コラム

ウェブデザインコンプレックスは克服できるか


幽霊の正体見たり枯れ尾花。これが結論である。

デザインセンスや技術力は努力だけで90%まで到達できる。後残りの10パーセントがその人の持って生まれた才能やセンスの問題、後は好み。あるいは、生まれ育った生活環境や諸々のもの。とにかく、努力では変えようのないものが残り10パーセントを占めている。

だが、努力だけで到達可能な90パーセントまで達すれば、一流のプロとして通用するレベルである。今から定年までにこの技術を磨いておけば一つの芸として成立するし、あなたの老後はバラ色だ。そのためには、ほふく前進で努力をすることが必要となる。一体、デザインの現状というものはどのようなものなのか?以下、述べてみよう。そして、ウェブデザインコンプレックスを克服する方法を教えよう。
なんとなく、目に触れる美術環境が戦後の日本は貧しくなっている。大量生産で画一的なデザインがいっぱいになっている。日本の生活風習で「ひとりがしたらみんなする」という後進国性がどこからきているかというと、あの学校教育からきている。小学校の先生というのが全部の教科を教えているのもまずい。ちゃんと見る目のある人が美術やそういうのを教えていない。「絵は子供でも描ける」という安易な発想の元に、指導力のある人がその任務に当たってこなかった。また、選ばれて張り出される絵というのは「だいたいこんな風な絵は先生にほめられる」というものになってしまっている。ポスターなどのようにみんな同じようなものになる。その子の個性を伸ばしてやるのではなく、「こういう絵がいいです」というのを先生が自分の好みを優先してやっている。

たとえば変なことをいうが、国公立の芸大(事実上のトップ校たち)にいるからデザイン力が抜群かというと、絶対それはいえない。なぜかというと、あの受験の課程で写実的にデッサンしたりすることのウェイトが大きすぎて、デザイン力を養う方向に時間をあまり費やしていないということと、それを指導する優秀な講師陣があまりいないこと。なぜかというと、そういうデザイン力のある優秀な人は一流企業のデザイン室にいるため、芸大予備校などの講師にはいかない。いくわけがない。日本全国のデザイン室を見渡してみると、一流企業のデザイン室にほぼ一流の人が、つまりデザイン専攻の人が行ってしまって、ちょっとランク落ちのデザイン室のメンバーというのは、油絵とか日本画とか工芸とかの人が入っている。この中でもまだデザインに関与しているのは特殊な工芸のみ。油絵、日本画、工芸、この3つは大学4年間で、一体何点の商業デザインをやったかというと、これが皆無。これはどこの芸大でも同じ。だから、デザインをさせようと思うと、デザイン科を出た人でないと意味がない。そうでないと、意識が低い。


そんなの誰でもできると思うかもしれないが、若いときの4年間というのはどれぐらい大きなウェイトを占めているかというのは、言語を絶する。25歳までにほぼその人の基本となるようなものができあがるのに、その直前の4年間を商業デザインに対して意識なしに過ごしたというのでは、一般人と何も変わることがない。通用しない。実際に会社のデザイン室を見てきてイヤというほど直面してきた。ほかの課の人は誰でも、デザイン室の様子を見て「なぜあいつらはあんなにゆっくりだらだら仕事をするのか」とうぐらいにだらだらしている。時間をかけて、遊んでいるのか働いているのかわからない。いわせると「芸術というのはそういうものだ、お前らに何がわかるのか」と口をそろえて反抗してくるのだが、それはただのいいわけと隠れ蓑に過ぎない。芸術家というのを、あるいは芸術というのを、水戸黄門の印籠のようにかざす。だがそれはちがう。全然違う。デザインと芸術は違う。日本において「芸術」というのは生活と無縁のものであり、芸術の領域に至るまで日本人の個として、自己主張の激しいような人は育たない。ましてや今の日本社会のようにオールサラリーマン化している世の中で、どうして孤高の芸術家が育つのか。ただ単に絵を描いているのは大型のイラストレーターでしかない。そういう目で見れば、あらゆることがうなずけるはずだ。有名な公募展をのぞいてみれば一目瞭然にセンスやデザインとは無縁の人がどれほど多いか、どれほど大作家先生のセンスを大声で誰も疑わないのかは、裸の王様の物語そのもの。あの中でデザイン性に優れた絵が一体何点あるのか、自分の目で探してみれば、よく実情がわかる。

だからもし自分が何らかのデザインをしようと思ったときに、コンプレックスを抱いて高嶺の花みたいなことを考える必要性はない。日本人は人に認めてもらわないと自信がつかない傾向が多い。それで、専門学校へ行ったり、カラーコーディネーターの資格を必死になって取得したり、デザインなどの勉強もまともにしたこともない人の書いたブログやホームページを必死になって見るのだが、それは努力する方向性が間違っている。

どのような努力をすればいいのか。何を努力すればいいのかがそもそもわからないから、最初に芸術ありきの「センス」論がはびこるのだ。西洋では、美術系の大学において古典的な技法から始まって、基礎の勉強を徹底的に教え込む。それに対して日本では、それは入試の段階で終わっているものとして、まず何も教えない。では上位の芸大に入っている者は優秀なのかというと、そうでもない。もしもそれを自分で確かめたかったら、国公立の芸大の卒業制作展を見に行けばよい。それがどれぐらいの自分とのハードルの高さの違いにあるのか、その目で確かめるのもいいかもしれない。

では、一体どうすればいいのか。質の向上は量から始まる。何はともあれ、数を試みることである。その数ができない人は、向いていない。それが苦痛だと感じるようでは向いていないので、ほかの仕事に当たるべき。もしその数をこなせるならば、非常にその人には向いているのだから、何も恐れることはない。たとえばひとつのページのデザインをしたときに、形・色・構成において、何パターン考えられるかがその人の能力そのもの。それを繰り返していると、質は自ずと上がる。自動車の運転免許の取得と同じで、若いときはそれが早く達成できるが、年を食っていると少し時間はかかる。あとは個人差。

問題は、数ができない、デザインに向いていない、でもやらざるを得ないという場合。海外では、ハイスクールまでの間に基本的なことを教えてもらうので、あまり破綻を来さない傾向が強い。だから、デザイン性のあるテンプレートを配布するサイトなどが非常に多くなる。素人でも、ある程度のレベルにまで達しているので、やろうと思えば、コンプレックスなしにできる。そもそもそんなことに対して、コンプレックスなど持っていない。持つ必要のないものは持たない、つまりものの考え方が合理的であるためだ。だから、できない人がやらなくてはならない立場になったとき、まず最初にすべきことは、絶対にコンプレックスを持たないこと。そうしないと、何をしても前に進めない。

まずはウェブサイトのデザインだけに特化して、それを中心にありとあらゆるデータを集めること、とにかく見ること、まずは目を肥やすこと。それと、自分の好みは何なのかをはっきりと自己認識しておくこと。そうしないとドツボにはまる。自分の好みというのは人から見るとくささとか、アクとか、偏見とか、マイナーに映ることが多々ある。だから、ウェブサイトというものは自分が見るものではなく、人に見せるものであるから、自分の好みという狭い世界を脱する必要がある。そのためにも、自分の好みはちゃんと知っておかなくてはならない。あのサイトのデザインが悪いという場合、ではどうすれば改善できるのか、主観による好みではなく客観的な視点で判断できるようになっておかなくてはならない。

要するに、どんな色でも、配置でも、自在に使いこなせれば問題ない。最低限、構成は黄金分割を基本に繰り返すこと。色は、明暗の対比をはっきりさせること。それと情報の見やすさを重視するために、文字のデザインや配置は少し離れて見てもよくわかるように選択すること。できあがったら、いろんな人に見せて感想を聞くこと。これらを繰り返すこと。

また、もしあなたの机の上がぐちゃぐちゃであれば、だめだ。水平・垂直・平行、これを常に心がけていなくてはだめなのだ。理由は、絵を描く人が水平・垂直・平行に対して物差しを当てるようでは、目が見えないのと一緒だから。何もないところに水平線が引けて、角度がわかること。それと色の記憶。色の記憶とは、「黄色」といえばあのときの黄色だ、とわかること。黄色といっても山ほど種類がある。においとか、色とかといったものは訓練しないと記憶できない。いいウェブデザインを自分のパソコンに入れるのではなく、自分の視覚記憶に入れる訓練が必要だ。そしてその記憶を引き出す訓練。これが基本。これができればほぼ、90%に近い。今まで記憶するものはデザインのノウハウにしても文字であったはずだ。形とか配置とか色とか、そういうものを記憶する訓練を自分に課さなくてはならない。すばらしいデザインのものは自分の脳みその中に記憶する訓練が必要。だが、記憶は薄れる。だから、もう一度出力する必要がある。そのため、模写したり、再度同じものを自分でゼロから作る必要がある。その課程でそれをデザインした人の追体験が可能になる。そうすれば、自分のものになる。

一体誰がこの努力をできるのか、とあなたは思うかもしれない。目標があれば、スピードは問わない。あなたは亀のほふく前進でいいのだ。目標があれば、後退することはない。前進あるのみである。

そうすれば、あなたはプロ並みになる。

2007/03/05 0:02追記
毎度お騒がせしておりますが、メールで問い合わせとなぜか心配する声があまりにも相次いでいるので、言い訳がましいので書く予定はなかったのですが上記の話の補足を。
これは例によって例のごとくデザイン関連の業界で長く携わっている匿名希望さんによる口述をそのまま文章にしたもの(下記リンクのダーク系配色にコメントを入れていったのと同じ人です)です。そのため、普段と文体が違います。決して二重人格とかではありません……。整形して編集すると伝わらないものが多いので、あえてそのままにしてあります。キツイ言い方が多いのと、やたら冗長なのはそのためです。
なお、GIGAZINEではいろいろなタレコミなどを常時募集しているので、実名では言えないしブログにも書けないけど、GIGAZINE経由で何か言いたいという人はご連絡を。100%採用される保証はありませんが、お待ちしております。

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in デザイン,   コラム, Posted by darkhorse

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