自治体による「有害図書」指定範囲の拡大に対する反対声明


自治体による「有害図書」指定範囲の拡大に対する反対声明

日本マンガ学会は2001年に設立され、会員として国内外の研究者約500人を有し、日本学術会議の協力学術研究団体に指定されている団体である。

2018年3月23日、黒沢哲哉著『全国版あの日のエロ本自販機探訪記』(双葉社)が滋賀県から、続いて3月30日、稀見理都著『エロマンガ表現史』(太田出版)』が北海道から「有害図書」指定を受けた。

それぞれ「著しく青少年の性的感情を刺激し、または粗暴性、残虐性を助長するなど、その健全な育成を阻害するおそれがある」(滋賀県)、「図書類の内容の全部又は一部が、著しく粗暴性を助長し、性的感情を刺激し、又は道義心を傷つけるもの等であって、青少年の健全な育成を害するおそれがあると認められる」(北海道)有害図書だというのだが、いずれもそれ自体がポルノグラフィであるわけではなく、前者は時代の流れとともに消えつつある「自販機本」とその販売機の現状に関するフィールドワーク、後者はいわゆる「エロマンガ」の中で性的な表現がどう移り変わってきたかを記述する図書である。図版に関しては、前者はほとんどがエロ本を売る自販機が並ぶ写真であり、後者は表紙に加え具体的な性描写も引用されているが、そもそも「マンガ表現」を分析・記述するためには具体的な図版の引用は不可避である。

このような図書までが自治体によって、「青少年の健全な育成を阻害する」として「有害図書」指定されてしまうことに、われわれ日本マンガ学会理事は強い憂慮を覚える。自治体による有害図書指定は、公共図書館での収集や提供にも制限をもたらしかねず、また、性的な表現に関する研究の萎縮をも招きかねない。たとえば、大学図書館での資料収集に対する自己規制、講義やゼミにおいてこうしたテーマを取り上げることへの自粛要請なども危惧されるところである。

もとより、日本のマンガは、男性向けの性表現のみならず、女性向けの性表現をも同じく発展させてきた。マンガの中の性表現のあり方はマンガ研究の重要な研究対象である。

われわれは研究を委縮させかねない、自治体による、こうした図書までを含む有害図書指定の拡大に、強い懸念と憂慮を表明し、反対するものである。

 2018年10月11日              日本マンガ学会理事
                             竹宮惠子(会長)
                             猪俣紀子
                             岩下朋世
                             呉智英
                             ロナルド・スチュワート
                             西原麻里
                             秦美香子
                             藤本由香里
                             堀あきこ
                             山中千恵
                             

 

カテゴリー: 日本マンガ学会の動き 
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