4K入門 高精細映像の世界

4Kの基礎知識① RED社の4Kテクノロジーの変遷

解説:石川幸宏 (DVJ BUZZ TV)

写真:コマーシャル・フォト2013年9月号
コマーシャル・フォト2013年9月号の第1特集は「超高精細映像 4K入門」。4Kの特徴を活かしたテレビCMやミュージックビデオの制作事例、4Kの基礎知識、実写テストなどを26ページにわたって展開すると共に、表紙の写真もデジタルシネマカメラRED EPICで撮影するなどして、4Kが持っている様々な可能性を探っている。この特集の内容をShuffle読者のために特別公開する。

4Kはこれからどうなっていくのか。ここでは4Kに関する基本的な知識と世界中のメーカーの4Kそして8Kに対する取り組みをまとめておく。

4Kとはなにか?

4K画像の基本フォーマット

国内でも4K/8K放送へのロードマップを総務省が発表したこと、そして展示会などにおいても4Kカメラ、4Kモニタの普及で4K画像を目にすることができるようになり、制作業界でも4K、そして8K(スーパーハイビジョン)への動きがここにきて急速に高まってきた。また大型量販店テレビ売り場など民生機器の販売においても『4K』の文字が目立つようになり、一般にも『4K』という言葉が浸透し始めている。

HDの約4倍の解像度となる高精細な4K映像は、その表示の鮮明さから人間の目にはステレオ3D以上の物の立体感を感じるなど、その高解像度を利用した様々なコンテンツへの期待とともに多くの映像制作者が注目している。その一方で、コンテンツの制作や上映に向けての記録、伝送方法において、そこで発生する膨大なデータ量に対して効率的かつ明確なワークフローが未だ見えていないなどの課題も多く、4Kがスタンダードなフォーマットに落ち着くまではまだまだ長い道のりになりそうだ。

img_products_4k06_01.jpg 1920×1080pix(アスペクト比 16:9)のHDサイズの等4倍にあたるのが、4K UHD(ULTRA HD)サイズの3840×2160pix。昨年まではQFHD(Quad HD)と呼ばれていた。この他にDCIが策定している4Kサイズとして、4096×2160pix(アスペクト比 1.9:1)の、通称「フル4K」と呼ばれるデジタルシネマ向けの画角がある。

ここではまず、この4Kに関する基本的な知識を集約しておきたい。現在4Kと呼ばれる映像フォーマットは、大きく2つのカテゴリーに分けられる。1つは、『4K UHD(もしくはUltra HD)』という規格。これは現行のHD(1920×1080ピクセル)のジャスト4倍で、解像度が横3840×縦2160ピクセル(アスペクト比は16:9)というもの。主にテレビ放送、テレビ受像機向けの4K規格として、正式に2013年のInternational CESでITU(国際電気通信連合)によって策定されている。これらは昨年までQuad HD、QFHDとも呼ばれていたが、CESでのITUの正式策定により、UHD、もしくはUHDTVという呼称に統一されている。

もう1つはアメリカの大手映画配給会社などで構成されるデジタルシネマの標準化団体DCI(Digital Cinema Initiatives)で策定された映画=デジタルシネマ向けの規格『DCI 4K』。画面サイズは2Kの4倍にあたる横4096×縦2160ピクセル(アスペクト比/ 1.90:1)。こちらはデジタルシネマカメラや映画上映機材に向けた規格となっており、現在この2つを包括して“4K”と呼んでいる。

DCIが定めるDCI 4Kについては、あくまでカメラの撮像素子やデジタル上映機器の最大画角サイズであり、現状ではここから横長サイズのシネマスコープ(シネスコ)のようなワイドスクリーン(2.35:1)や、ビスタサイズ/アメリカンビスタサイズ(1.88:1)、ヨーロピアンビスタサイズ(1.66:1)などの各映画仕様のアスペクト比にクロップして使用される。

現時点までの4Kテクノロジーの変遷

デジタルカメラにおける4Kの歴史

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2006年のCineGearExpoに出品されていた、DALSA社の Origin カメラは初の4Kで撮影できるデジタルビデオカメラとして注目、その独特の形状は会場内でも目立っていた。

4Kカメラによるデジタル撮影は2003年ごろ、火星探査用衛星などに搭載されたカメラを製造していたカナダの先駆的な産業用カメラメーカー、DALSA(ダルサ)社が開発した高解像度デジタルカメラ“Origin”によって撮影されたのが初めてだと言われている。何段階かの試作機を経て、最終的に出て来た“Origin”カメラの仕様は、4K解像度、16bit、12ストップのダイナミックレンジ、400M/secのRAWデータで収録と、当時としては破格の性能を備えたデジタルシネマカメラだった。ただし価格も数千万というかなりの高額で販売ではなくレンタル使用のみの取り扱いでいくつかのハリウッドメジャー作品に使用されたという。

しかし、その後2008年にDALSA社は“Origin”カメラの製造を中止、2009年にはレンタルビジネスも終了している(同社は2010年にテレダイン・テクノロジー社が買収)。

その後、アイウエア(サングラス)で有名なオークリー社の創業者であるジム・ジャナード氏が自らの財産を投じて1999年に設立され、2006年ごろからカメラメーカーとして具体的な活動を始めた、レッド社(RED Digital Cinema Camera Company)が登場、最高4.5Kでの撮影を可能にしたRED ONEカメラを発表する。

スーパー35mmサイズ/4520×2540というピクセルサイズのCMOSセンサーを有するこのカメラは、最初から4Kサイズでの画像収録が可能であることを売り文句に、パーツごとに分離追加が可能なモジュラー形式のボディデザイン、“REDCODE RAW”というオリジナルのRAW形式とアップルのProResコーデックによる収録というワークフロー重視の収録形態、2Kから4.5Kまでの記録が可能、フレームレートも1〜120pまでのハイスピード撮影も可能、さらには開発段階からデポジット制による開発資金調達とネットによる直接販売など、これまでのカメラメーカーの常識を打ち破る画期的なスタイルで、デジタルシネマカメラ市場にある意味で革命を起したのは記憶に新しい。

デジタルシネマ時代の革命児とも言えるRED ONEカメラも2012年10月には生産を終了。

その後、同社はフラッグシップ機である『EPIC』と廉価版で入門機と言える『SCARLET』にカメララインナップを移行。どちらも5120×2700ピクセル=5K解像度の14bit 13.5ストップのCMOSセンサー“Mysterium X”を搭載。EPICについては個体別に技術者が手組みでその品質と製品保証がついた『EPIC-M』と、通常の生産ラインで製造される『EPIC-X』がある。

ともに製品仕様は基本的に同じだ。また通常CMOSセンサーの手前にあるRGBフィルタ等を排除し、光の明暗を鮮明に捉えるモノクロ撮影に特化した『EPIC-X Monochrome』も別途存在する。『SCARLET』と『EPIC』の違いは、内蔵プロセッサーの処理速度の違いと外観が『EPIC』は黒、『SCARLET』はグレー仕様になっていること。さらにこのRED『EPIC』『SCARLET』がもたらしたもう一つの新たな流れは、5Kという大型センサーを搭載することで、これらのカメラを“DSMC=Digital Still Motion Camera”として位置づけたこと。ムービーとスチールを1台で撮影できるカメラというコンセプトは、4K、5Kといった高解像度がもたらす次世代カメラの志向性として、その後のデジタル一眼レフカメラ(DSLR)の世界にも一石を投じることになる。

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RED Digital Cinema Camera:当初からOVER HD&DSMCというコンセプトで開発されたREDカメラ。写真の“Brain”と呼ばれるカメラ本体に、レンズ、バッテリー、メモリ、ハンドルリグなど、撮影仕様によって必要な機材を付け足して行くモジュラー式のカメラシステムは多くのユーザーからも支持。4K収録は主にREDCODE RAW収録で、発表当初はこのファイルワークフローの面倒さなどが指摘されたが、REDCINE-X PRO(R3Dファイル専用ソフトウエア)やRED ROCKET-Xボード等の進化により、大きく改善。写真は左が、初号機となる『RED ONE』(生産終了)、左下が普及版の『SCARLET』、右下が現行のフラッグシップマシン『EPIC』。近日、更にHDの9倍となる次世代センサー“6K RED DRAGON”を搭載した『EPIC DRAGON』も発表予定。
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※この記事はコマーシャル・フォト2013年9月号 特集「4K入門」を転載しています。

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