミサイルにやられた場合」を想定して、対策を考えたり、訓練を行っているはずです。(ですよね???)

まさか・・「戦争で原発が狙われるなんて想定外だった。」とか、「原発は絶対安全なので、そんな訓練はしていませんでした」とか、言わないよね??? 


そうであれば、なぜ福島の事故だって、消防隊や自衛隊はもっと全面的に出動しないのか、ってことです。被害住民の方にお風呂を提供したり、津波に流された方のご遺体を探すのも大事な任務でしょう。だからといって、原発事故に対して、ここまで「オレ達には関係ないし」的な顔をしてるのはなんか変じゃないでしょうか?

これがアメリカやフランス、中国での事故であったなら、最初から軍隊が出動して対応したのではないでしょうか?(というか、今回だって米軍は“ともだち作戦”の前にもっと重要な協力を日本政府に申し出ていたのでは?)

でもその申し出を受けたのは、我らが誇る“市民活動家”総理であり、かなーり「軍隊嫌い」な思想をお持ちにみえるご夫妻であったわけです。

・・・今後、万が一キムさんの国がミサイル実験の手違いで、福井の原発の上にミサイルを落としてしまった場合、もしかしてその火災は、関西電力が自力で消すことを求められてるんでしょうか・・?

★★★

最後に真山さんと話したのは、日本における「政治リーダーシップ」の在り方でした。国家の存続に関わるくらい大きな事故が起こっているのに、「民間の起こした事故だから民間が対処してます」という国の態度。これほど「日本における政治の不在」を感じさせる象徴的な事例はないでしょう。

真山さんの新作小説『コラプティオ』は(例によって“虚構の自由度”を利用して)、いったいこの国はどんな政治リーダーを求めているのか?ということを問う小説です。


コラプティオ

コラプティオ


真山さんは大学も政治学科だし、新聞記者時代も政治部を希望されていました。「この国の政治の在り方」についてはずっと考えてこられたのでしょう。この本の背景として「これからは経済の時代じゃなくて、政治の時代だと考えました。」と言われました。

「政治の時代」とは興味深い言葉です。それはちきりんにとって、必ずしも“いい時代”、“住みやすい社会”を意味しません。たしかにプーチン首相のもつ権力の凄みはゾクゾクするくらい魅力的です。だからといって誰もがロシアに住みたいとは思わないでしょう。

真山さんも「日本には独裁的なカリスマリーダーより、権力機構の運営者としてのリーダーが向いているかもしれない。」とおっしゃっていました。日本人は価値観が画一的だから、カリスマ型リーダーが出現すると全員が同じ方向を向いてしまう危険がある、というのがその理由です。


なのですが、実は『コラプティオ』には“カリスマ総理”が出て来ます。また、周りに新聞記者やニュースキャスター、政治家秘書、官邸サポートスタッフ、NPO活動家など様々な立場の人が登場します。それらの登場人物はとても魅力的で生き生きとしており、「こんな人たちが実在していたら是非とも会ってみたい!」と思えるようなすばらしいキャラクターばかりでした。

ところが小説の中で描かれる、“投資銀行出身で、自ら大胆に産業政策の舵を取り、国際政治の舞台に切り込んでいくカリスマ総理”は、私にはどうもピンときませんでした。

理由は前回書いた『ベイジン』の話と同じでしょう。“フクシマ”が起こる前には、日本人はだれも「日本での原発事故」をイメージできませんでした。同様に“投資銀行出身のカリスマ総理”がこの国に登場する姿を思い浮かべるのは、今の時点ではやはりとても難しいのです。

でも、これまた『ベイジン』同様、虚構の自由度を活かして、真山さんは「日本にとっての政治の時代ってどんな形なんだ?」と問いかけています。

現実社会では今月、野田内閣が発足し、既に経産大臣がマスコミに血祭りに上げられて辞任しました。いつまでこんなことを続けているのかわかりませんが、現実とは別に、真山さんの得意技である「虚構の自由度を利用して議論を前進させる」という手法を借り、「私たちはいったいどんな政治リーダーシップの形を求めてるんだろう?」ということは、考えてみてもいいかもしれません。

★★★

さらにもうひとつ、この小説には論点があります。それは、「日本がもっている原子力発電の技術を(フクシマがあったからという理由で)捨ててしまっていいのか?」という問いです。

フクシマに助けに来ているのがアメリカとフランスだけであることからもわかるように、最先端の原子力発電の技術をもっているのは(日本も含め)ごく限られた国だけです。

そして、本当に90億人の人口を地球上に擁し、その多くが先進国レベルの生活水準を求めるのであれば、(日本自身は節電でなんとかなるとしても)「原発は不可欠」という国はたくさん出てきます。しかもそれらの国が求める原発の数は半端なく多いのです。

日本がいきなりIT立国や金融立国になることも非現実的なのだとすれば、今、日本が持っているこういった技術をどう活かしていくのか、様々な可能性をゼロベースで議論するのもありなのかもね、とあらためて考えさせられる小説でした。



そんじゃーね!


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