自然界の冷酷な首狩り虫たち

頭を乗っ取るハエから首なしカマキリの交尾まで

2015.01.19
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産卵できそうなアカヒアリ(Solenopsis invicta)を物色するメスのタイコバエ (Pseudacteon obtusus) 。(Photograph by Michael Durham, Minden/Corbis)

 容赦なく獲物の頭を切り落とす恐ろしいヘッドハンターといっても、昆虫は見た目で判断してはならない。

「Biodiversity Data Journal」誌に今月掲載された最新の研究報告によると、体も小さく一見おとなしそうな熱帯のハエが、子孫を残すためにアリの頭を切って持ち去る習性があることが分かった。

 ブラジルとコスタリカの森林に生息する3種のノミバエ(Dohrniphora属)は、これまでほとんど知られていなかった。これらのハエがアギトアリの頭を切り落とす様子を初めてビデオカメラに収めたのは、ロサンゼルス郡自然史博物館の昆虫学の学芸員ブライアン・ブラウン氏率いるチームである。

 ノミバエのメスは、異様に長い吻(ふん)の先にある鋭い刃の付いた器官を使って、手術を行うかのようにアリの頭を切り落とす。そしてその頭を持ち帰って脳みそを食べたり、中に卵を産み付ける。

「頭の中は、幼虫が安全に育つのに適した場所です。それが理由で頭を狙うのかもしれません」と、ブラウン氏は説明する。

 アリの方がノミバエよりもずっと体が大きく、まともに立ち向かえばあえなくつぶされてしまう危険がある。そこで賢明にも、縄張り争いで傷を負ったアリをわざと狙う。

 負傷しているアリを見つけ出すのには、「戦う時にアリが発する警報フェロモン」をかぎ分けるのだという。

頭を乗っ取るハエ

 南米にはアリの頭を襲うノミバエが他にもいるが、こちらはまったく違う戦略を用いる。

 タイコバエ(学名:Pseudacteon obtusus)はアリの体内に卵を産み付け、幼虫であるウジが卵から孵ると、アリの頭部へと移動し、中身を食べる。

 中が空になると頭は転げ落ち、ウジが成長してハエになるまでの快適な住処となる。

 他の寄生虫がやるように、ウジがアリの脳の中に入って体を操るのかというと、「誰も本当のところは分かりません」と、ブラウン氏は言う。「まだ十分な研究がなされていないので」

破壊的な糞虫

 糞虫の中にも、驚くべき行動を見せるヘッドハンターがいる。フンコロガシの一種(学名:Canthon virens)で、ターゲットはハキリアリの女王だ。

 初めてその捕食行動が報告されたのは、2012年のブラジル。メスのフンコロガシが上空から女王アリに襲いかかり、激しい格闘の末に頭を切り落とす。

 フンコロガシは、勝ち取った頭を転がして持ち帰り、地中に埋めて自分も潜り込む。その時に、オスの交尾相手も見つけて一緒に連れ込むのだが、このプロセスが完了するのに最高12時間がかかる。そして卵を産み、女王アリの頭は地中で幼虫の餌となる。

 アリばかりがターゲットになっているようで不公平だと思ったら、ヤスデの頭狩りに特殊化した別の糞虫(Deltochilum valgum)を見てみよう。

 中米に生息するこの武装糞虫は、ヤスデの体節をのこぎりのような器官で外し、頭をポロリと転げ落とす「とどめの一撃」を見舞う。

首なしカマキリの交尾

狩りをするウスバカマキリ(Mantis religiosa) 。バージニア州ウッドブリッジで撮影。(Photograph by Kent Kobersteen, National Geographic)

 おそらく、昆虫の中でも頭好きとして有名なのがカマキリだろう。特に、交尾中において。

 ウスバカマキリ(Mantis religiosa)など一部のカマキリは、メスが交尾中にオスの頭をかみ切ってしまうことがよくある。

 ニューヨーク州立大学フレドニア校の生物学者ウィリアム・ブラウン氏によると、頭を失ったオスは交尾できなくなってしまうではないかというと、実は逆だという。

 頭をかみ切ることによってオスの神経が切断され、交尾への抑制力も解き放たれる。

 メールでのインタビューに応じたブラウン氏は、「頭がなくなるとオスはメスともっと交尾したくなるのです」と説明している。

「頭をもぎ取られた後も、オスは数時間生存しているので、交尾を最後まで終わらせることができます」

 メスにとってはかなりおいしい話だが、なぜ頭なのか?

「便利さゆえでしょう。オスは頭からメスに近づいていきますから。また、いったん交尾に入ると体の向きを変えて、メスの頭のすぐそばにオスの頭が来るためです」

スズメバチのヘッドハンター

 日本のオオスズメバチ(学名:Vespa mandarinia japonica)にとって、頭狩りは餌を獲得する手段である。

 獰猛なスズメバチは、ミツバチの蜜と幼虫を狙って巣を襲う際、まずは命がけで巣を守ろうとする数千もの成虫ミツバチと対峙する。

 強力なあごを武器に相手をメッタ切りにし、わずか30匹のオオスズメバチは、3万匹のミツバチの巣をたった数時間で陥落させてしまう。

 効率的とはまさにこのことではないか。

文=James Owen

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