レビュー

「コミュ障」を乗り越えて会話するコツや秘訣がわかる「なぜ、この人と話をすると楽になるのか」


現役でバリバリ活躍中のアナウンサー・吉田尚記さんが、いかに「コミュ障」を越えて今のように自由に会話できるようになったのか、そのノウハウを余すところなく伝授してくれている本が「なぜ、この人と話をすると楽になるのか」です。吉田さんの仕事ぶりは「いったいどこがコミュ障だというのか……」という印象なのですが、「コミュ障だから(だったから)こそ」という部分もあるようです。

『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』特集ページ - 吉田尚記/太田出版
http://www.ohtabooks.com/sp/nazeraku/

ニッポン放送アナウンサーである吉田尚記さんは月曜~木曜の24時から放送されているミュ〜コミ+プラスといった番組の司会進行役のほかに、数々のイベントや発表会でもMC・司会を担当したり、NOTTV・niconico・TOKYO MXで配信・放送された生アニメ「みならいディーバ」で製作総指揮を務めたりしています。つつがなく進行すると同時にゲストが大きく反応を見せるネタを放り込んできたりして、八面六臂の活躍をしていると表現しても過言ではないほどですが、実は「コミュ障」なのだそうです。

コミュ障とは「コミュニケーション障害」を略したスラングで、ざっくりと言えば「人付き合いがとても苦手な人」のことで、吉田さんは「自分が傷つくのも嫌だけど、それ以上に人を傷つけるのが嫌だっていう意識がある」と表現し、「まだコミュ障を完全に克服したわけではありません」とも書いています。しかし傍から見ればコミュ障とは思えないほどの働きぶり。それがなぜなのかを本書で明かしてくれている、というわけです。

本の表紙はこんな感じ、イラストは「夜桜四重奏」「デュラララ!!」などで知られるヤスダスズヒトさん。


折り返し部分にはこのようなかわいい女の子が描かれています。ただし、ライトノベルではないので本文中にヤスダさんの描く美少女は出てきません。


中身は大きく「基本編」と「技術編」に分かれていて、その下に9つの章があります。


大見出し・小見出しの一覧はこんな感じ。

はじめに コミュ障の私よ、さようなら
知らない人に会うのが怖い/コミュニケーションの目的は、コミュニケーションである/技術としてのコミュニケーション/ウケたい、モテたい、一緒になりたい!/コミュニケーションに自己顕示欲はいらない/コミュニケーションがうまいと思っている人はほとんどいない

1 コミュニケーションとは何だろう
会話に困る場所、エレベータ/「最初はいつも他人」が基本/情報の伝達より先にあるもの/「コミュ障」とは何か?/「コミュ障」の定義/「自信を持て」って言われても/最高のコミュニケーターになる可能性/コミュニケーションは敵と味方を峻別する/ふだんの会話をモニタリングしてみよう

2 「コミュ障」だった私
コミュ障がラジオアナウンサーになった!/相手の目を見ることができない/「聞き上手」というナゾのスキル/コミュニケーションの定石/会話の盤面解説/コミュニケーションの戦術とは

3 コミュニケーションという「ゲーム」
コミュニケーションを「ゲーム」と捉える/コミュニケーション・ゲームの特徴/対戦型のゲームではなく協力プレー/敵は気まずさ/ゲームは強制スタート/ゲームのさまざまな勝利条件 1/ゲームのさまざまな勝利条件 2/プレーヤーとして意識すること/ゲームをより楽にプレーする基本/コミュニケーションは自己表現ではない/面接の「志望動機は?」を噛み砕いてみる/コミュニケーション・ゲームとしての面接/相手にどんどんしゃべらせよう

4 ゲーム・プレーヤーの基本姿勢
下心を持とう/先入観は間違っていてよい/誤解ウェルカムでいこう/「伝える」ではなく「伝わる」/伝わるものはコントロールできない/イジられたらラッキーと思え/劣等感は無視しよう/自分は嫌われていないと思おう/最後はギャンブル

5 沈黙こそゴール
「空気を読む」とは何か?/「空気を読む」を具体的に噛み砕く/テンションを合わせる理由/ムードは人と人のあいだに醸し出される/毛繕いとコミュニケーション/ムダ話の代表格ガールズトーク/意味と無意味のハイブリッド/沈黙していられる関係

6 コミュニケーション・ゲームのテクニック
コミュニケーションと時間/話題とは何か?/相手のために質問をする/相手に対して興味を持つ/興味を質問に変換するには/相手の言い分に乗ってみる/プラスの気持ちになりたい欲求/会話で優位に立とうとしない/驚けるチャンス/ポジティヴな経験を増やそう

7 質問力を身につける
日本でいちばん有名な質問/「髪切った?」は神の一手 1/「髪切った?」は神の一手 2/会話における「トラップ・パス・ドリブル」/トラップ――話を受け止める/相手の話を全部聞く/ベタなトラップ「ふーん」「へえ」「なるほど」/感想の増幅とダイレクトパス/パス――質問する/相手が興味のあることを訊く/具体的に訊くことを心懸ける/質問の実践テクニック/会話に重曹を入れる/パスコースを見極める/インタビューのテクニック/ドリブル――自分の話をする/相手に気持ちよくドリブルさせる

8 キャラクターと愚者戦略
キャラクターとは何か?/キャラは周囲の予測から/キャラクターの見つけ方/愚者戦略/欠点を相手に賭ける/視覚障碍を強みにする人/「ナニが悪いんスカ」/子ども最強

9 コミュニケーション・ゲームの反則行為
ウソ禁止/ウソではない実例/ファクトを偽ってはいけない/黙秘権を行使する/自慢はご法度/相手の言うことを否定しない/「嫌い」「違う」は口にしない/地雷を踏まないテクニック

まとめ コミュニケーションは徹頭徹尾、人のために
相手のためにしゃべろう/人はそんなに厳しくないよ/ガンバレ、私のなかの勇気/自分を許そう/逆上がりとコミュニケーション欲求


吉田さんはこの本を書くにあたって、「コミュ障の私よ、さようなら」と題したニコニコ生放送を8回実施。視聴者のコメントも盛り込みながら考えている内容をしゃべって形にしていき、あとで原稿に落とし込んでいます。本の中ではもらったコメントは〈〉記号で示されていて、例えば以下の箇所だと「ムリムリ」「慣れてきてそうなったの?」「でも話してると吉田さん、コミュ障じゃなくね?」というのが配信を見ていた人のコメント。吉田さんがそのコメントを受けて話を進めるようなコミュニケーションが取られています。


第3章のタイトルにもなっていますが、吉田さんはコミュニケーションを「ゲーム」であると考えました。つまり、その場にいる人が全員参加し、対戦するのではなく協力して「気まずさ」と戦い、会話を通じて気持ちよくなるのが目的です。ゲームである以上100%勝てるわけではありませんが、参加者はお互いに気まずさを回避しようとするはずなので、協力プレイが成り立ちやすい環境にあります。

その中でも、うまくいく確率が上がる基本のテクニックとして吉田さんが挙げたのが「人にしゃべらせる」ということ。吉田さんの場合、「何を訊こうか決めて人に会いに行くことはよくありますが、これをしゃべろうと決めて人に会いに行くことはありません」だそうです。その、話してもらった事柄を受けて、どう対応していくかが勝利の鍵になっているわけです。

しかし、このキッカケも含めてコミュ障の人が悩むのは「空気読め」という言葉です。なんとなくその場を支配している「空気」という名前のシロモノは影も形もなく、捉えどころがないので、どうやって読めば良いのかがさっぱり分かりません。これを吉田さんは「その場のムードに自分のテンションを合わせる」と言い換えています。つまり、みんなのテンションが高いときに自分だけ低かったり、冷え切った雰囲気のところにテンションが高いまま入っていくと「空気を読め」と言われる、ということ。逆に捉えれば「高い」「低い」の2つに敏感になればよいわけです。

吉田さんが具体例として挙げたのはイベント会場。盛り上がっていればいいのですが、抽選で当たった人が個人個人で集まっている場合、往々にしてコミュ障率が高いため、黙って待っているケースが多いそうです。そこに司会の吉田さんが高いテンションで入っていくと、お客さんはついてきてくれません。そこで、はじめは低いテンションで「こんにちは、お疲れさまです」と入っていって場のムードに合わせておき、徐々にテンションを上げていけばよいということです。

後半の「技術編」では、前半で触れた「人にしゃべらせる」から繋がって、コミュニケーション・ゲームをうまく進めていくコツが掲載されています。


「人にしゃべらせる」ためには「相手の話しやすい環境を作る」必要がありますが、そう言われても環境を作れるならコミュ障ではないはず。これも、吉田さんは具体的に「質問すればいい」と答えを出し、質問をするために相手に興味を持つことが重要だと説明しています。

また、重要なポイントとして挙げられているのが「会話の中で優位に立とうとしない」ということ。人は優位に立ちたくなるものですが、前述の通り、コミュニケーションは対戦ゲームではなく、優位に立とうとしている相手とは協力プレイしたいとは思わないはず。その実践的な技術として「ホメる」「驚く」「おもしろがる」の3つが挙げられました。その一方で、「ウソ禁止」「自慢はご法度」「相手の言うことを否定しない」という注意点も挙げられています。

吉田尚記というアナウンサーを知っている人であれば、最初に出てきた「コミュ障を克服できたとは思っていない」という点に「えっ?」と驚くぐらいに、吉田さんはいろんな人と円滑にコミュニケーションを取っています。しかし、この本に出てきたようなことを心がけ実践してきているのであれば会話が弾むのは当然、ともいえます。コミュニケーションが相手のいる「ゲーム」である以上、吉田さんも書いているとおり成功率100%とはいきませんが、相手も同じように「うまくコミュニケーションを取りたい」と思っているのであれば、協力して成功させることはできるはず。その成功を導くための虎の巻として、気になる人はぜひこの本を読んでみて下さい。

発売当初はすごい売れ行きで本屋の店頭で見つけることが難しく、Amazon.co.jpでも数週間待ちと表示されていたほどですが、今ならポチればすぐに届きます。価格は1200円。

Amazon.co.jp: なぜ、この人と話をすると楽になるのか: 吉田尚記, ヤスダスズヒト: 本


Kindle版も出ています。こちらは26%OFFの888円。

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in レビュー, Posted by logc_nt

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