コラム

無料クラウド請求書管理サービス「Misoca」が資金調達をして知ったこと

by thinkpanama

私はMisocaという無料のクラウド請求書管理サービスを運営するスタートアップの代表をしています。このサービスは簡単に請求書を作ってメールで送ったり、自動で郵送できることが好評で、フリーランスなどを中心にユーザが現在1万事業者を超えるようになり、さらに事業を大きくするため2013年9月にベンチャーキャピタル(以下VC)から3000万円の資金調達を行いました。

資金調達(エクイティファイナンス)というのは不思議なもので、一度してしまえば大したことじゃないんだけど実際にする前は全体のことがまったくわからないというところがあると思います。少なくともエンジニアの私にはそうでした。


これは、誰かが「彼女の作り方がわからない」という話で言っていた「女の子と知り合う→なんかする→付き合ってる、の“なんかする”のところってなに?」みたいな感じです。「会社を作る→なんかする→調達する」の“なんかする”のところが全然わかりませんでした。特にそんな頃の私にとても参考になったのが、わずかながらあったネット上の資金調達の情報でした。

そういったものを読んでいろいろなるほどーと思ったところがあり、僕も資金調達をしたら次の人たちのために書こうと思っていたので、半年前のことを思い出しながら残してみたいと思います。

◆目次
・なぜ資金調達をしようと思ったのか
・勉強のために読んだ本
・資金調達のステップ
・ステップ1:ベンチャーキャピタルと知り合う
・ステップ2:事業計画を作る
・ステップ3:ピッチ・面談をする
・ステップ4:条件交渉・契約
・相談した専門家
・資金調達後どうなったか
・地方でスタートアップをやることについて
・最後に

◆なぜ資金調達をしようと思ったのか

by Emily Mills

私が資金調達をしたのには大きく3つの理由がありました。

1つ目は、弊社はもともと受託の開発をしており、その受託開発をやめたかったということです。当初は2人でやっていたので受託開発と自社サービス開発を両立するのは困難でした。しかし「いつか受託はやめよう」「この受託を最後にしよう」と思っても、現金がなくなる不安からやめられません。また、積極的に営業しなくても継続や追加の案件がくるため、意志の力でやめるのは無理だなと感じていました。

2つ目は、「一度はVCから資金調達してみたい」「他の勢いのあるベンチャーと同じようになりたい」という単純な憧れの気持ちです。正論から言えばこれは大間違いです。しかしそういう気持ちがあったのは正直なところです。

これら2つが最初の動機でした。ただ、実際に資金調達について学ぶうちに必ずしもエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)がベストではなく、資本コストの面からデメリットがあることを知り、負債による調達(デットファイナンス)も検討しました。デットファイナンスには個人保証が不要なものもあります。しかしその上で、今回はエクイティファイナンスを選択しました。

資金調達をした3番目の理由にして一番の理由は、サービスの開発スピードの問題です。徐々にユーザーを増やしてコツコツ機能追加してというサービス運営スタイルもあると思いますが「もし、競合が資金調達をしてきたら」「もし、大手に真似されたら」と思うとスピードアップのために先手を打ちたいという気持ちがありました。

◆勉強のために読んだ本
いまでも自信をもって知識があるといえるわけではないですが、当時の私の知識は本当に皆無に等しい物でしたので多少は勉強をしました。例えば下記の本は読んでよかったなと思います。

起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと


入門 ベンチャーファイナンス―会社設立・公開・売却の実践知識


コーポレート・ファイナンス入門


「起業のファイナンス」は絶対読んだほうがいいでしょう。あとは、コーポレート・ファイナンスの話などは私は全然知らなかったので読んで良かったです。資金調達が「無料でもらえる返さなくていいお金」だと思っていたら大間違いということを学びました。今は本屋に行くと当時よりいろんな種類の本があるように思います。

◆資金調達のステップ
ステップは以下の4つに分けられます。

・ベンチャーキャピタルと知り合う
・事業計画を作る
・ピッチをする
・条件交渉・契約

◆ステップ1:ベンチャーキャピタルと知り合う

by Kevin Krejci

まずはベンチャーキャピタル(ベンチャーキャピタリスト、以下VC)と知り合わなければ話になりません。これは当たり前のことなのですが、名古屋在住で近くにVCがあるわけでもなく、VCに出会うような仕事をしていたわけでもない私にはそういう発想はありませんでした。今なら事業のアイデアが頭に浮かんで事業計画に落とす前にVCに相談に行くと思います。

実際には下記のような方法があると思います。

・紹介してもらう
・直接連絡をする
・イベントで知り合う

一番いいのは紹介してもらうことでしょう。知り合いの社長やスタートアップの人に聞くといいでしょう。

他にもプレスリリース配信サービスで出したリリースから連絡があったこともありました。プレスリリース配信サービスは価格差が激しいのですが、昔からやっているところのほうがいろんなメディアに取り上げられたり、読んでいる人も多い気がします。

Misocaの場合、そもそもVCと知り合うべきという発想がなかったので、出席したスタートアップ向けイベントの名刺交換などで知り合うというところから始まりました。サムライベンチャーサミットB DASH CAMPTechCrunch Tokyoといったイベントで名刺交換する中で多くのVCやVCを紹介してくれる人に出会いました。

知り合いがいないなら、例えばベンチャーキャピタル・PEファンド 一覧などを使って公式サイトを探し、直接連絡することです。ただし、どれぐらいの確率で会ってもらえるものなのかはわかりません。

◆ステップ2:事業計画を作る

by Kamilla Oliveira

VCと「じゃあ一度会ってみましょう」となったら事業計画を作って持って行くことになります。

事業計画を作るというと何十ページのものを想像するかもしれませんが、私が使っていたのは10ページ以内のシンプルなものでした。最初からすごいのを作っていってもどうせ修正することになるので、まずは大枠だけでいいでしょう。

・表紙
・会社概要・メンバー概要(役員略歴・アドバイザー紹介)
・サービス概要
・3年分の収支計画(ユーザ数・売上・原価・利益の4つしかないもの)
・市場規模・競合について
・現在のKPI

事業計画書の大切さというのはいろんなVCに会うまで私はよくわかっていませんでしたが、何度も事業の説明をしているうちにだんだんとわかってきました。私がよくわかっていなかった理由は下記のことをわかっていなかったからでした。

・他人は自分の事業について現在の状態をまったくしらない
・他人は現在の事業をとりまく周辺状況・トレンドをまったくしらない
・他人は自分の事業の夢や将来の計画についてまったくしらない

例えばMisocaの例だと、私は「フリーランスは請求書ですごく困っている(現在の状態)。しかもクラウドサービスは普及しているしフリーランスも増えている(トレンド)。その中で請求書を取り扱うということはその後の電子決済や電子契約といったより大きな価値を提供する事業につながる(将来の計画)」と思っていました。

しかし、これは起業家の沸騰した脳内での話。普通の人は「え?個人事業主の請求書?そんなの10分ぐらいで終わるし、本当に困ってる人いるの?しかもPDFを作るだけならExcelでできるよね。売上も郵送するだけって全然儲からないよね」という反応を見せます……。

こういう人を説得して事業の背景を理解してもらい、将来の売上などの不確定なものもある程度の状態がきちんと検討された上での計画なんだなと納得させ可能性にワクワクできるようにする。いわば、起業家の沸騰した脳内を誰にでも伝染・伝播できるようにマニュアル化したものが事業計画書なんだと今は思っています。

参考にした資料は
(PDFファイル:約3MB)総務省 事業計画作成とベンチャー経営の手引き
CD-ROM付 ゼロからわかる 事業計画書の作り方
です。

◆ステップ3:ピッチ・面談をする

by BurnAway

VCに持っていく資料ができたら、次は面談です。

私は最初「面談しましょう」と言われても、何をするものなのかよくわかっていませんでした。「もしかしたら就職の面接のように一発勝負なのでは……」と、とても緊張していましたが、そうではありません。VCに会うというと「プレゼンに行く」と構えて考える人もいるかもしれませんが、まずは自分の考えを聞いて意見をもらう、ディスカッションや相談をするというぐらいに考えていて大丈夫です。まずは会ってみて、何度か情報交換をしながら関係をつくっていくというような流れになります。

最終的に20ぐらいのVCと面談をしましたが、ほとんどのVCが東京にあるので、そのあたりが地方のスタートアップとしては交通費的にも時間的にも辛いところでした。中にはSkypeでの面談のところもありましたが、後述するようにお互いの人間としての相性もすごく重要なのでやはり何度も直接会ったほうがいいなと思います。

VCを選ぶポイント
20ぐらいVCを回ってみてわかったのは、VCにもいろいろな性格があるんだなということです。例えば親会社の都合で投資分野が限られているとか、成長は短期で目指すのか中長期で目指すのか、担当者の得意な分野は何なのか、ファンドの期限がいつなのか、などです。

また、意外と大事なのはVCの担当者とうまくやっていけそうかという点です。調達後に特に思いましたが、VCの担当者とは成績がいい時も悪い時もすべてを正直にやっていく必要があります。少しでもやりにくいな、事業に対する感性が違うなと思ったらその気持ちは無視してはいけません。

私も20人以上のVCと会ってみなさんとても優秀な人ですごいのですが、実際に自分と感性が似ていてこの人となら長くやれそうだなと思ったのは3~4人ぐらいでした。

VCに早めに会うメリット
VCにたくさん会うことは多くのメリットがありました。例えば彼らは投資のプロで、実際に自分も投資するかどうするかという視点で自分たちのビジネスを見てくれます。

つまり経営者の気持ちで考えてくれるわけですが、そういう風に考え、遠慮なく意見を言ってくれる人というのはなかなかいません。

MisocaもVCに会うたびに事業計画書をブラッシュアップしたり、新たな指標を調査したりとどんどん洗練されていきました。

また私自身も、最初の頃は痛いところばかりを突かれるので本当に気が重かったのですが、徐々に相手にどういう順番でどう説明すると分かりやすいのかというコツがつかめ、事業の説明がうまくなるとともに自分自身でも事業の核というものがよくわかっていったように思います。

◆ステップ4:条件交渉・契約

by AFGE

何度かの面談をして、お互いにいいなと思ったら条件交渉に入ります。バリュエーション(企業価値)がいくらでという話になりますが、スタートアップの場合は正確なバリュエーションを出すことは現実的にはできないでしょう。

金額は今後どれぐらいの事業をするのにいくら必要で、他社の例はどうでというようなところから決まってくることが多いかと思います。

バリュエーションも高ければいいというわけではないところが難しいです。今後の資本政策も考えながら、いい条件が得られないなら他のVCに乗り換えることも視野に入れて検討する必要があります。

Misocaの場合は私が素人でしたので、自分で勉強しながらもベンチャーに詳しい会計士や、調達経験のある他のスタートアップのCEO・CFO・上場企業の社長などにも相談をしました。デットファイナンスの場合はお金を返済すれば終わりですがエクイティの場合は通常後戻りができなくなるので必ず専門家や信頼できる人、経験者に相談するべきです。

契約・振込
条件に合意できたら契約になります。契約書は必ず資金調達に詳しい弁護士にレビューしてもらいましょう。

ここでも説明をうけても意味はわかるけど、それが実際には今後どのように影響があるのかわからない時は他の経験者などに相談をしたりしました。

契約は振込は緊張しました。私にとっては直接一度に扱う最大の金額でしたし、間違いがあれば後戻りもできません。実際に振込がされて残高を確認した時は素直にうれしかったですし、調達後は受託開発をしないように調整をしたことから売上も足りない状況にあったため経営者としては本当にほっとしました。

◆相談した専門家

by aiesecgermany

資金調達が完了するまでには、いろいろな人に話をうかがいました。

・スタートアップ・ベンチャーに詳しい会計士
・株式会社や上場、資金調達関する知識のあるアドバイザー数名
・他のスタートアップのCFO

一番お世話になったのはアドバイザーなのですが、印象に残っているのは会計士です。

ファイナンスに詳しい会計士ということで相談にいったのですが、めちゃくちゃ正直にものをいう人で「こんなものに俺は絶対に金は出さない」「とっととやめたほうがいい」「つまらない」「意味をわかってない」など、そもそものビジネスモデルから散々言われました。

こっちは真剣にやっているだけに本当にもう少しで涙が出そうになった時もありましたが、結局周りにいる仲のいい人に事業計画を話しても「いいねー」と言ってもらえるだけなので、こういう人は本当に貴重です。資金調達後、名古屋の税理士から代えてこの方と顧問契約をしました。

◆資金調達後どうなったか
資金調達後は、なんとなくお金の心配がなくなって楽になるのかなと思っていましたがそんなことは全然ありませんでした。これまで「お金がないからできない」ことがすべて「できること」になってしまい山ほど仕事が増えました。また責任も大きくなったのでそのプレッシャーというのもあります。

ただし、もちろんいい影響のほうが多いです。いろいろなことが試せるようになりましたし、人が増えたことで開発スピードもアップしました。またVCと二人三脚で事業を進められるようになりとても経営面に安心感がでました。

◆地方でスタートアップをやることについて
私は岐阜出身で名古屋でフリーランスをしていたのでそのまま名古屋で起業しました。シリコンバレーや東京に行かなかったのは、今思うと恥ずかしいですが名古屋も十分都会だと思っていたからです。

地方がいいかどうかはやっている事業にもよります。MisocaのようなWebですべて完結するようなサービスだと地方でも問題を感じません。ただ、人と会うことが多かったり、たくさんの会社と提携を進めながらやっていくような事業だとやはり不利なことが多いでしょう。

私はそれほど混んでいなくても通勤電車に乗るのが嫌なので、毎日片道約1時間を歩いて通勤しているような性格です。なので、職場の近くでも安い家が借りられる名古屋はすごく気に入っています。

また、いまMisocaにはVCはもちろんリモートのメンバーがアドバイザーも含め5人(東京4人・岐阜1人)います。オフィスに通っているスタッフもみな勝手にオフィス外で働いてもいいので、天気が悪ければ家で仕事をするようなスタイルをとっています。

こうやってせっかく地方にいることを活かして新しいことにチャレンジするというのは、やっていてとても面白いです。

アドバイスがあるとすれば、いま地方にいて起業を考えている人は、まずは東京やシリコンバレーのイベントやスタートアップの見学に行くなどして、それらのスピード感というものを感じるのがいいということ。その上でどこで起業をするか選択するのが絶対にオススメです。

◆最後に

Farzaan Patel/by DFID - UK Department for International Development

私のような素人が資金調達にするにあたって一番やったことは、自分で勉強することと多くの人に相談するということでした。大事なことなのでどれだけ相談しても十分ということはありません。

私の場合、いろんな人に一生懸命Misocaの話をして相談しているうちに、気がついたら以前の自分ならなかなか接することができなかった人達が力を貸してくれるようになりました。周囲の人にはとても感謝してるし、真面目に一生懸命頑張ることが一番大切だと思います。

資金調達の途中で、いろいろな方から最も言われたのは「資金調達は手段であって目的ではない」ということです。

経営者としてはとにかく現金が欲しいと先に思ってしまいますが、本来はまず目標や目的があり、それにはこれぐらいのお金が必要だとなって、さらにじゃあそのお金を調達する方法でベストなのは何かと考えろということです。資金調達に詳しい人であればあるほど同じことを言われました。

また、エクイティによる調達についてはできるだけ専門家や経験者に相談するようにとも多くの人に言われました。結果、弊社の場合は弁護士、会計士、上場企業社長、スタートアップのCEO、CFOなどできる限りの人に相談をしました。専門家の意見はもちろん大事でしたが、他の企業の人の言うことなどはけっこうバラバラで、そのあたりも社内での議論を深めることになりとても良かったと思います。

我々はまだまだこれからという段階にありますが、資金調達という形で一つ飛躍のきっかけを掴むことが出来ました。ここまで来るのに本当に多くの方に助けてもらっているので、少しでも還元できればと思いこの記事を書いています。この記事を読んで一人でも「役に立った!」という人がいると嬉しいです。

今はチャンスがいっぱいの時代だと思います。一緒に面白いことにチャレンジしていきましょう!

・クラウド請求書管理サービス「Misoca」について
1万1000以上の事業者(2014年4月)が登録している無料のクラウド請求書管理サービス。
オンライン上で操作するだけで紙の請求書を印刷・郵送する郵送代行機能を提供しており、既存の郵送作業にかかる時間的コストを削減します。

http://www.misoca.jp/


・筆者
スタンドファーム株式会社(http://standfirm.jp/)
代表取締役 豊吉隆一郎
1981年 岐阜県生まれ。2004年岐阜工業高等専門学校電気工学科を卒業後、TOYOSYSTEMとして個人事業でWeb受託開発業を開業。2011年スタンドファーム株式会社を設立し、代表取締役に就任する。趣味はマラソン。CSNagoya勉強会共催者、名古屋Ruby会議スタッフ、OSCNagoya2011実行委員長などを務める。

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in コラム, Posted by logc_nt

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