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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第42回

セルフパブリッシングの未来(2)

アマゾンで年間利益1000万円の衝撃――鈴木みそさんの場合

2014年05月23日 18時00分更新

文● まつもとあつし

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“鈴木みそ”はどう電子書籍を売っていくのか?

―― 市場が拡がったこと、出版社の積極的な参入もあって、個人にとって電子書籍を去年のように売るのは難しいということになりますが、逆に先生はどのように作品を売っていこうと考えていますか?

みそ 「作家や作品、また販売状況などに応じていろんな考え方があると思うんですけど、自分自身の話で言えば、昨年“鈴木みそ”っていう名前をレーベル化することに成功したと考えています。ということは、それを活かした売り方があるのではないかと。

 ネット上で『鈴木みそが出しているんだったら、ちょっと読んでみようかな』という動機で、読者に作品が届く可能性が出てきたと感じています。逆に言えば、今まったくの新人が電子書籍出しましたといってもそうそう売れるとは思えないんですよ。仮にそれが本当に面白くても。

 そういう意味では、マンガ家みんなが個人で売れる方向に行くかと言えば、難しいんですね。でも、ある程度、成功したり、名前を売ってる人たちは、出版社から飛び出して個人で売ることができるようになってくるだろうと。僕はそのギリギリのラインに立っているんじゃないかな(笑)」

アマゾン内、鈴木みそ氏のページ

―― そういった読者=ファンには具体的にどうやってアプローチしていきますか?

みそ 「例えば、新作を描いてKindle上で勝手に連載を始める、という方法もありますね。Kindle連載も昨年参加させてもらったのですが、アマゾンさんからの告知、プッシュという面ではちょっと弱かった印象があります。最初は話題になって一瞬で600部購入されたんですが、そこから今も2500部くらいしか出ていないので。

 買った人の手元には最新話が届く仕組みですが、それ以外の人がそれ(更新話数の追加)を知る機会が少ないんですよ。

 であれば、メルマガのように自分で連載を更新していくという方法もあるかなと。計算してみると、原稿料と同じくらいはそこでぎりぎり回収できそうなんですよね」

―― アマゾンは作品をリコメンドするメディアとしての機能が弱い?

みそ 「いえ。例えばKindleの“月替わりセール”ってあるじゃないですか。僕の作品はあそこで良く取り上げてもらえるんですけど、めちゃめちゃ売れるんですよ。キンドル連載もあそこに並べてくれたらいいのにと(笑)。

Kindle月替わりセールにチョイスされると売れ行きが跳ね上がるという

 あれは事前にアマゾンから『この作品を紹介しても良いか?』と問い合わせが来て、それに返信すると、あるタイミングで乗るんですけど、それがまた絶妙なんですよ。どんどん売れているタイミングじゃなくて、ちょっと落ちてきたかな、というときに、もう一度勢いを付けるかのようにセールになる。

 おそらくアルゴリズムもすごいのだろうし、作品選びも人の目を組み合わせて上手にやっているんじゃないでしょうかね。

 で、月替わりセールに出た瞬間ドカーンとくる。ランキング100位ぐらいになると、20部とかしか売れなくなっているのが、その日に突然1位にまで上がるんですよ。見ると800とか1000とか売れている。その日の夜なんかさらに売れて、24時間トータルでは3100とか。

 ギリギリ温泉以降の作品で、そのブーストの掛かり具合が大きくなっているので、Kindleの利用者そのものも増えていることも実感します」

―― Kindle連載よりも、月替わりセールのほうが売れる?

Kindle連載の短編集『マスゴミ』

みそ 「そうなんですが、その評価も作品によって変わります。Kindle連載で展開した『マスゴミ』は、仮に僕がセルフパブリッシングした場合――おそらく1000部行くか、行かないか、くらいだったと思うんですが――よりずっと売れたと思います。

 売れ方として、紙の2万部ぐらいと電子の3000部くらいが現状近いかなぁ、という感じがするんですね。電子が5000までいくと、紙が3万部くらいかな、みたいな。電子が紙の6分の1くらいの感覚というのが肌感覚としてあるんですよ。そうすると、1000部ぐらいの電子書籍というのは紙で6000部だから、紙で出しても厳しいよね、と」

―― 初版で終わり、みたいな。

みそ 「初版も出してくれないかもしれない。コミックの単行本だと1万部出るという見込みがないと出してくれないことが多いんですよね。そういう意味では厳しいです。

 今まで編集部が『単行本は出せないよ』と判断していて、自分では『良い作品なのに』と思うわけじゃないですか。でも、自分でセルフパブリッシングすると100も売れない、みたいな。自分だとこれはこのくらいの部数かなぁという“プロデューサー”としての読みが当たっちゃうと、“作家”としての自分が凹みますよね(笑)」

―― 先ほど仰った昨年の成果としての“鈴木みそ”レーベル(ブランド)が確立されていて、その確立されたブランドとそれぞれの作品の中身や想定する読者とのマッチング度合いで、ある程度、数字を読むことはできるというわけですね。

後編はこちら

著者紹介:まつもとあつし

 ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。デジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆などを行なっている。DCM修士。
 主な著書に、コグレマサト氏との共著『LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか?』『LINEビジネス成功術-LINE@で売上150%アップ!』(マイナビ)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)など。
 Twitterアカウントは@a_matsumoto

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