もう何もいいことはなさそうだ
新型コロナウイルスは、政権末期を迎えた首相の安倍晋三の「出口戦略」をも大きく狂わせた。今や安倍は、思い描いてきた退陣シナリオをどうすれば実現できるのか、答えを探しあぐねている。

安倍の「退陣シナリオ」とは、どういう代物だったのか。
大前提は、意外かもしれないが、副総理の麻生太郎や元首相の森喜朗、それに首相補佐官兼秘書官の今井尚哉ら側近たちからどんなに続投を求められても、総裁4選を絶対に目指さないということだった。
「早く自由になって毎日ゴルフを楽しめるようになりたい」。安倍は昨年から、気心の知れた知人に繰り返し、そう漏らしてきた。それはまさに本心から出た言葉だった。このまま首相を続けても何もいいことはなさそうだ――という八方ふさがりの状況が、安倍をそうした心境にさせた。
安倍が民主党政権の後を受けて第2次政権を発足させた7年以上前から、政権の「第一のレガシー」に据えようと考えてきたのは「デフレ脱却」だった。だが、実現の見込みが立たず、むしろ今夏の東京五輪が終わった後は景気が大幅に冷え込むことが予想された。