風塵
気象用語としての風塵(ふうじん)は、風によって地表の塵(ちり)や砂が空気中に舞い上がる現象。水平視程が目の高さではほとんど悪化しないものを「低い風塵」、目の高さでも非常に視程が悪いものを「高い風塵」という。気象観測の中でも大気現象の記録の対象[1][2]。
解説
編集乾燥地域以外でも、植生がなく乾燥する時期、強風に伴って土壌の粒子は舞い上がる。例えば日本の関東地方では、畑が収穫を終えた初冬に木枯らしの強風で砂塵が舞うことがある。このような事例は規模が小さく、黄砂のように遠くまでは運ばれない[3]。
風の強さのほか、地表の乾燥度やそれを左右する土質も因子である[2]。ときに表土を移動させて農地の肥沃度に影響することがある[2]。
強い風で塵や砂が高く巻き上げられ目の高さの水平視程が1キロメートル未満になったものを砂塵嵐といい、大気現象に加えて天気の記録の対象にもなっている[1]。
屋外のイベントに影響を与えることもある。例えば、正月の箱根駅伝において湘南海岸付近で発生することがあり、強風そのものの影響と併せ、年によっては番狂わせを起こすことがある[4]。
類似の用語
編集風塵と同じような意味の口語として砂埃(すなぼこり)[5]、砂煙(すなけむり)[6]、土煙(つちけむり)[7]、地煙(じけむり)[8]、黄塵(おうじん)[9]などがある。
大気環境分野で用いるfugitive dust(飛散性粉塵、飛散性ダストなどと訳す)は大気汚染源に着目した呼び方で、大気に拡散される土壌の粒子などを指し、煙突などの中を流れる汚染源に対してこう呼ぶ[10][11]。
地質学分野などで用いる鉱物ダスト(mineral dust、鉱物性ダスト、鉱物性粉塵、ミネラルダストなどとも)は、エアロゾル粒子の来源や組成に着目した呼び方。
強い風がシルト以下の大きさの塵を巻き上げると、遠くまで運ばれることがある。これを堆積物が風の営力(風成作用、運搬作用)により運ばれるという観点から、風成塵(ふうせいじん、aeolian dust、風送ダスト、風成堆積物とも)という[12][13][14]。
航空分野では、舞い上がる砂塵に視界を遮られた状態をブラウンアウトという。
出典
編集- ^ a b 『気象観測の手引き 平成10年9月』(pdf)気象庁、2007年12月、58-61,64-65頁 。
- ^ a b c 平塚和夫「風塵」『平凡社『日本大百科全書(ニッポニカ)』』 。コトバンクより2024年3月23日閲覧。
- ^ 沙漠の事典 2009, p. 32「黄砂」(著者:三上正男)
- ^ 川崎勇二「箱根駅伝の近年の傾向に関する一考察」『中央学院大学人間・自然論叢』第38号、2014年7月1日、5頁、CRID 1050001202770081792。(注:この論文では「砂嵐」と記載)
- ^ 「砂埃」『小学館『デジタル大辞泉』』 。コトバンクより2024年3月23日閲覧。
- ^ 「砂煙」『小学館『デジタル大辞泉』』 。コトバンクより2024年3月23日閲覧。
- ^ 「土煙」『小学館『デジタル大辞泉』』 。コトバンクより2024年3月23日閲覧。
- ^ 「地煙」『小学館『精選版日本国語大辞典』』 。コトバンクより2024年3月23日閲覧。
- ^ 「黄塵」『小学館『デジタル大辞泉』』 。コトバンクより2024年3月23日閲覧。
- ^ (英語) Fugitive Dust Control Self-inspection Handbook: How to Control Dust and Reduce Air Pollution. California Environmental Protection Agency. Air Resources Board. Compliance Assistance Program. (1992)
- ^ (英語) Allegheny National Forest (N.F.), the Willow Creek All-terrain Vehicle Trail Expansion Project: Environmental Impact Statement. United States Forest Service. (2006)
- ^ 松倉 2021, pp. 238, 244–246.
- ^ 土の百科事典 2014, p. 493「風成塵」(著者:東照雄)
- ^ 土の百科事典 2014, pp. 492–493「風成堆積物」(著者:東照雄)
参考文献
編集- 日本沙漠学会 編『沙漠の事典』丸善出版、2009年7月。ISBN 978-4-621-08139-6。
- 土の百科事典編集委員会 編『土の百科事典』丸善出版、2014年。ISBN 978-4-621-08584-4。
- 松倉公憲『地形学』朝倉書店、2021年。ISBN 978-4-254-16077-2。