人口は減る一方だし、観光資源もなければ、特産品もない――。そんな不利な面ばかりが強調されてきた過疎地の中でも、マイナス面をプラスに変え、東京などの大都市に物を売り込み、人を呼び込むのに成功したところがある。
全国1000カ所以上の農山漁村を訪れ、「食」からの地域再生を支援している金丸弘美氏に、魅力のある「田舎」の共通点を聞いた。
(聞き手は西頭 恒明)
金丸さんは全国の「田舎」を回り、地域再生を支援なさっています。地方の農山漁村では今、どんなことが起こっているのですか。
金丸:まず、農業が大きく変わった。戦後の1950年に1万3000を数えた農協(総合農協)が、今は700強しかありません。その一方で、農業の株式会社が約2100、農業生産法人(株式会社を除く)が1万近くに達しています。既に農業の中心は農協ではなくなっているんです。
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食環境ジャーナリスト、食総合プロデューサー。1952年生まれ。全国1000カ所の農山漁村を訪ね、食からの地域再生などに取り組む。著書に『幸福な田舎のつくりかた』(学芸出版社)など。(写真:的野 弘路)
そういう状況で、農協のインフラを通じて大量に農作物を流すという構造が機能しなくなってきました。農協に集約して市場に出荷し、東京などの消費地に送るという仕組みが、過疎地では人口が減って生産量が減り、経済も落ち込むことで成り立たなくなったのです。
しかも、農協経由では農家に価格決定権がないので、“出口”で安売りされてしまうと、いくら量を作っても儲からない。材料費ばかりかかることに嫌気が差した専業農家たちが、自分たちで農業生産法人を作るなどして動き始めています。
農業の形態がどんどん変わり、生産から加工販売まで手がける第6次産業型があちこちに生まれています。それが今や、自ら売り込みに行って取引するようになった都市部の百貨店や、全国で1000カ所以上に達した「道の駅」などで売られているんですね。
修学旅行は農村や漁村での体験型に
それからもう1つ、別の動きがあります。農業や漁業体験を主体にした修学旅行の誘致や、都会の人に農村の暮らしや景観、料理を楽しんでもらうグリーンツーリズムと呼ばれる観光事業が伸びていることです。
つまり、農作物の販売と観光客の流れが、完全に変わってきているんです。
修学旅行ですか。京都や奈良、東京などではなく?
金丸:はい。例えば、長崎県松浦市や長野県飯田市などがよく知られています。松浦市の場合、山間地と離島で農漁業を体験するため、年に185の学校から約3万5000人もの生徒が訪れています。飯田市でも、450軒ほどの農家が135校の生徒を受け入れていて、経済効果が10億円くらいに達していると言われています。
生徒たちは社会の授業で農業や漁業について学びますが、日常の生活の中で実際に触れてみることはほとんどないんですね。国は農漁業の振興や人材の育成を叫んでいますが、実際にそういう受け皿を設けているわけではありません。
「それなら」とそういう体験の場を作ってみると、定置網をかけるとか、漁船に乗って漁をするといった漁業の普通の営みが、中学生にとっても先生にとっても全く未知の世界で面白い。それを体験することで、地方の田舎にあるものがすべて学びになるということが分かったんですよ。
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大型のホテルより古い民家に魅力
これまで過疎化が進む中山間地の多くは観光名所もないし、これといった特産品もないと見られてきました。そのマイナス面がむしろ、プラスに転化しているように思います。
金丸:そうですね。今までそうした地方で、「山ばかりで何もない」などと言われてきたのは、いっぱい収穫できる野菜や果物がないとか、コメをたくさん作るだけの田んぼがないといった、大量に出荷するものがないということだったんですね。あるいは観光客が大勢泊まれる大きなホテルがないとか。
ところが、最近の消費者が望んでいるのは、そんな大量生産の農産品や大型ホテルではありません。そこでしか獲れない希少価値のある農産物であり、自然の景観が見える小さな民家のようなところでの宿泊なのでしょう。
これまでマイナスだと思っていたものが、外の視点で見るとプラスに見えていることに気づき、「古い民家は壊したほうがいい」と思っていたのを考え直す人も出てきた。こうした動きが徐々に広がって、観光の流れも変わってきているように思います。
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