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メーカー勤務のA氏は今朝も蒸し風呂のような暑さの中で、たまらず目を覚ました。数日来、午前6時から3時間の「計画停電」が実施されている。もはや何日連続の熱帯夜なのか分からない。パジャマは汗を吸いすぎて重くなっている。冷たい飲み物を飲もうと思っても冷蔵庫は動いていない。朝食のトーストなんて焼けるわけもない。そもそも職場に向かう電車は動くのか。情報を得ようにも、テレビもパソコンも電源が入らない---。
今年の夏、首都圏で、こんな悪夢が現実のものになるかもしれない。東日本大震災で福島第一、第二両原子力発電所がストップしたため、東京電力は3月14日から計画停電を実施し始めた。管内を5つのグループに分け、3時間ずつ輪番制で送電を止めるというものだ。需要が供給を大幅に上回ると、大停電につながる危険がある。それを防ぐための、まさに緊急手段である。
しかし、計画停電は初日から大混乱に陥った。東電が発表したのが前日の13日午後8時過ぎ。鉄道会社などは対応に追われたのだが、東電は当日の午前4時になって突然見送りを発表したのだ。
「当初の説明では、14日は月曜日なので会社や工場が再開するため電力需要が増え、4100万キロワットに達する。それに対して、当日に供給可能な電力は3100万キロワットなので1000万キロワット不足するということでした。ところが、揚水発電所を稼働させたり、鉄道各社が運行本数を大幅に減らすなどしたため、供給が間に合うようになったのです」(全国紙経済部記者)
鉄道各社は急遽、運行計画の練り直しを迫られた。ところが午前8時過ぎには再度「需要が増えれば実施するかもしれない」と二転三転。結局、この日は最後の第5グループの一部で実施しただけだったが、千葉県旭市では避難所が停電する不手際もあって被災者の怒りを買った。