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出版不況でヒット連発 取次なしの“ネット的”出版社「ディスカヴァー21」(1/2 ページ)

» 2010年05月25日 09時12分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 出版不況と言われる中ヒット作を連発し、毎年利益を拡大させている出版社がある。ビジネス書を中心に出版しているディスカヴァー・トゥエンティワン(Discover21)だ。1985年創業、社員数約40人の大きくはない会社だ。

画像 「電子書籍の衝撃」iPhone版

 無名だった勝間和代さんを発掘したことでも知られ、“勝間本”の元祖「無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法」や、婚活ブームの火付け役となった「『婚活』時代」(山田 昌弘、白河桃子共著)、発売3カ月で39万部を突破した「超訳 ニーチェの言葉」など、ベストセラーを連発している。

 編集者約10人で、年間約80冊を発行。取次を通さない直取引で全国4000店と取引しており、出した本の増刷率は75%と、業界平均の20〜30%をはるかに上回る。ネットも柔軟に活用しており、昨年12月、独自の電子書籍販売サイトをスタート。4月15日に出した「電子書籍の衝撃」(佐々木俊尚著)は、Twitterを駆使したマーケティングが奏功し、発売から2週間で5万部刷ることが決まった。

 顧客=読者の方を向くことで、売れる商品=書籍が作れると、同社の干場弓子社長は話す。

「顧客=読者の方を向く」を徹底 営業と編集の垣根なし

 出版の現場では、編集者と営業担当者が対立するケースもよく聞くが、同社では編集担当者も営業ともに「読者の方を向いて」売れる企画を練っており、対立することはないという。

画像 I miss youシリーズの紹介(Webサイトより)

 編集と営業がワンフロアで働き、営業担当者の人数は編集者の2倍。営業現場から書籍の企画案が出ることもある。新シリーズ創刊の際などには、営業・編集担当者混在のプロジェクトチームを結成。読者アンケートや書店アンケートからプロモーションを企画することも多いという。

 読者アンケートの内容をそのまま本にしたこともある。例えば1997年から発行している「I miss you」シリーズは、読者カードで募った恋の一行詩をまとめた人気作で、12巻発行し、累計50万部売れた。「勇気をくれたこのひとこと」シリーズも読者カードで募ったひとことを収録し、10巻累計50万部のヒットとなった。

 「ゼロからスタートした出版社にとって、読者が一番の支え。読者とつながるのは当たり前」

作れば売れる時代ではなくなった

 同社は取次を通していないため、書籍は書店の注文に応じ、1店1店宅配便で納品。約20人の営業部隊が全国4000もの書店と取引している。

画像 干場社長は「日本の書籍は安すぎる」と感じている。「米国などではもっと高い。もう少し高くないと、著者や書店もやっていけない」

 直取引は手間がかかるが、書店や読者と直接やりとりでき、生のマーケティングデータが得られるというメリットがある。「どの業種でも、作れば売れるという時代ではなくなった。顧客にいかに近づくかがこれからのビジネスで重要。直取引なら顧客である読者の動向をつかんだ上で、書店と一緒に本の展開を考えられる」

 本の売れ行き情報は、店から同社にダイレクトに返ってくる。「売れなかった時に『取次がまいてくれなくて……』など言い訳できない。営業や編集が実際に本屋の棚を見て売れていないのを見ると、申し訳なく思うし、書店との信頼が崩れる」ため、同社側も売れる本作りに必死になる。

 取次を通さない直取引という珍しい出版スタイルは、あえて選んだものではないという。「業界のカラを打ち破ったと言われることもあるけれど、経験がなかったから、知らなかったから。カラがなかっただけなんですよ」

 「大手から独立した編集者なら、作家ごと引き連れ、コネを使って取次を通すのだろうが、わたしはそうでなかったので」。創業以前は世界文化社で「家庭画報」などの雑誌の編集を手掛けていたが、書籍作りは素人。ノウハウもコネもなく、流通ルート作りから作家の発掘まで独自でやるしかなかった。

 当初、「直取引は面倒」と嫌がる書店もあったが、同社の本が売れることが分かると、置いてくれるようになったという。

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